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14(11)全てを裏から画策していた二つの影


財務諸本部の廊下は、夜間ゆえに澱んだ薄暗さに包まれており、人の気配はほとんどなく、ただ遠くの壁伝いに空調の低い駆動音だけが、絶えず低く響いている。

その冷え切った廊下の奥で、ヘイヴンとリーズが静かに向かい合っていた。リーズは周囲に警戒の目を配りながら、懐から小さな記録媒体を取り出す。


「どうも。そのなりすまし装置、便利でしょ」


ヘイヴンはそう言うと、リーズはもう一つ手にしていたものをひょいと差し出した。

それは、人の肌の質感を精巧に模した、顔を覆うための薄い特殊マスクだった。ヘイヴンはそれを無造作に受け取ると、表情を変えずにじっと眺める。


説明会にリーズが出席しなかったのは、これを取らせるためだった。


「簡単に言うなよ」


リーズは煩わしそうに肩をすくめた。


今回はリーズにかなり無理をさせた。ヘイヴンが持つ人づての情報ネットワークで、告発が行われていた事はすぐに分かったが、その発信源をどうやって特定するか。

メールそのものをコピーするだけじゃ意味がない。サーバーに残っている原本と、そのメールがどこから送られてきたかを示す記録が必要だ。説明会は保安局で行われるので、好都合だった。リーズがマスクを使って保安局の重役になりすまし、管理している部署に入り、メールの確認が必要だと言って侵入したのだ。


リーズはヘイヴンへ再び記録媒体を差し出し、完全に手渡した。


「ふん……こんなものがあれば、私なんぞ利用しなくても、お前一人でこの国を支配できるんじゃないのか?」


マスクを指さして、嫌そうに言う。開発したのはベルナールだが、確かにこのマスクがあればパトリック首相にだってなりすませる。だが、それでどうにかできるならこんな遠回りな作戦は実行しない。

ヘイヴンは記録媒体を指先で受け取りながら笑った。


「そんな単純な話じゃないことは、あんたも分かってるでしょ」


ヘイヴンは手元の端末を取り出し、その記録媒体を素早く接続する。モニターの光が彼女の横顔を青白く照らし出し、表示されたデータを一つずつ慎重に確認していく。

受信日時。受付番号。改竄されていないメールの原本。そして、送信経路に関する詳細なデジタル記録。

しばらく画面を凝視して、間違いないことを確認した。


「これで、誰がこの告発メールを実際に送ったのか……その発信源を特定できる」

「私にやらせるとは……相当、お前たちもピンチに立たされているようだな。ただ、もう私にあんな危うい真似はさせるなよ」

「あなたも自分の命がかかっているんだ。いずれにせよ、やらなければあなたも困る」

「……随分な言い方だな」

「事実ですよ」


ヘイヴンはようやく顔を上げ、冷たい瞳でリーズをとらえた。


「この告発を誰が行ったのか。一番疑わしいのはあなたです」

「ふん、どうかな」

「この告発を、なぜ政府の正規の窓口ではなく、あえて保安局に持ち込んだのか。考えられる理由は一つ。送信者が、もし政府に直接持ち込めば、この告発は裏で綺麗に揉み消されてしまうかもしれないと考えたからだ」


ヘイヴンは自分自身の胸を軽く指差した。


「特に私は、ギヨームという強大な盾が後ろにいたからね。政府に持ち込んだところで、彼が政治力で動けば、告発は無意味にかき消されるかもしれない」

「……」

「だが、そうなると送信者は、政府の内部事情や権力構造を熟知している人間になる」

「確かに、その理屈なら私が一番怪しいな。だが、よく考えてみろ。私はギヨームよりも上に立つ人間だぞ。それに、お前が進めているあの計画が万が一漏れれば、それに加担している私も共犯として容赦なく罰を受ける。私がそんな危ない橋を渡ると思うか?」


