15-2<戦後の闇>
女は俺のことを見下ろすが、しばらくすると腰を落として話しかけてくる。
「この際だから教えておこう。我々の復讐とは何なのか、この獣人の正体は何なのか」
俺は終始無言を貫くが、女は卯早美に目をやるとその復讐について話し始める。だが卯早美を蹴ったこんな女の話が聞くほどの価値があるとも思えない。
「あれは、我々が戦争に勝った1945年」
「昔話は長くなるぞ」
「いいから聞け!」
ただの懸念を伝えただけでこれである。
「あの戦争に勝った我々はこの日本を統治するために都市、軍事施設、獣人を抑える必要があった」
都市や軍事施設はともかく獣人とは・・・。実は日本であれば普通に見る存在であるが、海外ではもはやほとんど存在しないものとなっている。それは海外では長く続いてきた迫害が原因だ。
ヨーロッパではその見た目から言葉の通じる動物として奴隷化しようとしたため、それに抵抗する獣人と人間の間で戦いが発生した。団結した獣人が国に反乱を起こすことを恐れたヨーロッパの国々は、宗教と結託して存在そのものが罪とされる亜人として多くの獣人を殺した。そのうえそれは大航海時代でヨーロッパが世界中に植民地を広げる中でも続けられたのである。
そしてアメリカでもインディアンと同様に迫害の対象とされ、土地を奪う目的で開拓の名のもとに多くが殺戮された。そして中には奴隷とされるものもいたが、自分たちは家畜ではない、人間の発展のために存在する意味はないとして子孫を絶やした者たちもいる。
そんなこともあってこっちの世界での太平洋戦争では獣人たちの活躍も各地であったのである。
「私の父は連合国軍総司令部の一人として獣人のいる村を回ることになっていた。だが、父は獣人たちの村を回ることもなく死んだ。落石による事故でな」
さて、長い話になりそうである。
「最初は仕方ないと思った。だが大人になって私の父親と同じような任務に就いていた軍人はことごとく事故死していたことを知った。落石に橋の崩落、火災、数えればきりがない。
結局連合軍は人間のいる都市と軍事施設以外は抑えることはできなかった。地方に派遣した軍人が相次いで死に獣人たちの統制をあきらめたんだ」
どこの戦勝国か知らないが、歴史上遺伝子レベルで獣人を迫害してきたのが来るとなれば獣人たちがそれだけのことを仕組んでもおかしくはないだろう。それに歴史上そんなことをやってきた奴らが獣人を統制しようなんてぞっとする。
「統制をあきらめた復讐をするなら母国にやれよ。そんなに嫌だったらなら進駐している部隊でも動かせばよかっただろう」
「素人は黙っていろ、それにこれは父の復讐だ。そして私はCIAに入って父の死の真実を知った」
まあ、もし進駐軍が軍に物を言わせて獣人たちを支配しようとしていたら、1945年に日本の一部はベトナム戦争の様相を呈していただろう。そしてどうやらこちらさんたちはアメリカ人ようである。
「日本は降伏後も連合軍を獣人から遠ざけるために忍者によって地方へ向かう軍人の暗殺を行っていた」
元の世界の知識だとただのトンデモ発言だが、歴史書を見るとこっちの世界の忍者は元の世界の空想だったはずのことを実際にやっているから困る。
「そしてこの卯早美の母親こそが私の父親を殺した犯人だ。父はこの女の母親に村への道を聞き、その道で落石に見舞われて死んだ。最初から父を罠にはめるため、この女の母親が暗躍していたんだ」
「だとしても娘は関係ないだろうよ」
俺は吐き捨てるように言うが、正直なところ卯早美関係の話となると非常に興味が出てしまう。
「いや、この女も母親から忍者というものを受け継いできている。普段は普通の刑事を装っているが、こいつは日本の公安警察だ。本来の公安警察の者を我々と接触させないために、我々CIAとの連絡は全てこいつが担っている」
「あなた達に公安警察にいる者の顔をさらす必要なんかないのよ」
この長い話が始まってから卯早美が初めて口を挟む。だが、女はそれを無視して俺に迫る。
「これで、この卯早美の正体が分かっただろう」
「CIAに忍者に公安にってか」
「そうだ」
何のことはない。ここまで長い話を聞いて知ったのは獣人を長く迫害してきた奴らの手から獣人が自らの身を守ったというだけである。それにこんな話、次の三つも話に出てこないと話に面白みもない。
「それで、KGBとFBIとMI6はいつ出てくるんだ」
「っ!!」
次の瞬間、俺は顔面を蹴っ飛ばされるが、幸いにして鼻だけは逸らすことができた。だが、よくこんな短期なのがCIAだなんてなれるものである。
それにしても天下のCIAの末路がこんなものとは何とも哀れなものだ。それに、そろそろ主導権は卯早美の方に移りそうなので、あとは高みの見物でもさせてもらうことにしよう。




