この気持ちには蓋をしよう
文化祭から1週間が過ぎ、楓は深呼吸をしてバイト先の売り場に入った。
久しぶりに菜穂とシフトが被っていた日だった。
あの日ーーーーーーー文化祭2日目。
飛鳥ちゃんと花火を見ていた時、先輩が近くにいることは知らなかった。
なのに何気なく向けた視線の先に、兄ちゃんの隣に座る菜穂先輩がいた。
遠くにいたのに目が合った時、一瞬菜穂先輩も俺を見ていたのかななんて淡い期待をした。
まあ、そんなわけはないんだけど。
ただの友達以上には思ってくれてるみたいだし、満足しとけば良かった。
無駄に緊張しながらバイトとかしんどいわ。
そんなことを考えたあと、レジに行くと菜穂の姿はなかった。
あれ、と思った瞬間、事務所のドアが勢いよく開いて、「ギリギリ間に合った!!!」と言いながら菜穂が入って来た。
学校から走ってきたのか、髪はぼさぼさで、エプロンの紐も曲がっている。
靴紐もほどけてるし、女子力どこいった?
楓はそんな菜穂を見てクスっと微笑み、「何やってるんですか。ひっどい顔」と言いながら菜穂の方へ歩み寄り、「だらしないですね」と言ってしゃがみこむと、菜穂のスニーカーの紐を結んだ。
「あ、ありがとう...」
菜穂はそう言って立ち上がった楓を見上げた。
楓は「本当落ち着きないですよね」と言って菜穂を見下ろして小さく笑った。
やっぱ俺、この人のこと好きだな。
俺が好きなこの人を泣かせちゃいけない。
だからこの気持ちには蓋をしよう。
ちゃんと忘れなきゃいけない。




