勘違いしますよ
バイト中、菜穂は品出しをしている楓を見て、何か話そうとしても話題が見つからず、一人で悶々としていた。
菜穂の表情を見た楓は一度手を止め、「え、なんですか」と菜穂を見た。
菜穂は「えっ?!いや、別に何も?!」といつものオーバーリアクション。
「そうですか」
楓はそう言ってまた品出しを始め、頭の上で微妙に聞こえる「えっと」「いや」という菜穂の一人言を聞き、楓は立ち上がった。
「え、まじでなんですか?何か話したいことあるんですか?」
楓がそう言うと、菜穂は「えっ、あ、いや…きょ、今日は雨だね〜…」とぎこちなく言った。
楓は首を傾げる。
「はい。雨ですね」
「雨だとさあ、やる気も出ないよねえ〜」
「…はい。え、絶対それじゃないでしょ。何ですか」
楓は不思議そうに言った。
菜穂は「いや?!雨だなって思って!」となぜか必死の表情。
「…そうですか」
楓は不思議そうに菜穂を見ると、再び品出し。
それからバイトが終わってから二人で事務所を出て、家の方向を歩きながら楓が言った。
「文化祭終わったし、もう11月になったらマラソン大会ありますよね。菜穂先輩足も遅そうだしーーー」
そう言ったところで菜穂の顔を見ると、菜穂がまたどこか気まずそうな表情をしていることに気づき、楓は足を止めた。
「あの」
「なに?!」
菜穂が目を見開き、楓は淡々と続ける。
「今日どうしたんです?何かあったんですか?」
「いや!何もないって!」
「いや、もう態度出てるんで言ってもらってもいいですか。気になって会話まともにできてないんですけど」
楓がそう言うと、菜穂は「いや…その…だから…」と呟き、意を決したように楓を見た。
「か、楓って彼女できたの?!文化祭で!」
言われ、楓はキョトンとした表情を浮かべた。
「はい?できてませんけど」
楓が不思議そうに答えると、菜穂は「えっ、あ、そうなの?!」と楓を見る。
「何でですか」
楓が言うと、菜穂はいつものヘラヘラした様子に戻った。
「なーんだあっ!いやほら、女の子と花火一緒に見てたからさ…!」
言われ、楓は少し意外そうな表情を浮かべた。
「…やっぱり目、合いましたよね」
楓の表情が何となく嬉しそうに見えた菜穂は「へ…?」と呟き楓を見つめた。
「あ、いえ。目が合ったような気はしてたので」
そう言う頃、楓の表情は元に戻っていた。
「あ、う、うん!目合った!はは…!ってそうじゃなくてっ!隣にいた子、飛鳥ちゃんだよね?」
菜穂は誤魔化すように言った。
「あ、そっか先輩は飛鳥ちゃん知ってますもんね。弱いくせに庇ってボール受け止めた時の」
楓はクスッと笑い、菜穂は「ええ、ああ、そ、そう!」と言った。
「あれ、ツッコミ待ちだったんですけど」と楓。
「あ、ごめんごめん…!でも付き合ってないんだ?花火一緒に見るって、うちの学校ならそういう事かなって。あ、あ!もしかして好きとか…?」
菜穂はそう言いながら楓を見上げた。
楓はそんな菜穂を見つめ、少し考えたあとに口を開いた。
「…もっと知りたいなーとは思ってますね」
楓の言葉を聞き、菜穂は少しだけ、一瞬だけ目を見開いた。
菜穂は少しずつ、ゆっくりと微笑んだ。
「…へ、へえ!そうなんだ!楓やるじゃーんっ!」
菜穂はそう言って楓の腕をバシバシと軽く叩いた。
「…菜穂先輩は、どう思いますか?」
楓が言うと、菜穂は「え?なにがー?」と微笑む。
「俺が飛鳥ちゃんと付き合ったら。応援してくれます?」
言われ、菜穂は苦笑した。
「もちろん応援するよ!あ、先輩として相談に乗ってあげる!!」
「...そうですよね。まあ、先輩に相談なんかしないですけど」
楓はそう言って再び歩き出した。菜穂も楓の横を歩き「えー、何でよ?」と楓の顔を覗き込んだ。
「参考にならなそうだし。先輩経験少なそうだから」と楓。
「そんなことないって!私だってもう彼氏できてからーーーーー」
菜穂がそこまで言ったところで言葉が止まった。
「え、彼氏できてから何ですか」
楓が不思議そうに見ると、菜穂は「あ、いや…」と苦笑し、顔を上げて言った。
「やっぱり、応援はするけどちょっと寂しいかも」
「はい?」
「いや、だから!楓に彼女ができたら!だってこんな風に喋ったりすることも減るわけじゃん?そりゃ寂しいよ」
菜穂はそう言って笑った。
そんな菜穂を見つめ、楓は前を向いた。
「…それはズルですね。自分は彼氏いるのに俺だけ彼女作らないでーなんで虫が良すぎますね。本当わがままな人だ」
そう言われた菜穂は「そ、それもそっか…!」と笑った。
「…はい。バカですね本当。ふざけないでもらって」
「ふ、ふざけてないよ?!本当にそう思ったんだもん仕方ないじゃん〜」
菜穂はそう言って口を尖らせた。
「…あんまりそういうこと言わないで下さい。勘違いしますよ」
楓は前を向いたまま呟いた。
菜穂が「勘違いって?」と聞くと、楓は一度菜穂の顔を見た。
菜穂は不思議そうに楓を見ている。
楓はため息をつくとまた前を向いた。
「菜穂先輩が本当は幼稚園児なんじゃないかって勘違いする程バカってことです」
楓はそう言うとまた少し息を吐き、家に向かって歩き続けた。
******
…あれ?
楓と2人でいる時って、今まで何話してたんだっけ?
こんな感じだったっけ…?
何でこんなに話題考えてるんだろう?
今まで何も考えずに楽しく話してたよね?
それに、勘違いって。
楓はあの子と付き合うのかな?
そうなったらもう、こうして話すこともなくなる?
あれ?私が気にすることじゃないのに。
楓の隣を歩きながら、菜穂は1人そんなことを考え、ふと楓の横顔を見上げた。
いつも通り話す楓。
楓ってこんなに笑うんだっけ。
ああ、いやでも笑ってたかも。
でも、飛鳥ちゃんと話す楓はもっと笑ってたかも。
ぼんやり考えていると、視線に気づいた楓が話を止めて菜穂の顔を見た。
「え、なんですか?」
楓は不思議そうに菜穂を見た。
菜穂はビクッとなり、「えっいや!」と言って楓から目を離して前を見た。
いつもこんなに顔近かったんだっけ?????




