15-3<真実の瞬間>
それにしても、人は自分の勝利を確信しているときこそ最も油断している瞬間である。相手が手も足も出ない状況であればおさらだ。
女は卯早美におもむろに近づくと、卯早美に馬乗りになって勝ち誇る。
「とにかく、お前の母親の居場所を教えてもらおう」
「さあね。村にでも行ったらどう。まあ、あなたなんかじゃ村に着く前に死ぬのが落ちでしょうけど」
「だったらお前を人質に出てきてもらうまでだ。それができなければまずこっちの男に死んでもらう。父の代ではそちらがこちらを殺したのだから、子の代では逆に私がお前を殺してやる」
まあ、言っていることは復讐としては順当なのかなとは思うが、結局それまでである。それに卯早美だってこんな状況で動じることはない。そう、こんな状況では俺も動じない。
「それはどうかしらね。私を甘く見てもらっては困るわ」
卯早美がそういった瞬間、女は拳を振り上げる。しかし、その拳はしっかりと手首を掴まれたことによって封じられる。
「うちの部下に手を出さないでくれるかな」
女の手首を掴む淵田係長はそう言うと女の腕をひねりながら地面へと引きずり倒し、それを卯早美と同じ白いウサ耳の獣人がを引き継いで組み伏せる。
「ここまでして私と会いたかったというのなら光栄だわ」
さらによく見ればその姿は卯早美と瓜二つと言ってもいい。今の発言からも考えて彼女が卯早美の母親なのだろうが、まったく似た者親子である。そしてその卯早美の母親はそれだけ言うと女の首を絞め落として手錠をかける。
実は女が俺と卯早美に長い御託を聞かせる間、その後ろでは淵田係長率いるウサ耳軍団が女の後ろで四人の男たちを無力化していた。すでに勝敗の決しているのを女は気づかないまま俺たちに向かい続けていたのだ。
その後、淵田係長は卯早美と俺の拘束を解いて俺に言う。
「ここであったことは忘れなさい」
「俺の吹き飛んだ事務所はどうなるのよ?」
「ガス爆発にあったと思ってあきらめてもらうしかないな」
それから淵田係長は卯早美と何やら話し込み、その間にいつの間にかウサ耳軍団は去って淵田係長も去るとそこには俺と卯早美だけが残される。
こんなところに二人だけ残されてもといったところだが、卯早美が公安なら淵田係長もそうだろう。そうでなければ今頃ここには制服警官が来ていて俺は救急車の中だ。
そして俺は卯早美に声をかけようとするが、卯早美はいきなり俺の手を握ったかと思うとそのまま俺の腕を捻じり上げてそのまま組み伏せる。
「痛いぞ、ちょっと!」
「公安だの私の出生まで知って、生きて帰れると思ってるの」
そう言って卯早美はそのまま俺の背中に馬乗りになるが、言っていることとやっていることが違う。殺るならそのまま殺れる。と俺は痛がりながらもそう頭を巡らす。
「この際だから聞いておくわ。あなた、何者なの」
本来の目的はそれかと思いつつ俺は従来の前提は崩さない。というよりそれがこっちの世界での事実である。
「それはそっちが調べてた通りだろ」
「それでもわからないから困ってるんじゃないの」
「いでででで」
卯早美はそう言ってさらに俺の腕を極めるが、ここで真実を言ったとして卯早美がそれを信じるのかどうかということである。
「わかった、わかったからとにかく放してくれ」
「そのままで言いなさいよ」
「俺ぐらい逃げたところですぐに捕まえられるだろう」
さて解放されたものの、今すぐに言えという卯早美の圧を受けながら俺はどうするべきかを考える。普通に言えば張り倒されるレベルのことを言おうとしているのだから当然だ。
「早く言いなさい、言わないとさっきのじゃ済まさないわよ」
「それじゃまず、後ろを向いてくれないか」
「え?この状況で向くと思ってるの?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うだろう」
どうもこのことは面と向かって言えることではないと考えるとこうするしかない。俺は後ろを向く卯早美にそっと近づくと後ろから優しく抱き寄せる。
「まずはどこから話したもんかな」
「言っておくけど、この状態なら私が手を出せないと思ったら大間違いよ。覚悟してなさい」
まあ、それが事実かハッタリかはともかくとして俺は前世の生まれから話し始めた。俺の記憶の中の世界を含めた時系列だ。そして卯早美はそれをただ静かに聞いていたのである。




