やましいことがあるわけじゃないのに
翌週、楓が「おはようございます」と事務所を出ると、「おはよ!」と声がした。
楓が顔を上げると、いつもの菜穂の笑顔があった。
「…おはようございます。熱中症はもう大丈夫なんですか」
楓がそう言うと、菜穂は「うん!お陰様で!本当にありがとう」と微笑んだ。
「いえ。元気になって良かったです」
楓はそう言ってレジへ。
菜穂は「あ、あのさ楓」と言って楓の隣へ。
「はい」
「あの…楓が私のこと家まで送ってくれたってこと、光くんに言わないでってあれ、どういう意味?LINEも変なスタンプで返してくるしさ〜」
菜穂がそう言うと、楓は「あー…」と呟いてから菜穂を見た。
「ほら、兄ちゃんが自分は来られなかったとか罪悪感感じちゃうじゃないですか」
「でも…楓が送ってくれたのに無かったことにするのは違うって言うか、それにやましい事があるわけでもないのに嘘ついてるのも何かって感じだし…?」
菜穂はモジモジしながら言った。
「すいません、嘘つかせちゃって。でも、そうして欲しいんです」
楓に言われ、菜穂は「楓がそう言うなら…分かった」と頷いた。
納得してなさそうな表情の菜穂を見つめ、楓は「…そんな事より、ただでさえウザいのに元気になってまたウザくなるんじゃないですか」と小さく笑った。
「え、ひど。私ウザくないし〜〜」
菜穂はいつも通りのテンションで口を尖らせた。
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楓が「ただいまー」と家に帰ると、リビングには光がいた。
楓はなんとなく気まずさを感じながら「…あ、ただいま」と言ってソファに座った。
「おかえり。遅かったね」
光はいつも通り微笑んだ。
「ああ、うん。ちょっとだけ長引いた」と楓。
「そっかあ。ねえ楓、この間の電話って何だったの?ほら先週の」
言われ、楓は内心ビクッとした。
「え?間違ったって言わなかったっけ。はは」
楓は微笑むと、光は「…そうだった。ごめんごめん。楓が電話掛けてくるの珍しかったから気になって」と苦笑した。
「ああ、そうだよね。ごめん間違えちゃって」
それから2人の間に10秒ほど沈黙が流れ、楓が沈黙を破った。
「…俺、風呂入ってくるね〜」
楓はそういって立ち上がり、1人浴室へ向かった。
楓がリビングから出ていくと光は1人、スマホの画面見つめて溜息をついた。




