天神様と遊牧民
優しい『じじい』に「安心」して寝るように言われて、いつもように、あ、違う。
『いつもより柔らかい寝場所』で慣れないまま、ノアと一緒にひっついて熟睡したんだって。
スズが言ってた。
いつも日の出と共に起きるから、朝早くに起きていて『じじい』が驚いていた。
そして、また『温かいスープ』をくれたよ!
嬉しい!
なぜかスズが頭の中で嘘泣きをしていた。
バレるのにね!
って、言ったらスズの悲しい気持ちが伝わってきて、初めてで驚いた!
食事が終わったら『じじい』が外に案内してくれると言ってくれたけど、少しの間、部屋の外に出ておいてもらって、スズが言うままに行動してから、素早く『じじい』とノアといぬ? と外に出た。
そして『じじい』は、お別れの時に『背負いカバン』を私にくれた。
『じじい』に「ありがとう」と伝えたら、私の片目から涙が出て止まらなくて困った。
なんで、涙が出るのだろうか?
と、思っていると『じじい』に「人がきた!」と言われて道の横に隠れて、お別れになった。
この国でスズとノア以外に優しい人がいて嬉しかったけれど、スズに「これから危なくなるから、今までより人に見つからないように!」と強く言われた。
そうだよね!
そういえば『じじい』以外には優しい大人はいなかった。
しわくちゃな顔の大人だと優しいのかな?
と、考えたら「バカ」って言われた。
うん。
自分でも「私、バカだなぁ」と思うからバカなんだ。
本当に。
ノアに言ったら「よくわからない」って言われた。
とりあえずの行動は、スズと相談して『昼間に歩くけど、前のように人に見つかりそうになったら夜に歩く』と決まった。
ノアの眉毛がピンとしていた。
無表情が普通だったのに、最近はノアの顔がよく動くようになった。
私の顔はボコボコだけどね!
いつものように、左手をノアと繋いで歩いていく。
いつもと違うのは、私の背中に『背負いカバン』がある事。
カバンの中には服が入ってたよ。
後はよくわからないけど、スズが「水袋! 革製だ!』とか言っていた。
よく、わからないけど。
よく、わからないけど(3度目)『じじい』がくれたから大切な物だ。
生きている間は、ずっと大切にする。
あっ! 馬車が来た!
隠れなきゃ!
私とノアは道の横の草むらに飛び込んだ。
◇◇◇
ひ孫程の少女と少年が隠れた後に来た馬車には珍しくも昔馴染みの知り合いが乗っていた。
「おーい! ジーサンっ!」
「ミロクじゃないか、珍しいな」
パーズの眉間を撫でながら来るのを待つ。
ミロクは遊牧民時代の友人だ。
俺の名前はジーサンだ。
イントネーションが違うんだよ。
誰だっ!
『爺さん』と言うヤツは!
遊牧民は珍しい名前が多いんだ。
「ジーサン、まだ生きていたか。よかった、よかった」
「まだ、戦争が終わるまで死ねんなぁ。ミロクは何で国境近くに来たんだ? 本当に死んじまうぞ」
「いやいや、俺の使命は『一族を見守る運命』だぞ。天神様の授けてくれた天命は死ぬまで全うせねば、仲間の元に行けんわい」
「ははっ、死ぬまで『遊牧民』だなぁ。天神様は【永住地を見つけよ】と仰せになったというのに」
「ふははっ。我等の使命は終わっても、心は死ぬまで変わらんよ。お前も一緒だろう?」
誰もおらんからいいか。
「……この国は死ぬまで嫌いだなぁ」
ミロクも声を潜める。
「……国境が押されていたのは知っているだろう?」
仲間を案じているのか。
「……もうすぐ、この国は落ちる事は知っておるわ」
「……それがな、王都が、落ちた。ついでに国境も無くなって、敗残兵が追い剥ぎ殺し、口に言えん事もしよるらしい。この村まで来るぞ。身内と一緒に逃げんか? お前の家族だけなら連れて行ってやる」
「……孫娘と母親だけは、頼もうかのう。遊牧民の戦士は死ぬまで戦士だ。全財産渡すから頼むぞ」
ミロクが目を閉じて、ため息を吐いた。
「……この国と共に死ぬか?」
そんな気持ちは俺には、無い。
「長く生きているとしがらみがあるさなぁ。知り合いが多すぎて、全員に『逃げよう』と言っても、平和な村じゃ信じてはくれまい。
ただ、共に戦って、共に死ぬしかなかろうて」
「……そうか。お前の番が来たか。
もう、生きては会えんなぁ」
「ああ、パーズだけは連れていってくれ。馬と同じで雑草でも生き残るから」
ミロクがパーズを見ると、パーズは歯を剥き出しにして怒った顔をしていた。
ミロクが震え上がる。
「おおっ、こわやこわや。ジーサンよ、諦めろ。神獣は共に居ると決めた者を守るわい。ジーサン以外は守らんよ。お前の孫娘では代わりにならん」
ジーサンはパーズを撫でた。
パーズの思いが伝わってくる。
「そうか、共に戦ってくれるか。ありがとうな」
パーズがご機嫌に鳴いた。
ジーサンは、ふと不思議に思う。
主以外は助けない神獣のパーズが、幼な子を何故、導いたのかを。
そして単純なことに思い当たった。
「パーズよ、久しぶりにパンが食べたかったのでは、ないよなぁ?」
「実はそうだ」とウォンと鳴いた。
ジーサンは神獣だが、愛らしく愛嬌のあるパーズが妻と息子の次くらいには大好きだ。
「共に、どこまでも行こうぞ!」
◇◇◇
家に帰ったジーサンは、幼な子が寝て汚れてしまったシーツを変えようとして、机の上に山になっているものに気がついた。
机の上には『パン』が山盛りになっていた。
「ははっ。パーズが喜ぶな」




