22 ハイ○○○とかダーク○○○のような
「ごほん。ほかにも色々気にあることがあるだろうから、とりあえずはこのパンフレットを渡しておくわ。あなたたちはどうやらこのラボにくる転送術でいつでも来れるみたいだけど、基本的には来館時間を守ってくれるとあたしも起きてるし、ありがたい。今日はこの辺にしてそろそろクノール村に戻らないと、村の人たちも心配するんじゃない?」
言われてからハッと気がついた。遺跡に入ってからどのくらい時間が経過したのか。
「寝ていたのは8時間くらいよー」
と先回りするように答えが返った。
「というか戻るって、師匠みたいに事故でどっか飛ばされるとかないの?」
「未知の技術で信用もできないでしょうけど、問題ないわ。クノール遺跡のカルマが消えてから地域一帯の安定度は格段にあがったし、そもそもおそらくアイツが消えた理由は日本への帰還時、そのときにカルマの影響を受けてどこか別の場所に飛ばされたって予測が出ているわ。ちなみにいまこの施設はこの場所、生活関連以外はほぼ機能不全を起こしているわ。観測機能はなんとか使えるけど、少しずつ解析をして復旧を目指しているところね」
情報で頭が沸騰しそうだ。
そろそろ理解の限界点を超え、考えることを止めたくもなる。
「……ええっと。ここにはまた来れるわけ?」
早くクノール村へと戻ったほうがいいとは思いつつ、最低限のことだけは聞いておきたくて、そんな言葉を口にした。
「……あたしは大歓迎だけど。いいの? あたしが口でどれだけ安全だって言ったって、それが本当かもわからんでしょうよ」
「わたくしはまた来ますわよ!」
カノンがいうより先にアリシアが叫んだ。
「わたくしは木符や歴史の調査がしたくて錬成師になりたいんですもの! こんな最高の研究対象、なにがあったってまた来ますわ!」
妙に静かでキョロキョロと眼を輝かせていると思ったら、琴線に触れていたらしい。しかし記憶喪失の女と地上に『制約』があるとかいう状況で簡単に調べ物ができるのかという疑問は胸にしまっておくことにする。
「ボクはちょっとお願いしたいことがあるっていうだけかなー、うん。師匠が日本から来たんなら、ボクもそっちに行ってみたい。できるんでしょ?」
「まあ、可能ではあるわね。その場合は当然、ハルと同じ事故を防ぐためにも、安全のためにカルマを安定値まで制御できてからだけど。……それを報酬としてお望みってことね。こっちはむしろできることなら、なんでもしてあげるわよ」
「なんでも???」
アリシアの双眸が見開き、圧力に似たものを感じ取る。カノンは漫画の妙な言い回しの例に少し笑いそうになる。
「え、ええ。まあできることならね」
「充分ですわ! わたくしはすぐにまた来ますからね! 今度はこの施設をもっと華やかに彩れるようにお土産もご用意いたしますわ!」
「ああ。お構いなく……」
そんな会話を一通り終えて、カノンとアリシアのふたりはクノール村へ帰還したのであった。
「ああ。最後に言い忘れていた」
送り出す際に、アスカはふたりへ声をかける。
「アイツ、自分はもっと若いーとかよく言ってたでしょ」
「ええ。言ってましたわ」
「痩せこけた老けヅラで」
いない人間への罵倒に脂がのる。
「それね。実はアイツが降りていくときには、いつも変装してもらってたのよ」
「……は?」
「変装、ですの?」
「そう。実はアイツの顔は、とある容疑のかかった人物を模して被らせていたもの。それを被ることでクノールや周辺にくる人間、街や集落から手がかりを掴もうとしてたの。本当のアイツの顔はもうちょい若いのと、あたしたちとは大きな違いがあるわ」
「ええ……」
いつも見ていた顔が容疑者だとか別人だとか言われてもはや考える気力すら失せている。アリシアが聞いていればいいかとカノンが右から左へ流すつもりで聞いていると。
「あたしたちとアイツとの違いはね。耳よ。ハルがきた日本や、その世界の人は耳が丸い。あたしらみたいに耳はとんがっていないのよ」
耳、と言われて、ふたりの耳もピクリと動いた。細く、尖端が鋭い耳。
ああ。だから漫画のほとんどのキャラクターは丸くて、エルフとかいう人たちだけ同じ耳してたのかー。とぼんやり考えていたカノンの頭にふと疑問符が宿る。
光りの渦に飲み込まれる最後、転送が完了する直前におもわず口を開いた。
「――ん? ってことは、アスカさんってあたしらと同じ―――」
ぷつん。通話が切れるように声と主は光のなかへと消えていった。
「…………言ってなかったっけ。あたしは日本人じゃないって。……多分だけど」
曖昧な記憶は出生、出星すらも危うい。けれど耳については両名と同じくトンガリのある鋭い耳だ。身体的特徴からはこの星の人間なのだろう。
……それでも、文明のレベルを考えると、地上における大戦時代以上の超高度文明が、この場所『ライブラ』にはあるのだけれど。
「まあいっか。のちのち思い出すでっしょ~……」
久しぶりの対人会話に気持ちのいい疲れを感じて伸びをしつつ、アスカは管制室へと戻っていった。




