何で嘘ついたの?
翌日、菜穂はいつも通り手を繋いで帰っていた。
「ねえ菜穂」
光に言われ、菜穂が「んー?」と微笑むと、光は「あのね、ちょっと聞きたいことがあってさ」といつも通り、優しい笑顔。
「なになに?」
菜穂が立ち止まると、光は菜穂の手をぎゅっと強く握った。
「先週菜穂、熱中症になったでしょ?あの日ってさ、菜穂バイトだったよね」
「…うん」
菜穂は内心ギョッとした。
「あの日って、本当に1人で帰れたの?」
光は苦笑して菜穂の方を見た。
菜穂が黙り込むと、光は辛そうな表情を浮かべた。
「…楓と一緒だったんだね。楓が家まで送ってくれたの?」
言われ、菜穂は「…うん」と頷いた。
光は目を瞑り、眉をひそめた。
「何で嘘ついたの…?」
「それは…」
菜穂は俯いて黙り込んだ。
黙り込む菜穂を見て、光は静かに深呼吸をした。
「…何かあるの?楓と。俺に言えないこと?」
「違う…!そんなのないよ!」
菜穂はそう言って必死に顔を上げた。
「じゃあ何で?何で楓といたこと隠したの…?」
そう言う光の表情は、すぐにでも涙が溢れそうだった。
菜穂も「それは…!」と呟いて泣きそうな表情を浮かべた。
楓がどうして隠したがっていたのか私には分からない。
でも、理由もなくただ言ってるようには見えなかった。
黙り込む菜穂を見て、光は悲しげな表情で言った。
「…ねえ、俺より楓の方が好き?」
光に言われ、菜穂は勢いよく顔を上げた。
「えっどうして…? 私が好きなのは光くんだよ?」
「本当に?」
「本当だよ!だって私…1年の時からずっと光くんが好きだったんだよ…!心変わりなんてするわけないよ!」
菜穂がそう言うと、光は少し菜穂を見つめてから「…信じていいんだよね?」と呟いた。
「当たり前だよ…!信じて欲しい!」
そう言った菜穂の目から涙が流れた。
光は引きつりながらも笑顔を浮かべ「…分かった。信じるね」と呟いた。
「光くん…ごめん、不安な気持ちにさせちゃって」
菜穂はそう言って俯いた。
「ううん。俺の方こそごめん、動揺しちゃって…」
光はそう言いながらまた菜穂の手をぎゅっと握り締めた。
菜穂は握られた手を見て、「…ごめんね」と呟いた。
すると光は「…でも」と呟き、菜穂を見つめて口を開いた。
「楓とは、本当に何もないんだよね」
光に言われ、菜穂はすぐに「ないよ」と頷いた。
「…心の中もだよ」
「え?」
「菜穂のことも、楓のことも…何もしてないって信じてる。でも、心も本当に動いてない?」
そう言った光の表情は、いつも学校で見る穏やかな笑顔でも、優しい顔でもなくて、見たことないくらい不安な表情だった。
「…動いてないよ。何でそんなこと聞くの?」
菜穂は涙ぐんだ目で言った。
「ううん。ごめん、変なこと聞いて。なんか俺、菜穂のこと失いたくなくて、最近自信なくなっちゃってるみたい…はは」
そんな光を見て、菜穂の目からまた涙が零れた。
「ごめんね…!私のせいでそんな顔させちゃって…何があっても私の気持ちは変わらない。私は光くんのことが好きなの」
「…抱き締めてもいい?」
「えっ、う、うん…!」
唐突な言葉に、菜穂はこんな状況でも赤面して答えた。
光は一瞬手を離し、勢いよく菜穂を抱き寄せた。
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楓が帰宅すると、玄関にあるサイズの小さいローファ。
楓は一瞬動きを止め、すぐに階段を見上げた。
リビングへ行き、1時間ほどスマホをいじっているとバッテリーが10%を切り、楓が辺りを見渡すと充電器はなかった。
楓は溜息をつき、少し考えてから立ち上がり、廊下へ。
階段を上がり自分の部屋のドアを開けようとした時、向かい側の光の部屋からは2人の声は聞こえなかった。
充電器を取り、再び階段を降りようとした時、楓の耳に届いたのは2人の声ではなかった。
キスしているのだと分かった。
楓は手に持った充電器を見つめ、なんとなくモヤッとして、2階に来たことを少し後悔した。




