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スキル『箱庭』で、私は『人』になる  作者: 春爛漫


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男の人の嘆き

 部屋の扉が開くと、ナニカを持っている男の人が部屋の中にある机の上に置いて、いぬ? を見た。


「ん? なにか、もらった? の、かい……?」


 いぬ? が食べているものを見ると、ハッとしたように私を見た。


「きみは、貴族、かい?」


 男の人がさっきとは違う声で聞いてきた。


 スズが頭の中で「ちがう」と言え! と叫んでいる。


「え、ちがいます」


 男の人が「ふぅー」と安心したような息を吐いた。


「生まれだけ、聞いても良いかい? そっちの男の子も」


「おや? は、いない。こども、は、うごかなく、なっても、いいから、たぶん、ノアにも、おやはいない」


 また男の人が長い息を吐いた。


「ああ、スープが冷めるといけない。温かいうちに食べなさい」


 しわくちゃな男の人がうつわ? を渡してきた。

 なんか、ぼう? っぽいのも?


 スズが頭の中で「スプーン」と言っているが、わからない。

 私、知らない!


「た、たべもの?」


 しわくちゃな男の人を見ると、変な顔をした後に、食べ方を教えてくれた。

 水、と、ぐ? やさいを食べるモノを『スープ』と言うらしい。

 スプーンでぎこちなくすくうと、口に入れるように言われたので、パクッと食べると、熱い!


 口を閉じようとしたら、ガツッ! と、スプーンを噛んでしまい、口の端から水が垂れた。


 しわくちゃな男の人は怒らずに食べ方をまた教えてくれた。


 熱いスープを飲むと、お腹が温かくなる。

 初めて、たべるもの。

 多分、おいしい?


「あ、あの、おいしい」


 しわくちゃな顔の男の人は、目を見えないくらいに細めた。


 あの、地下強制労働にいた『お兄さん』とは違う、優しい顔だ。


 『偽物の笑顔』と『本当の笑顔』は、こんなにも、違う。


 私は胸がムズムズして、スープを一生懸命に食べた。

 こんなに嬉しい食べものを、ノアにも食べて欲しくて、ペシペシと軽く叩いて起こして、しわくちゃな男の人がスープのうつわを差し出すと、ノアは私を見て受け取って食べていた。


 離れた場所で、獣の食べ物? を床に置いてから、しわくちゃな男の人もスープを食べ始めた。


 私が一番最初に食べ終わると、お腹がほかほかとしてきて、初めてパンを食べた時のように、しあわせ、を感じた。


 このスープは、パン以上の食べものだ。


 頭の中でスズが「話をしろ!」とうるさい。


「あ、あの、ココは、どこですか?」


 しわくちゃな男の人がスープを食べ終わった時に聞くと答えてくれた。


「ココはエイワール王国のミルド村だよ。畑で野菜をたくさん作って街に売りに行って生計を立てている。割と裕福な村だね」


 なんだか知らない言葉がたくさん出てきたけれど、スズは頭の中で喜んでいる。

 「もっと話して!」と、叫ぶのはやめて!


「あの、えーっと、ココで、暮らすのは、しあわせ?」


 しわくちゃな男の人は、よくわからない複雑な顔をした。

 私はそんな顔を見たのが初めてで、どんな気持ちの顔なのかわからなかった。


「俺はね、遊牧民だったんだよ。しっているかい? ゆうぼくみん」


「し、しってる」


 本当は知らないけど、スズが言えって!


「でもね、ある日ね、遊牧民は『旅人』になった。定住先を探し初めて、1人、また1人と仲間を置いて国々を歩いたんだ」


「す、すごい」


 って言えってー! スズが!


 しわくちゃな男の人が、寂しそう? に笑った。


「俺はね、この村で妻に出会って『家族』になったんだ。そして、息子が生まれた。3人もだよ。一番幸せだったのは、あの時だ」


 頭の中でスズが興奮している。


「この国がね、隣のジルバルト王国にね」


 しわくちゃな男の人が重い声を出した。


「戦争っをっ、仕掛けてっ、私の息子達はみんな徴兵されて、戦死、したっ!」


 あ、スズの興奮がおさまった。


「国境が、近かった、だけで……」


 しわくちゃな男の人が力の無い声を出した。

 あきらめている、人の声だ。


「だがね、俺には家族が残っていたから、妻が、孫が、いたから、徴兵されなかったんだ。俺が年老いていたから」


 強そう、だと、思っていた、しわくちゃな男の人が、目から涙を流した。


「俺はっ、この国の上層部をっ、殺してやりたいっ」


 小さな、小さな叫びって、初めて聞いたかも。


「……だがね、孫も家庭を持った。俺はもうすぐに、家族の元へ行ける。真の神が迎えに来てくれる」


 その後にポツリと、しわくちゃな男の人が呟いた。


「この国が滅ぶのを見届けてから」


 その声は、何故か、嬉しそうだった。


 スズは、何も言わない。


 しわくちゃな男の人は、私の見えている片目を見た。


「君たちは『ジルバルト王国』に行きなさい。ココにいてはダメだ」


「ここにいたら、だめ? なの?」


 なんだか、私のもとめていた、場所とは違うようだ。

 このしわくちゃな男の人がいてくれたら、きっと「しあわせ」になれると、なぜか、しっている気がする。


「そうだよ。その為には体を洗わずに今の姿の方がいい。『ジルバルト王国』は良い国だと聞いたからね。戦地は避けなさい。山を越えるんだ。この村を出るまでは案内するから、道を左に出てから、真っ直ぐに行くんだよ。……君は食べものには困らなさそうだからね」


 「なんかスキルがバレてるー!」とスズが叫んでいる。


 しわくちゃな男の人が続けて言う。


「武器を持つ男を見つけたら隠れなさい。森に入ると逃げやすいから、見つかったら木々を探しなさい。国境は森と山に囲まれているからね」


 私には「森に逃げろ」しか覚えられない。

 今までと、同じでいいの?


「君の顔は武器になる。誇りなさい。ジルバルト王国の教会は『奴隷と虐待と暴力』を許さない。君たちは無事に保護されるよ。今晩だけはゆっくりとココで安心して過ごしなさい。

 じじいは2階で寝るからね」


 しわくちゃな男の人『じじい』は、いぬ? と一緒にうつわを持って部屋を出て行った。

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