これでいい
その日楓が家に帰ると、玄関に光の靴があった。
楓は数々の罪悪感が重なり、胸が痛んだ。
「ただいま...」と小さく呟き、そのまま静かに二階へ。
自分の部屋に入り、ドアを閉めるとなぜか止めていた息を一気に吐き出した。
すると、隣の湊の部屋からドン!と壁を叩くような音が聞こえ、ビクッとなった。
「なにしてんだあいつ...?」
そう呟きベッドに腰掛けると、今度は薄っすら「えーいいじゃん、おいで」と湊の声と、「もう~湊ったら~♡」と知らない女の子の声。そして聞こえなくなった2人の声。
壁が薄いのはこういう弊害があるな....
「あいつマセ過ぎ....いい気なもんだな本当」と呆れた表情で呟き、ため息をついた。
するとドアがノックされ、楓はまたビクッとなった。
「楓、いい...?」と光の声がして、楓は息を呑んだ。
「...うん」
楓が返事をすると、光が入ってきた。
「ごめんね、急に」
光は苦笑し、カーペットに腰を下ろした。楓は「いや...」と呟き、自分もカーペットの上へ。
「...この間は、ありがとう。菜穂のこと。楓が森屋に伝えてくれたんだよね。森屋から軽く聞いた」
光にそう言われ、楓は「うん..いや、余計なことしてごめん」と言った。
「いや、余計なことじゃないよ。楓と森屋が来てくれなかったら俺、多分もっと菜穂のこと疑って、責めてたと思う。ありがとう。それに...楓が俺に言ったこと、本当にその通りだと思った。俺が間違ってた」
光がそう言うと、楓は心臓の鼓動がより早まっていくのが分かった。
「..いや、俺は何も知らない第三者だったからそう思えただけで、兄ちゃんの立場だったら仕方ないと思う。偉そうなこと言ってごめん」
楓にそう言われ、光は今日、菜穂が同じことを言っていたことを思い出し少し俯いた。
「...ううん。楓が正しかった、それは確かだよ。俺...菜穂のことで正直、楓に嫉妬してた。何で俺より仲良さそうなんだろうとか、菜穂のこと見てても、俺といる時より楽しそうに見えて...菜穂のことも、楓のことも大事な存在なのに、俺はまた疑ってた。信じるって言ったのに」
光がそう言い、楓は先日菜穂の手を握ったこと、抱き寄せてしまったこと、言ってしまった言葉を思い出し、胸の痛みが広がっていく。
「でも今日菜穂と話せて、ちゃんと仲直りもできた。これからはもっと菜穂のこと笑わせられるように頑張るつもり。楓にも...感謝しないといけないと思って」
光の言葉を聞いた楓は「えっ」と呟いて光を見た。
仲直りーーーーーそりゃそうか。
やっぱり期待なんかしちゃいけなかった。
いやそもそも、俺だって飛鳥ちゃんと付き合ってる。
これでいいんだ。




