3 ホルスターが気に入らないらしい
バトルシーンといったな、あれは嘘だ。次がバトルになってもうた。
汽車を降りてアトラス到着。すばらしい景色である。
オレンジ色を主体とした家屋が立ち並び、鐘の鳴り響く協会や活発な露店からは香ばしい匂いが立ち込める。人の行き交う街の中には田舎とは果てしなく違う人々の営みが熟成されていた。田舎好きだけどね。静かなの大好き。
ただし食べ物。あんたは別だ。
「……食べないという選択肢は犯罪だと思う」
「……まあ、わたくしも、見聞を広めなくてはなりませんし?」
「どうせ誰にも文句言われないって」
「行きましょう」
立ち食い歩き食い、貴族にあるまじき! と普段ならば怒り散らすであろうが、たまにはこういうことも悪くない。ちょっとのハメ外しってすっごく大事だよねと露店商から肉を固めて油で炒めた串焼きを購入。湯気が立ち込めるその肉棒からは香ばしい香辛料の香りが『香!香!香!』と主張を繰り返している。ぱくりと一口。
「あっふ!!あふ!あふ! ……うんま」
ひとり火傷しながらほおばっていたらしく、隣のアリシアは息を吹きかけながら冷やしていた。肉棒の塊、串焼きに、ふー、ふー、と。
「なんかやらしいね」
「は??」
思わずこぼれた下ネタに真顔で意味わかんないという表情を返された。うん。こういうのは『漫画知識』の弊害とおもう。毒されてるなー、ボク。
食事タイムですらないのでおやつタイムという時刻に串焼きを食べ終えゴミを捨てると、近くからくる粘っこい視線に気がついた。顔もニヤついている品がない女であるが、服装からしてすこし貴族か。
白いブラウスに白いスカート。その上から装飾品を重ね重ねにしており、われこそは貴族であるという自己主張を強く出している。ようは、物でしか強がれないのだ。
そんな女はニヤついた顔を浮かべながらこっちを―――いやこれアリシアですね、ボク眼中にないっぽいですわ。
「あらあ〜。田舎崩れの貴族のお嬢さんには、首都の食べ物がそんなに珍しかったのですかぁ〜?」
まさかのケンカ売りである。貴族だろアンタと一瞬の驚きで固まってしまったが次の瞬間にあれこれマズイのでは? と隣をみた。
「………は?????」
うわー。マズイどころか超マズイですわ。
ガチギレの友がそこにいらっしゃった。串焼きの棒がまだ口元にあったらバキっと食い始めてもおかしくないほどのお怒りだ。しかも親子ゲンカで虫の居所の悪さ継続中。猛犬注意の札を背中に貼りたい気分だよ。
「いえいえ。田舎のお嬢さんには珍しいのは致し方ないこと。ですが、気になったのは貴女が付けているその『腕輪』です。どうも見るからに『錬成師試験』を受けにきた『田舎のお嬢さん』のようですが、恥をかくまえにおかえり頂いた方が―――いいんじゃありません?」
わざわざ溜めて、ぷっと笑ってみせてきた。煽りに関してはなかなかの高段者である。師範クラスあるよこれ。尊敬しないけど。
「…………くだらない煽りに対してなにかをお説教してあげる気分ではありませんが、そこまで言ったからには覚悟はできていますのよね?」
「あら〜。怖いわあ、田舎娘は血の気が多いこと。どうせ試験を受けても、ここでワタシに倒されても変わりはありませんよねえ? よろしければ、試験前の準備運動がてら『デュエル』を受けていただいても構いませんが?」
『デュエル』という言葉に街の人々の視線が一斉にふたりへ降り注いだ。
うん。なんか聞いたことあるよ。こっちの場合、カードじゃないんだよ。たしか賭博の分野で、錬成師の勝負。
「いいでしょう。この際ですから、クノールの名を首都アトラスに知らしめてあげますわ」
「……クノール!? ぷぷっ! クノールですってよ、みなさん!」
女の周囲を囲っていた男たちがゲラゲラと笑い飛ばす。どうやらお付きの方々であるらしいが、やはり見てくれがわるい。似たような白い服にズボンだが、顔つきが悪人のそれである。あれじゃゴロツキだ。
「御託は結構ですわ。はやく始めましょう。首都なのですから『戦審』の方がいらっしゃるでしょう」
アリシアの言葉に群衆からひとりの男が手をあげた。シルクハットの帽子に黒スーツ。くるりと曲がったおヒゲがチャーミングなおじさんだった。
「では、不肖このジャッジンが戦審を務めましょう!! さあ皆々様方! お分かりのことと思いますが、これより始まるは錬成師による木符での『デュエル』! この勝負には賭け事が許されておりますのでどうぞ皆さんご参加ください! さあ張った張ったぁ!!」
男が胸元にバッジを取り付けると、群衆が駆け寄っていった。
その一帯からはオッズは!? 俺はアトラスの女に賭けるぞ! 俺もだ! という声が巻き起こっていた。
「ではではオッズはアトラスの少女に2000。クノールの少女に1000といった具合で如何でしょう! それでは集計を開始いたしますぞーっ!」
なんだか賑やかだ。だがそんなことはどうでもいい。
ちょうど首都にきてから色々と買いたいものが眼に付く有様だったのだ。これはちょうどいいお小遣い稼ぎ。
群衆がすこしはけるのを待ってから、カノンはジャッジンに近づいた。
「おじさん。クノールの方に賭けたいんだけど、重ねがけってありなの?」
「うん? そうだねえ。いまなら思った以上に差に開きがあるし、うん、構わないよ」
「ありがと。あと手数料とか、胴元の取り分とかはあるの?」
「はっはっは。詳しく聞くねえ。今回については発生しないよ、勝てば全部君たちのものだ!」
「じゃあ重ね掛け、クノールで」
本を机に置くような気軽さで、ジャッジンに手持ちのほとんどを渡した。
「ぬぬっ! お嬢さん、なかなかの勝負師だねえ! さてはクノールの方の知人かな?」
「うん。そうだよ」
「ふふふ。結構結構。友人を信じるのは大事さ! けどね、このアトラスは錬成術がとっても盛んな地域なんだ! 首都だしね! そしてあのアトラスの少女は服装からして錬成学校のアトラス院で学んだ子だよ! あの学校は入るは狭き門、残るは茨の道と言われててねえ――――」
「――うん。良いから、もうさっさと始めようよ。戦審の合図を待ってるよ」
「おおっと失礼! では、参りますぞ! お二方、準備はよろしいか!?」
「ええ。いつでも、この田舎娘を飛ばしてあげましょう」
「…………いつでもどうぞ」
眼に光が消えていらっしゃる。うん、これ終わったら勝ったお金で何か奢ってあげよう。ボクのためにも。
これから一緒に歩く友の姿に恐々としながら、開始の合図を待っていた。
ちなみに負けることを考えないのかって話については、そもそも前提条件で勝ちが決まってるとしか思えないので割愛。蟻と象の戦いだしね。しかもタイマン。
どっちかっていうとどう『腹いせ』をするのかが気になる。
そんなことを考えていると、ジャッジンの声が高らかに響いた。
「それでは両者見合って――――――デュエル、開始ぃ!!!!!」
弱いものイジメが始まった。




