1 レベルアップは完了したのだ
師匠生きてんのかな
思い返せば月日は光陰矢の如し、軌道衛星『ライブラ』の一件からもう半年も経っていた。時間の流れって早いわあ。……ことわざ、あってるよね?
あいもかわらず師匠の動向は掴めていないが、ボクたちはボクたちの生活を進まなければならない。そんなわけで半年ものあいだ何をしていたかというと、これまたあいもかわらず訓練鍛錬、血みどろ体験だ。
『ライブラ』とかいうあれがなんのために作られたのかもわからずじまいで毎日のようにあそこに通うアリシアの気がしれたもんじゃないが、とにかくボクたちが『錬成師』としてやっていくために必要なものが揃っていて、機能していた。
一番大事なのがデュエルシミュレーター。そう名付けた。うん、かっこいい響きだよねヨコ文字っていうの? カタカナ表記ってあこがれるー。漢字もいいよね、いつか日本にいけたらぜったい書道を習うんだ。
それはさておき、ほろぐらむ? だか、なんだかの実態がふわっふわな仮想敵を相手に実戦形式の鍛錬と称してそれこそ何千回とこなしたのだ。
もう死線のバーゲンセールだった。死なないけれど死ぬかと思った。
なんてったってシミュレーターとは名ばかりで直に痛いっていう。血は出ないけど痛みは出るし、休みもなく動き続けるスーパーハードモード。漫画で得た知識を使うならば、サッカーを全力でやったあとにバスケットとバレーボールを5分休憩を挟みながら丸1日ぶっ通しで繰り返すぐらいの体力消耗。いや、ほろぐらむの化物カルマを相手に延々と戦い続けるっていったほうがわかりやすいのかな。
そりゃ血はでないよ? でも死ねるよ? やってみ? 死ぬかと思うから。
シミュレーターの設定を詳しく聞いたら痛みが起こる感度設定だか難易度設定を最強レベルにまで押し上げていたらしい。痛がるボクらをみてアスカさんが愉しそうに笑っていたのがいまでも背筋を凍らせる。趣味わるい。
そんな臨死体験ギリギリな行為でレベルアップを図りつつ、『ライブラ』という場所がなんのためにだれが作ったのかも少しずつ調べることができた。結局わからんかったけどねー。
『ライブラ』には管制室がある中央区だけじゃなく、資料館のような大規模施設や植物や生き物を育てられそうな農業施設もあった。ほとんどが稼働してないうえに再稼働の目星もつかなかったけど。お掃除ロボットがある程度キレイにしてくれてたから今後の修復に期待というところだ。ビックリしたのはあの場所の規模だ。人が何万人も暮らせそうな広さがあった。ゴーストタウンでしかないけどね。
アスカさんという人についてもいまだになにもわかっちゃいないが、記憶喪失の件は嘘偽りなく本当のことであるようだ。最初は正直ちょっと疑ってた。ごめんねアスカさん。
師匠がいなくなった当時はアスカさんは『ライブラ』にある医療施設で『こーるどすりーぷ』状態になっていたらしい。くわしい意味はわからない。
まあなんか熟睡してたとかで警報で眼が覚めたら師匠がいなくなってたとかいう状況でまたひとりぼっちになって泣いていたとかなんとか(本人は認めていないが『マザー』からちょこっと聞いた)。
それで『ライブラ』とクノール村を行き来しながら立派な『錬成師』を目指しつつ、ようやく『カルマ』の討伐や星の危機を救うために本格的な活動を開始しようと思い至ったところなのだ。あとついでにボクを捨てた親を探す旅。あくまで、ついでに。
「よーっし! それじゃあ『錬成師』として第一歩を踏み出そうか!」
鼓舞するような大声は慣れていないけれど、たまにはね。大きな声で隣の金髪碧眼の少女、アリシアへと声をかける。尖った耳はピクリと動き、その口から驚きの言葉が発せられた。
「……カノンさん。『錬成師』は『世界再生協会』の資格試験を受けて、ようやく成れるものでしてよ? 自分から自称するだけでは『エセ錬成師』であって、ただの痛い人ですわ」
「……あれ? 資格試験なんて必要なんだっけ」
「……貴女という人はぁー……」
試験という言葉に冷や汗がでる。文字、勉強、頭脳、解析、机の上で行うありとあらゆるものはボクにとって最大の難敵である。学び舎の授業なんてほとんど寝てたもの。なんでみんなは先生の睡眠グボイスを聞いていられるのか、ふしぎでならない。
「それって、筆記試験とかある?」
「当たり前でしょう!」
返答に頭を抱えた。耳を塞いでうずくまるも既に脳内に入り込んだ言葉は頭のなかで反芻されて脳内負荷を与え続ける。
しまったなんということだ。勉強なんてなんもやってない。計算問題なんて出された日にゃ翌日まで知恵熱がでるかも。
「よし。決めた」
「……なにを」
「当然、実技試験もあるんだよね」
「……ええ」
「実技だけで『錬成師』になる!」
意思を固めて空を見上げると、腕を強く引っ張られた。
「うわお、なにすんの!?」
「これから試験会場のある『アトラス』に行くまでミッチリとお勉強ですわよ!!」
「ええー! せっかくの列車なんだし楽しもうよー」
「誰のせいで楽しむ余裕がなくなったんですかっ!!!」
思いのほか怒りのレベルがたかい。どうやら道中の旅を楽しみにしていたのはアリシアも同じだったらしいので、謝罪の気持ちは少しだけ芽生えた。……それと勉強とは話が別だけどね。列車で勉強なんてしたらアスカさんみたいにゲロゲロ吐いちゃうよ。
そんな日々を生きて、ボクたちふたりはいま、アドランテス国の首都アトラスへ向かっている。