リーズの言う通り、ヘイヴンの悪行が暴かれることがあろうものなら、芋づる式で断罪されるのはベルナール、ルナ、そしてリーズも当てはまる。


「……今、ベルナールがあなたのこれまでの行動を裏で洗いざらい調べている」


ヘイヴンは端末をカチリと音を立てて閉じた。


「もし、あなたがあの告発を行っていたと判明すれば……」


一歩、ヘイヴンがリーズへと詰め寄る。


「どうなるか、分かってますね?」


冷え切った空気が二人の間に流れる。リーズはしばらく黙り込み、その脅しを飲み込むように沈黙した。やがて、ヘイヴンは何も言わずにそのまま踵を返す。


「待て」


背後から、リーズが呼び止めた。


「私にそこまで疑いをかけ、調べているのなら……あの小娘の行動も、ちゃんとチェックしているんだろうな」


ヘイヴンの歩く足が、ピタリと止まり、振り返る。


「……はい?」

「計画の全貌を知っているのは、あの小娘も同じだ」


リーズは背後から、さらに毒を盛るように言葉を重ねる。小娘は間違いなくルナを指すのだろうが、その問いにヘイヴンは頭を悩ませる。


「当然、お前たちはあの女のことも洗っているんだろうな」


何も答えられず、ヘイヴンは押し黙る。


「計画の全貌を知っているのは、私が知る限りでは、お前と私と、あの巨漢の男……そして、あの小娘だけだ」


確かに、ルナは仲間であると同時にヘイヴンの秘密を握っている。


「あの男は、まぁ利害関係からして無いだろう。だが、あの小娘はどうだろうな。お前も随分と入れ込んでいるようだが……私の目から見れば、一番怪しく見えるのはあいつだぞ」


ヘイヴンはしばらく、表情のない瞳のままリーズを見つめたが、それ以上言葉を交わすことはなく、探るような怪訝な目だけを残し、ヘイヴンは再びリーズを完全に無視するように、薄暗い廊下の奥へと歩き出す。



「では、次の質問です。理財局長、ヘイヴン氏に対する一連の疑惑について、政府として現時点で把握している事実はありますか」


答弁席に座るリーズ財務大臣は、手元の資料へ一度視線を落としてから、ゆっくりと顔を上げた。


「現時点において、理財局長に犯罪行為があったと認定するに足る事実は確認されておりません。関係機関による調査が継続している所存でございます。政府としては、今後も確認された事実に基づき、適切に対応してまいります」


それ以上、踏み込むことはなく、この議論はすぐに区切りをつけると、次に問われたのは、理財局長自身ではなく、今回の調査を主導したイアン空域保安局長の行動についてだった。


