前にも言ったじゃないですか
楓は何も言わないまま菜穂の拳を見つめた。
「…楓が、私の欲しい言葉を全部くれてね…ううん、違う。自分でも…光くんにどうして欲しかったのか分からなかった。でも楓が…楓があの日私を信じてくれてね、ああ、私ってただ…"光くんに信じて欲しかったんだ"って…そう思ったの」
菜穂は言いながら、だんだん声が震えた。
目頭が熱くなった。
胸が苦しくなった。
「だけどね…色んなことがあって…光くんが私を信じられないのも仕方なかったの。分かってたし、それで納得してたの…なのに…なのに何で…何で…楓に信じてもらえた時、あんなに嬉しくなったんだろうって…でも、どこかで思ってた。楓なら…楓なら信じてくれるんじゃないかって…だから…だから…あれ、何が言いたいんだったけ…はは…」
そう呟きながら、菜穂の目から涙が落ちた。
楓はそんな菜穂を見つめ、思っていることはたくさんあるはずなのに、口には出さないように堪えているうちに、ただ無言になっていた。
「…なんか、言ってよ…はは…」
菜穂はそう言って苦笑し、涙を流しながら楓の顔を見た。
楓は目を見開き、真っ赤になった菜穂の顔を見つめた。
「…あ、すいません」
楓はそれだけ呟いて苦笑した。
菜穂は「はは…それだけ…?なんか、恥ずかしいこと言っちゃったね…」と苦笑してからまた楓を見た。
「…要約するとね、楓は"ただの後輩"でも、"ただの友達"でもないの」
菜穂に言われ、楓は恐る恐る口を開いた。
「…じゃあ、菜穂先輩にとっての俺って、何なんですか…?」
聞きたいし、聞きたくない。
知りたいし、知りたくない。
聞いていいのか分からない。
その答えを聞いて、どうするんだろう。
何か変わる?変えていいのか?
変わるのか?
一体何が?
「それは…分かんない」
菜穂から返ってきた言葉はこれだった。
楓は瞬きをして「えっ…」と呟いた。
「ごめん、分かんないの。分かんないけど、大事だなって思う。なんていうか、この辺がね」
菜穂はそう言いながら胸のあたりで自分の手を握り締めた。
「この辺が、ぎゅん!ってなるような。大事だなって、好きだなって思ーーー」
菜穂がそう言いながら楓を見ると、楓は菜穂の胸の辺りで握りしめた手に、自分の左手を重ねた。
菜穂は目を見開き、「あ、えっと…」と動揺した様子で握られた手を見て、楓の顔を見つめた。
「楓…?」
菜穂が言うと、楓は顔を上げ、菜穂を見つめて言った。
「…だめです」
「だめ…って…?」
菜穂が聞き返すと、楓は一度唇をぎゅっと締めるようにしてから口を開いた。
「…だめなんです。そういうこと言っちゃだめです。前にもちゃんと…言ったじゃないですか」
言われ、菜穂は目を丸くしながら「前にも、って…?」と言った。
「…期待させないでください」
楓の言葉に、菜穂はただ楓の目を見つめた。




