23 ハルの思惑
今回で一章終わりという形にして次章からは『錬成師』の協会編にでも移ろうと思います。
――日本に戻れなかった。
「まじやべえって」
なんどめか覚えてない悪態も返事がなきゃ虚しいもんだ。ちょっとだけアスカの気持ちがわかった気がする。
まさかこんなタイミングで転送が失敗するなんて想定の範囲外オブ想定外だ。たすけてホリエモン!と心の中だけで叫んでいる。声に出したら何が襲って来るかもわからない。ふざけていたらまじでおっ死ぬ五秒前! 眼の前に広がるは薄暗く黒い霧の森。命の危険が危ないやばい。
いずれ『転送術』が機能しなくなることは予測できてたんだが、まっさか直接妨害にくるなんてなー。
日本に戻ったらこっちに来れなくなるだけだとばかり思ってたぜ。まさか日本にすら戻れないなんてな。奴さんもなかなかやってくれるぜ! ……ほんま、準備なんもしてねえよ死にたくねえよ怖いよまじで。あ、なんか陰で動いた! ……なんだ蛇かよ驚かせ―――いや噛まれたら死ぬだろ。いますぐこの場を離れなければと走り出す。
いまの俺の現状は見知らぬ土地に飛ばされて飲み食いも自給自足しなきゃいけないメタルギアでスネイクなポジションなわけだが、俺こと『桜木 春風』のピンチ以上にマズイ状況が起こってしまっている。
それはあのふたりだ。
本来ならあのふたりにはもうちょっと時間をかけて半年くらいたってからカルマの退治をさせて『ライブラ』に行ってもらう予定だったのに、これじゃ予定が全部パァだ。
なによりまずいのはアリシアだ。
アリシアがいるのはマズイ。ひじょーにマズイ。あいつの知識欲は東大レベルかオックスフォードとかそのくらいだろう。行ったことないから知らんけど。
とにかく、アリシアが『ライブラ』で本格的に学び始めるのは確定的に明らかというやつだ。まじやばい。
なんとしてもアリシアが気づく前に戻らなくては、冗談を言っている暇すらないかもしれない。いつも飄々としている姿をしてあら素敵だとか村のおばあちゃんたちにも言われるように努力していたがいまじゃ心臓がバクバクして止まらない。
はやく戻らなければすべて御破算、無意味になっちまう。いくら『マザー』がいても限界がある。
戻してはいけない。戻すわけにはいかない。
なんとしても、アスカの記憶が戻るのだけは阻止しなければならないのだから。