議場の視線が一斉に前方へ向く。しばらくして、イアンが席を立ち、前へ出るとその視線に思わずため息をつきそうになったが、当然そんな事をするわけにはいかない。

これから行われる答弁のため、頭を切り替えた。






空域保安局本部の駐車場に、一台の車が静かに停まった。運転席の扉が開き、ヘイヴンが降りようとしたところへ、建物から出てきたイアンが足早に駆け寄る。


「ヘイヴンさん」


呼び止められたヘイヴンが顔を上げると、イアンはすぐ目の前まで歩み寄った。


「お望みの情報はこちらに」


そう言って差し出されたメモを受け取る。そこには、もう一人のアリミ・ヘイヴンの住所と思われる文字が並んでいた。


「わざわざお越しいただかなくても、電話で十分でしたのに」

「いやいや、想定外の事態とはいえ、局長に不躾な態度を取ってしまったことを謝罪したかったんです。本当に今日はお世話になりましたよ」

「……それはこちらのセリフです。一体どれほどの巧妙な手口を使ったんです?」


イアンは渡されたメモから視線を上げ、ヘイヴンの瞳を射抜くように見つめた。


「手口?」

「えぇ。あなたが我々を罠にはめるために画策したと、私は思っていますよ」

「ふっ……私じゃないですよ」


ヘイヴンはおかしそうに小さく首を振りながら、あっさりとそれを否定する。


「あんな甘い捜査でおたくらだけが不審を買うなら、まだ許せる。ですが今回の場合は、私も大きな痛手を負ったんですよ」

「……その点については謝罪します。ですが、真の解決に至るまで、私はあなたを信じることは出来ません」


イアンは手にしたメモを握り直し、ヘイヴンの目を真っすぐに見据えた。


「もしあなたに、真っ黒な裏の顔があるのなら……」


イアンは一歩踏み込み、ヘイヴンの至近距離まで顔を近づけた。冷徹な睨みを利かせ、低く静かな脅迫を突きつける。


「地獄の果てまで追いかけますよ」


ヘイヴンはその視線を受け止めたまま、ゆっくりと一歩踏み出し、二人の距離が縮まる。互いの鋭い視線が真正面から交錯し、夜の駐車場に張り詰めた空気が満ちていく。


「ご随意にどうぞ」


お互い睨みをきかせ、牽制するように見つめ合う。


「やれるもんなら、やってみなさい」


挑発するようにそう言い放つと、ヘイヴンは次の瞬間にはいつものフランクな表情へと一瞬で戻してみせた。


「それでは、失礼します」


サイドミラーが傷ついた車に乗り込み、静かなエンジン音を響かせながら去っていくヘイヴンの後姿を、イアンは未だ深い怪訝と執念の入り混じった表情で見送り続けていた。




ヘイヴンはテーブルに端末を置き、コートを脱ぐと扉が静かに開き、戻ってきたベルナールが息をつくように歩み寄る。


「助かったよ、ベルナール。行員の発言の取り消しに動いてくれて」

「ああ、これでどうにかな」


ベルナールはそう言って、片手の親指と人差し指で小さな輪を作ってみせる。ヘイヴンはそれを見て、わずかに眉を跳ね上げた。

要するに賄賂だ。

モードラル銀行で余計な証言をした行員たちには、裏から相応の金を握らせた。その代償として、不都合な証言をすべて撤回させる旨の電話を入れさせたのだ。


「それで、そっちは何か怪しい素振りはあった?」

「三周も念入りにチェックしてるが、今のところこれといった尻尾は掴めないな。特に最近は両親の施設に入り浸りだ」

「……そう」


ベルナールにリーズの最近の動向を調べてもらっている。ヘイヴンは腕を組み、見えない結論に頭を悩ませる。


「それと、あいつの行動も並行して裏で調べている」

「あいつ?あいつって?」


ベルナールの言葉にヘイヴンは思わず顔を上げる。


「ルナだよ」

「……え?」


一瞬、ヘイヴンの表情が硬質な仮面のようにぴたりと固まった。少しもそんな話は聞かされていないので、様々な疑問が浮かぶ。


「なんで、あの子を……」

「はぁ?あいつが告発した可能性だって、疑い出せば当然あるだろうが」

「……い、いや、確かにそうだけどさ」


ベルナールは、呆れたように深く息を吐き出した。

ヘイヴンは珍しく言葉を濁し、わずかに視線を逸らす。


「ルナがそんなことする理由なんて、どこにもないよ。確かに自分の命を軽く見ている節はあるけど、私達の事は大切な仲間だと思ってくれている」


計画を話すとき、もし保安局にバレるようなことがあれば、死刑は免れない、確かにヘイヴンはそう言った。あの時のルナは満身創痍だったが、少なくともヘイヴンとベルナールを巻き込んで命を投げ出すことはないと思っていたし、そういう正義感は彼女には無いのだと思っていた。


「本当に、そこまで言い切れるのか?お前は、ルナの腹の底をすべて理解できているつもりでいるのかよ」

「……でも、ルナはそんなことしない。やってないよ」

「そう言い切れる根拠は」


ヘイヴンはぐっと言葉を詰まらせ、押し黙った。しばらくの間、部屋には換気扇の微かな音だけが虚しく響く。やがて、彼女は静かに、しかしどこか固い決意を含んだ声で口を開いた。


「……私は、分かるよ」

「何がだ?」

「あの子は、絶対に嘘をついていない。私を裏切るような真似はしない」


ベルナールの眉間に深い皺が寄り、表情が急激に険しくなる。


「いい加減にしてくれ、ヘイヴン……どうしたんだ?

