14-3<本当の対決>
猫柳の件から数日たった卯早美たちの係は非番だという日、俺の前に卯早美が現れた。
「今から時間空いてるかしら」
そう言われて俺は卯早美が運転してきた車に乗り込み、今回の用件を聞く。
「何かあったか?」
「この前は猫柳がしつこかったでしょう」
「まあな、でも話して納得すればあとは早いからな」
「それがあの子のいいところよ」
卯早美によればその後の猫柳は機嫌がよくスッキリした様子であったというが、わざわざそれを卯早美が伝えるためにここまでしているとは思えない。
「それでこれからどこに行くんだ?」
「すぐそこよ」
それだけ言うと卯早美は運転をしながらさらに続ける。
「そういえば、あなたのおじいさまとおばあさまは東北の生まれだって聞いたのだけれど」
「ん?まあそうだけど、そんなこと言ったことあったかな?」
なんかよくわからないことを聞いてきたと思ったが、それを聞いた卯早美の声はひどく落ち着いていた。
「湊慶二、1945年12月7日生まれ。
孤児院育ちで父親と母親は不明。」
中学卒業後は三年間建設作業員を務め、
その後は陸上防衛軍に四年間所属、
それから警察署の目の前に探偵事務所を開く」
卯早美の声、そして俺のことをよく調べているということでよくわかる。卯早美は俺を猫柳以上の疑いの目で見ている。
「それがどうかしたのか?」
「両親が不明なのに、祖父母が東北出身だってどうしてわかるのよ」
「それは、小説を書いているペンネームの俺の設定だな」
「先ほど肯定した後に、突っ込まれると設定になるの」
適当なごまかしは卯早美には通用しないが、だからといって引くわけにもいかない。それで押し切るしかないだろう。
「現実が存在しない以上、設定の話になるだろう。自分の過去がない分、自分自身の設定を作りたくもなる」
「じゃあ、質問を変えるわ。建設作業員の時、あなたは必ず命綱をすることから腰抜け扱いだった。にもかかわらず、今ではヤクザの拳銃を奪い取ったり命の危険がある状況でも動じない、いや、死を恐れていない。それはどういうこと」
「防衛軍に四年もいて鍛えられたのかもな」
確かに言うほど俺は死ぬことを恐れてはいない。前世の死に方に比べれば大抵の死に方はまともな死に方だろう。建設作業員の時なんて死を恐れていたわけでなく、中学を卒業して自由にこの異世界を見ることができるようになったのに事故で死んだりしたらもったいないと思ったからである。
「それで、何を聞きたい。まどろっこしいことはあまり好きじゃないんだがな」
「ええそうね。あなた、何者なの」
「ただの探偵だぞ」
もちろんこんな返事で卯早美が納得するわけもない。
「私とあなたが今までかかわってきた事件、私はあなたが最初から事件の答えを知っていたとしか思えないのよ」
「それが俺の真実を求めるやり方だからな。先に犯人を決めつけてそこから突き詰めていく、その最初に決めた犯人が毎回当たっていたというだけだ」
思いのほか見抜かれている。だが、いくら卯早美と言えど俺を追い詰めるだけの証拠を集めることは不可能だ。俺は今まで人畜無害に生きてきた、そしてすべては俺の頭の記憶の中なのである。
「そう、まあいいわ。ここまでよ」
そう言われて着いたのは俺が先ほど車に乗った場所、探偵事務所の目の前である。
状況的にはなんとかなった。しかし卯早美が味方ならこれほど心強い者はいないが、敵にしないまでも疑惑を持たれたままというのは厄介である。
卯早美、今までの彼女を見れば真実を伝えてもいいかもしれない。だが、もしそれを言ってしまったらそれを忘れてもらうことはできない。中々に苦しいものである。
・・・・・
夜の布団の中、私は今日の出来事を振り返る。
湊は何も尻尾を出さなかった、それが今回の結論である。確かに経歴上では怪しいものは何一つない。しかし今までかかわってきてその人間性、事件解決における過程にあまり不透明なところがある。
それに大抵の相手であれば私の直感で大体のことはわかる。そいつが人を殺したか、殺してないか、嘘をついているか、嘘をついていないか。だけど湊に関してはその直感が上手く働かない。
あの湊の祖父母の話がいい例で湊の祖父母が出身地の話、私の直感では湊は私に嘘はついていない。だけど湊に祖父母はいない。直感を現実が否定する。だからこそ怖い、今までの自分が通じない計り知れない恐ろしい相手。うちの祖母に言っても『直感を信じなさい』とはいうが信じれば矛盾となる。
初めて会った時、私たち警察に対する敵意を感じるどころか逆に友好的な雰囲気すら感じた。今でも何回会ってもその直感は変わっていない。だけどそれすらどこから信じればいいのか。私に対する好意も本当なのかわからない。
少なくともこれからは今までの関係ではいられない。湊は何か大きなものを私から隠している。でもその隠しているものがとても不都合な物だったら、私は湊を逮捕できるのか、湊が私を殺すつもり出来ても私は湊を殺せるか、敵かどうかも分からないそんな状況をどうも振り切れそうにない。




