『神』ってナニ?
女は気を取り直して子供2人に言った。
「『神に感謝を捧げます』と言ってください」
カミラはよくスズの言葉を繰り返すから慣れている。
率先して言った。
「かみにかんしゃをささげますと」
カミラ! 惜しい!
ノアも言おうと思ったところで女の「待って」が入った。
「『神に感謝を捧げます』だけでいいの。『と』はいらないの」
カミラは繰り返す。
「かみにかんしゃをささげますだけでいいの」
ノアも繰り返そうと口を開きかけたところで、女の「待ってっ!」と言うさっきよりも強い言葉で止めに入った!
「繰り返すだけでいいの『神に感謝を捧げます』」
カミラは納得して、また繰り返す。
「くりかえす」
今度はノアも言った。
「くりかえす」
女は発狂しそうになった!
何!? 何で言葉が通じないのっ!?
な! ん! で!?
素直な子供はいいのだ。
何度も何度も同じことをするだけで何となく遊びから学習する。
しかし、中途半端に子育てをされないで『奴隷』だった(本人達は知らない)、大人の言うことを聞かなければ蹴られる、と知っている子供達は言葉を理解しても「なぜ?」とは聞かない。
『蹴られるから』
そうして体に体罰を受けて育った子供は歪だ。
言葉を理解している(つもり)
繰り返す作業が得意
食べものをもらう為には大人が言うことをしなけばならない(お腹が空くから)
大人の言うことは絶対(殺されるから)
口数は最低限(余計なことを話すと蹴られる)
女は幸運な事に「人となる前の幼児を知らない」。
虐待をされて育った子供を知らない。
自分自身がまともな家庭で育った。
自分が1番末っ子だ。
いくつかの要因が重なった為に『理解できない』この空間が出来上がった。
「ぼそっ。落ち着くのよ。落ち着くのよ。落ち着くのよ」
そして、落ち着いた(つもり)の女が言葉を口にする(混乱している)。
「『神に感謝を捧げます』」
カミラは率先して口にした。
「かみにかんしゃをささげます」
ノアも口にした。
「かみにかんしゃをささげます」
子供2人は言い切って、女の反応を待つ。
女は変な気持ち悪い気分になった。
「この子供2人は、本当に神に感謝を捧げたのか?」と。
この疑問が女を狂わせる。
「ちょっと待って」とスープを食べだそうとしていた2人を止めて。
「あのね『神に感謝を捧げる』の意味はわかる?」
カミラは至極当たり前に答えた。
「食事を、するため」
ノアも同意見なので何も言わない。
『よく知らない』大人がいるので、余計なことは言わない(蹴られるかもしれないから)。
女は「食事をする為だけだけに『神に感謝を捧げている』のか?」と疑問になった。
でも、自分は小さい頃に「神に感謝を捧げなければ食べてはいけません」と言われて神に感謝を捧げていたのが習慣になったのではないか?
と、女はスレずに生きてこれた為に「子供達の意見に納得」してしまった。
『民』を守る「兵士」なので(この国では憧れの職業)。
女はなんとか(まだ)言葉が通じそうなカミラに聞いてみた。
「カミラ、神様って、知っている?」
「かみさま? しらない」
女は神を知らない子供がいるのが不思議だった。
神とはいつも『ソコ』にいるからだ。
しかし、女はまだ粘る。
「神様はね、この世を創った、偉い方なのよ」
もう、話が食事からズレている。
カミラは聞き取れたことだけを口にした。
「かみさま、えらい?」
女はやっと理解したか! 少し喜んだ。
「そう! 神様は偉いから感謝をするのよ」
なぜ、えらいと、かんしゃをするのか?
ついこの間に(じじいに)「ありがとう」を心で自覚して言ったカミラは不思議だった。
「かみさまは、わたしに、なにをしてくれるの?」
子供だからこその残酷な問いだった。
しかしまた「真実」である。
『神は何をしてくれるのか?』
『じじい』のように嘘の無い優しい無償の行動をしてくれるのか?
女は混乱した。
「か、神様はね、あなたを幸せにしてくれるわ」
「美味しい食べものを食べるよりも、しあわせに、してくれる人?」
食べるものに困った事のない女は固まった。
「神とは、そんな底辺な幸せをくれるのではない」と。
「食べものを与えてくれるのは親だろう?」と。
それを女は愚かにも口にした。
「美味しい食べものをくれるのは親でしょう?」
カミラは自分には当たり前のことを言った。
「おやはいない」
これを聞いた女は頭を殴られた気持ちになった。
『親がいる子供の食べものは親が用意するもの』
『親がいない「孤児」の子供は教会が神の許しを得て子供に食べものを与えること』
これを踏まえて『親がいない子供は神が身近にいる』のが当たり前だ。
女は思う。
考える。
『神とはなにか?』と。
女はまた愚かにも口にする。
「神様が、食事を恵んでくれるでしょう?」
ノアとカミラ顔を合わせた。
自分達に食べものをくれたのは誰だったか?
「大人の男が食べものをくれた」
女は親がいないこの子達に「大人の男」が食べものを恵んでいたと解釈した。
「え、ええ、その良い人の男がくれた食べものが、神様からの、お恵みね」
カミラは『良い人』のはずの女が、子供を殺した男を『良い人』と言ったのに驚いた。
スズは『悪い大人』と教えてくれたのに?
「子供を殺す大人がいい人なの?」
女は知らずに『神を冒涜する言葉』を言ってしまっていた。
頭の容量を超えた女は無言で立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。
残されたカミラとノアは「お腹、空いたね」と言い合って『神に感謝を捧げた』のに食べるのを止められたスープには手をつけられないので、カミラが持っている『箱庭』の倉庫からパンを取り出して2人で齧り付いた。
純日本育ちのスズは信仰心が薄かったので、賢くも言葉にしなかったのが、カミラ達の誤解を生んだのかもしれない。