最近のお前は、どこかおかしいぞ」


ベルナールは目を細め、ヘイヴンをまっすぐに見据えた。


「切れ者で、誰に対しても常に警戒心を欠かさないお前が、なぜそこまであいつを気に入るんだ?」

「それは……」


言葉が喉の奥で引っかかり、二の句が継げなくなるヘイヴンに、ベルナールは追撃するように続けた。


「俺だって、あいつのこれまでの覚悟や働きを全否定しているわけじゃない。だがなぁ、あいつが何か隠している事ぐらい、お前だって薄々気づいていたんじゃないのか?」


図星なのかヘイヴンは何も答えられず、ただ唇を噛み締める。


「特に最近のあいつは、初めて顔を合わせたあの時とは見違えるほど生気に満ちた顔をするようになった。良いことかもしれないが……とても精神病を食らっているようには見えないぞ。正直言うが、素直に協力していた時点で、俺は違和感は拭えなかった」


ヘイヴンは完全に黙り込み、冷たい床へと視線を落とした。長い、耐え難い沈黙のあとようやく彼女は重い口を開いた。


「……イアン局長はね、私が告発の詳細を聞いた時、こう言っていた」


『いずれすべてを手にする、人類が危険視すべき人間だ』


「これは、私たちがこの計画を最初に共有した時に、私自身が口にした言葉だ。あの場にいたのは、君と私と、リーズ……そしてルナの、四人だけ」


なぜイアンがその発言を知っているのか、それは一目瞭然。そして、静かに断言する。


「この内部告発を行ったのは、リーズかルナ、そのどちらかであることは間違いない。……私も、そう思っている」


ベルナールはしばらく何も言わず、ただじっと彼女の顔を見つめていた。やがて、諦めたように小さく頷く。


「……そうか」


そして、ヘイヴンの手元にある端末の画面へと視線を向ける。


「いずれにせよ、この送られてきたメールの送信経路を徹底的に調べ上げれば、すべては明白になる。

覚悟は、もうできたよ」

「ああ、頼んだぞ。俺も引き続き、調べる。答えが出そうになったら、すぐ俺を呼べよ」


踵を返し部屋を出ると、振り返り際にニヤリと笑ったベルナールに、ヘイヴンは短く返す。


「了解」


ベルナールが重い扉を開けて部屋の外へと出ていく。

カチリ、と錠が下りるような音とともに、再び静寂が部屋の中へと戻ってきた。そして余計な言葉を一切発さず、白く発光するキーボードを打ち始めた。



数分後、ベルナールとヘイヴンは同じモニターに目を凝らし、彼女の指先が微かに震えていた。


「これで回線の契約者を特定できる」


後はこのキーを一つ叩くだけ。決死の覚悟を宿した瞳で、ヘイヴンはキーボードのエンターキーへと指をかける。背後では、ベルナールが重々しい足取りで近づき、彼女の座る椅子の背もたれにそっと手を置いた。二人して、モニターの僅かな光を息を詰めて見つめる。


「ふぅ……」


一つ、深く長い呼吸を吐き出し、ヘイヴンはついに、迷いのない力でその一打を押し込んだ。

画面が一瞬だけ暗転し、心の準備を整える時間など与えないほど瞬間的に映し出された契約者情報の文字列を目にした瞬間、二人の間に重い沈黙が流れた。

その静寂を嘲笑うかのように、天井の空調設備が「ブツッ」と不気味な音を立てて、完全に駆動を停止した。室内の温度がわずかに冷えていくのが肌で分かる。


やがて、ヘイヴンは現実から逃れるように、ゆっくりと椅子から立ち上がった。ベルナールとは顔を一切合わせず、正面を見据えたまま告げる。 


「今から、ここに連れてくる。準備、よろしくね」

「……分かった」


ベルナールは短く頷き、ヘイヴンは振り返ることなく、冷たい足音を残してその場から出ていった。





「国会答弁、お疲れ様でした」

「はぁ、本当に大変だった」


イアンは長椅子の端に深く腰掛け、両肩の力を一気に抜いた。テーブルの上には、先ほどアキノエが用意したのだろう、湯気をかすかに立てるマグカップが置かれている。彼女はそれを無造作に手に取り、淹れたてのコーヒーをゆっくりと口に運んだ。


