心配かけたくないだけ
家に着き、楓がリビングに行くと風呂上がりの光がいた。
「お、楓。おかえり、遅かったね。ごめん電話出れなくて。なんかあった?」
光はそう言ってソファに腰を下ろす。
楓は以前光が部屋に来て話していたことを思い浮かべた。
「....ううん、ごめん間違えた」
楓が微笑むと、光は「えーなんだよ」と笑った。
楓は「ごめんごめん」と言うとスマホを出し、《汐崎 礼実》にメッセージを送った。
【ごめんね。言わないと思うけど俺が菜穂先輩を家まで送ったこと、兄ちゃんに言わないで欲しい】
そしてもう1件。《汐崎 菜穂》にもメッセージを送っておいた。
【俺と一緒にいたことは兄ちゃんには言わない方がいいと思います。心配すると思うので。お大事にしてください】
翌週、楓が学校に行くなり「おはよ。ちょっといい?」と礼実に呼び出された。
楓は「はい…」とリュックを背負ったまま礼実について行く。
礼実は紙袋を手に「はいこれ」と楓に差し出した。
楓が紙袋を受け取り中身を見ると、自分のジャージが入っていた。
「ああ、わざわざありがと」
楓がそう言うと、礼実は「ううん」と言ってから楓を見上げた。
「それ…お姉ちゃんに直接触れないようにしたの?」
「え」
「お姉ちゃんスカートだったし、おぶって来てくれたでしょ?直接触ったら失礼だなって思ってジャージ貸してくれたんじゃない?」
礼実に言われ、楓は「ああ、まあ」と淡々と答えた。
「お姉ちゃんから返させた方がいいとは思ったんだけど、お姉ちゃんまだ熱下がらなくていつ来れるか分かんないし、ジャージは必要だと思ったから私から返したんだけど…良かった?」
礼実が言うと、楓は「もちろん。ありがと」と言った。
「あとさ…これは何?」
礼実はそう言ってスマホを出し、先日楓が送ったメッセージを開いた。
「私は何でもいいけど…別にやましいことしてるわけじゃないんだし、お姉ちゃんは嘘ついてるの辛いんじゃないかな」
礼実に言われ、楓は少し黙り込んだ。
そんな楓を見て、礼実は恐る恐る楓の顔を覗き込むように言った。
「もしかして光先輩に言えないような、やましい気持ちでもあるの…?」
礼実がそう言うと、楓は顔を上げて「…いや、ないよ」と答えた。
「そ、そっか」
「ただ俺が家まで送ったとか、具合が悪かったとは言え変に誤解させて、兄ちゃんに不快な思いさせたくないだけ。菜穂先輩にとっても兄ちゃんと喧嘩とかして欲しくないし」
「なら良いんだけど。まあ、お姉ちゃんまだ具合悪くてスマホ見れてないから、その後お姉ちゃんから連絡は来ると思うけど…」
「うん、ごめんね。変な気遣わせて。これありがとう」
楓はそう言って教室に戻って行った。
礼実はどこか腑に落ちないような表情で遠ざかる楓の背中を見つめた。




