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怪我してないですか

光が家から出ていくと、菜穂はフーッと一息つき、心臓の音を整えた。

そしてハッとして時計を見ると、時刻はまだ19時半過ぎ。


よし、楓は帰ってこないーーーー。


そんなことを思うと、菜穂はスマホをいじり、20分程経った頃、「お手洗い借りよーっと」と呟き、階段を下りて1階へ。


トイレを出て、階段を上って光の部屋に戻ろうとした時、向かいの部屋からパリン!とガラスが割れるような音がした。

菜穂はビクッとなり、申し訳ないと思いながらも向かいの部屋の隙間から中を覗いた。


中はベッドと本棚が見え、机の下にペンが散乱し、ガラスが散らばっていた。

形を見るに、グラスか何かにペンをさしていたのだと思った。


すると、ガラスの近くにてんぷら(猫)がいるのが見え、菜穂は「危ないっ」と呟きついドアを開けて中へ入り、てんぷらを抱きあげた。


てんぷらの前足が少しだけ切れているようだった。

どうやらてんぷらがグラスを落としてしまったようだった。


菜穂が「うわあ…痛いね…どうしよう」とてんぷらの顔を見て呟いた時だった。

玄関の鍵が開く音がして、菜穂はビクッとしてドアの方を見た。


「えっ?!光くん…?!」


小さな声で呟くと、抱えていたてんぷらがミャー!と大きな声で鳴き、「えっ?!」と菜穂もつい声を出してしまった。


すると足音は階段を上がりこちらに向かってきた。

菜穂は焦りながらとりあえずてんぷらを抱えて立ち上がった。

ドアの方を見ると、そこには驚いた顔をした楓が立っていた。


「えっ菜穂先輩…?何で俺の部屋にいるんですか…?」


楓はそう言って菜穂を見た。

菜穂が「あ、あ、いや!違う違う!決して覗いたわけじゃーーー」と必死に言い訳すると、楓は床で割れたグラスに視線を落とし、すぐに菜穂とてんぷらを見た。


「えっ、怪我してないですか?!」


楓はそう言うと菜穂に歩み寄ってきた。菜穂はてんぷらを抱えたまま「あ、そうなのちょっと手怪我したみたいで…」とてんぷらを見た。


楓は「えっ」と呟き菜穂の視線の先を見て、てんぷらの手が少し切れているのを見た。


「うわ…てんぷらが倒したんですか?」と楓。


「うん、そうみたい。それで部屋入っちゃって。ごめーーーー」


菜穂がそう言おうとすると、楓は「菜穂先輩は?怪我してないですか?」と菜穂を見た。

菜穂は「…あ、うん。私は大丈夫だけど」と楓を見た。


楓は安堵したように「良かった」と微笑み、「お前は痛いな?」と呟きてんぷらの頭を撫でた。

菜穂はそんな楓を見て静かに微笑んだ。


「とりあえずてんぷらの怪我は大したことなさそうですし、もし血が出るようなら明日病院に連れて行きます」


楓はそう言って菜穂からてんぷらを受け取り、てんぷらを抱えた。

するとてんぷらはミャーと言いながら元気に階段をかけ降りて行ってしまった。


「人の物壊しといて元気だな…」


楓はそう呟くとグラスに目を向け、割れたグラスの脇にしゃがみこんだ。



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