「今後の進退が楽しみだなぁ」

「勘弁してください」


今回の件は全てイアンが責任を取る形で、進んでいる。イアンはそれで納得しているがアキノエは反発していた。


「しかし、調査停滞を余儀なくされたとて、逃がす気はサラサラないですね」

「当然。とはいえ、決定的な証拠が今はない。本当に彼女はやましいことが何一つ無いかもしれない。けど、それを完璧に証明できるまで止まるわけにはいかない」


イアンは腕を組み、窓から差し込む夜空の光を背負いながら険しい視線を床に落とす。


「しかしやっぱり、モードラルの工作員というのはこじつけが過ぎたかな」

「現状ではそうでしか説明がつきません。犯罪者が行う悪事にしてはあまりに規模が大きいですから、本当にヘイヴンが裏に潜んでいるのなら工作員と考えるのが妥当だと思います。買収にしても、改ざんにしても関わっている国はネヴェスターとモードラルのみ」

「……いや、まだ説明がつかない点がある」


イアンはコーヒーを注いだカップをソーサーに音を立てて置いた。


「なぜモードラル銀行に入行する必要があったのか。そこが引っかかる。それに工作員なら他国へのスパイ行為を行いづらいデジタル分野には行かない。しかもたった一年となると、意図が全く見えない」

「確かに………それに人事台帳が普通に保管されていたのも不自然だと思いました。そういう危険な資料は、回収するはず。やはりこれはヘイヴンが仕組んだ高等な罠だったんでしょうか」


アキノエの推測に、イアンはわずかに首を横に振る。


「いや、ないね。彼女にメリットは何もない。現に今の彼女の名声は落ち始めている。そんなことは望んでいないはずだよ」

「ますます、結論が遠くなりますね…」

「うーん、ややこしいな……」


アキノエはこめかみを押さえ、頭を激しく振った。思考の迷宮に迷い込んだような閉塞感が、二人の間の空間を重くしていく。


「そもそも彼女はネヴェスター出身。そうなると、この国に何らの恨みがあって自分の身をモードラルに渡し、ネヴェスターへの復讐を企てている……とか」

「ですが情報漏洩以外に今回の件で何かネヴェスターに大きな不利益があったかと言われば、そんなことはない気がします」


言い淀むアキノエの言葉を最後に、室内には再び沈黙が戻った。……だが。


「モードラルと、ネヴェスター……、!」


音もなく漂っていた静寂を切り裂くように、イアンの身体がピタリと硬直した。


「待てよ。まさか…、」


アキノエはハッと顔を上げ、イアンの異様な気配に気づく。


「どうされました?」

「この前の買収の件、モードラルでは調査委員会は設置された?」


突然、全く別の話題の質問を投げかけられ、アキノエは戸惑うが、すぐに端末を取り出す。


「買収…ですか? 少しお待ちください…」


数回タップし、イアンが欲している情報を調べ上げる。


「いや、まだされていないようですね。買収からもう3週間は経過しています。この緊急性なら本来は委員会の設置には長くても1週間程度だと思いますが……、局長?」


アキノエの問いの途中、イアンはすでに椅子から立ち上がっていた。その背中から冷たいものが伝うような、尋常ならざるプレッシャーが部屋の空気を塗り替えていく。


「アキノエ、私はとんでもないことに気づいてしまったかもしれない」


イアンは寄せ険しい表情を見せており、アキノエの息がわずかに詰まる。


「あくまで私の推測に過ぎないけど、もし正しければ、裏に潜むのはヘイヴンだけではない」


イアンは窓の外を見据えたまま、唇を震わせた。


「その背後に、強大な巨悪がいる」





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