ちゃんと線は引きます
「はい、どうぞ」
近くの公園へ行き、ベンチに座る菜穂に楓は水のペットボトルを差し出した。
菜穂は「ありがとう」と言って水を受け取る。
楓も菜穂の隣に腰を下ろし、「いつまで泣いてんすか」と菜穂を見た。
「ごめん、私1回泣き始めると止まんないタイプで…」
そう言いながら菜穂はティッシュで涙を拭った。
「いちいち大袈裟なんですよ。バカじゃね」
楓が呆れたように言うと菜穂は「だってさ…!」と楓を見上げた。
楓は菜穂の顔を見るなり吹き出すように「うわ、ひっどい顔」と笑った。
「ひどい…!私が必死にーーーー」
菜穂が言おうとすると、楓は「でも」と菜穂の言葉を遮った。
「…嬉しかったです。俺も同じこと思ってたので」
楓はそう言って菜穂を見た。
菜穂は楓を見つめる。
「まあ正直、どういうのが適度な距離なのか分かんないですけど、無視は違いますよね」
「うん…でも、何でこんなこと考えなきゃいけないんだろ…何かつらい」
菜穂はそういって俯いた。
そんな菜穂を見て、楓は少し息を吐いた。
「菜穂先輩が女の子で、俺が男だからですよ。菜穂先輩が兄ちゃんの彼女でも、兄ちゃんにとって俺は弟だけど、男なんですよ。どーしても変えられないことですけどね、それは」
「でも…。あ、なら楓が女の子になればいいんじゃない?名前もほら、可愛いし?」
菜穂がそう言うと、楓は呆れた表情で「あほか」と呟き、言葉を続けた。
「まあでも、兄ちゃんの気持ちも分からなくはないので」
「うん…」
菜穂はまた俯いた。
楓はそこで一度息を吐き、菜穂を見た。
「だからまあ、もう無視はしません。でも、ちゃんと線は引きます」
楓がそう言うと、菜穂は「えっ?」と楓を見上げた。
「菜穂先輩が女の子だってこと、兄ちゃんの彼女だってこと、ちゃんと考えます。だから、菜穂先輩も無視しないで下さいね」
楓に言われ、菜穂は一瞬何と答えていいか分からず、誤魔化すようにヘラヘラと言った。
「…か、楓ったら、そんなに私と話したかったのォ〜??もう、ツンデレだなあっ!私のこと大好きじゃんかっ!!」
そう言うと、いつものツッコミ待ちだった菜穂に、楓はいつもよりも真面目な表情で答えた。
「はい。今回話さなくなって、俺の中で俺が思ってるよりも菜穂先輩の存在が大きくなってたんだなって思いました」
「えっ…?」と菜穂。
「学校で会ったら話したいなとか、バイトのシフトで菜穂先輩が一緒かなとか、無意識に思ってました。今日だって、本当は話したいのに無視してました。だからもっと気をつけます」
楓はそう言って立ち上がった。
菜穂も立ち上がり「…気をつけるって?」と楓を見た。
「んー、"兄ちゃんの彼女"ってこと、忘れないように?」
楓はそう呟き、リュックを背負った。
菜穂は「…え」と呟き、ポカンと楓を見つめた。
「そろそろ帰りましょう。それこそあんまり遅いと兄ちゃんが不安になると思うので」
言われ、菜穂も「あ、うん…!」と言ってリュックを背負い、2人は帰路についた。
******
翌週、菜穂が体育の授業のあと絵里奈や遥たちと一緒に教室へ向かっていると、前から楓と和葉が歩いて来るのが分かった。
菜穂は先週楓と話せたとはいえ、なんとなくどうしていいか分からなくなりキョロキョロしていた。
すると前から来た楓は菜穂の顔を見るなり「うわ、ひっどい顔」と笑った。
菜穂が「えっ?!なにが?!」と言うと、楓は「汗すごいですよ」と前髪を指さした。
菜穂は「まじっ?!」と言って視線を上に向けて手で前髪を触った。
「嘘です。別に何もないっすよ」
楓に言われ、菜穂は「オイ」と楓を睨んだ。
楓はクスッと笑い「今日は草むしりじゃないんですね、似合ってたのに」と言った。
「ミミズ怖がってたくせに〜」と菜穂。
「きっしょ。じゃあね」
楓はそう言って今まで通り少し微笑み、菜穂の横を通り過ぎた。
楓がいなくなると、絵里奈はニコニコと微笑む菜穂を見た。
「あれって桐山君の弟くんだよねー?菜穂仲良いよねっ」
遥に言われ、「えっ?ああ、うん!」と菜穂は微笑んだ。
「いいないいな♡♡弟もイケメンだし私狙おうかな〜〜♡♡ねえ1年にも弟いたよね??2年か1年の弟、菜穂カレの桐山に紹介してって言っといて~~」
遥の声を横に、絵里奈は少し首を傾げた。




