久しぶり
菜穂はチケットに記載されている番号の席に行き、楽しみに微笑みながら椅子に座った。
スマホを開くと、今日も光からの連絡はない。
あの日を最後にあれから1週間、【ちょっと考える時間が欲しい。ごめん。また連絡するね】という光の連絡を最後に、一切LINEはしていなかった。
菜穂はため息をつき、スマホをしまった。
すると、隣から「え」と声が聞こえた。
菜穂が見上げると、少し驚いたような表情をした楓がこちらを見ていた。
楓を見るなり、菜穂も「えっ」と声を漏らした。
楓とも、3週間前に光の家に行ったあの日から一度も話していなかった菜穂は少し気まずそうに「か、楓...?」と呟いた。
楓はもう一度チケットの番号を見て、隣に座ると「..遥先輩ですか」と言った。
「あ、う、うん!はるちゃんが今日出るから...楓は、もしかして和葉くんに??」と菜穂。
「...はい。部活が違うのに出るって聞いてテンションたっけーなと思いましたけど」
「はは、和葉君らし〜〜〜」
「本当に。あのテンションちょっと分けて欲しいくらいです」
「ええ、楓が和葉くんみたいなテンションだったら逆に笑っちゃうよ」
菜穂はそう言って笑った。
「菜穂先輩も和葉くらいイカれたテンションですけどね」と楓。
「おいっ」
菜穂がそう言って目を細めると、楓はクスッと笑った。
「...なんか、久しぶりですね。菜穂先輩とこうやって話すの。最近バイトでも会わなかったですし」
「そうだね。なんか、何年も経ったみたいな気持ち」
菜穂も笑った。
「何年もって、俺と菜穂先輩は出会ってから半年も経ってないじゃないですか」
「えーそうだけどさあ。分かるでしょ??」
「まあ分かりますけど。なんか、日常から白米が消えた感じですね」
「え、なにそれ」
菜穂が笑うと、楓も少し笑いながら菜穂を見た。
「そのままです。当たり前にあると思ってたって言うか... まあ、うまく言えないですけどなんか変な感じがしたってことです」
楓の言葉を聞き、菜穂は目を見開いた。
「...なにそれっ」と言いながら、心の中でまったく同じことを考えた。
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暗い会場の中で、楓の横顔を見つめた。
冷徹なことを言うのに優しい目、長いまつ毛、鼻筋の通った高い鼻。
少し薄めの唇が微笑んで菜穂の方を向いた時、菜穂は一瞬、胸の中に何か鉛が落ちたような感覚に陥った。
「え、なんですか。またマヌケな顔して」
楓はそう言って微笑んだ。
菜穂はハッとして「え?いや....てか!マヌケな顔してないって」と目を細めた。
「はは、久しぶりに菜穂先輩のアホヅラ見たら面白いですね」と楓。
「失礼すぎだからっ」
「ほらー、始まりますよ。静かにして」
楓はそう言って人差し指を立て、鼻の前に出して微笑んだ。
菜穂はまた楓の横顔を見て微笑むと、ステージに目を向けた。
楽しそうにステージを見る菜穂の横顔を、楓は少し見つめた。




