おせーよ
菜穂の家に着くと、楓はチャイムを鳴らさずに学年のグループLINEを開いた。
その中から《汐崎 礼実》を選び、電話をかけた。
もちろん設定上1回目は出ないと思いすぐに切り、するとすぐに折り返しが来た。
『...もしもし』
礼実は突然の電話に警戒しているようだった。
「もしもし、ごめんね急に。今菜穂先輩がちょっと具合悪そうで、家の前まで来てるから礼実ちゃん来てくれる?」
楓が端的に伝えると、礼実は『え?あ、うん!ちょっと待ってて!』と電話を切り、すぐに玄関が開いた。
「お姉ちゃん!」
礼実は菜穂と楓に駆け寄り、「ありがとう」と言いながら菜穂の荷物を受け取った。
礼実は玄関のドアを開け、「ごめん、お姉ちゃんの部屋まで運んでくれない...?」と楓を見た。楓は「...そうだね。わかった」と言って「お邪魔します」と呟いて中へ。
礼実と一緒に菜穂の部屋に行き、楓は菜穂をベッドに寝かせた。礼実はすぐさま氷枕を置き、「お姉ちゃん大丈夫?」と菜穂を見た。
「ごめん、ありがとう。えっと、何があったの?」
菜穂が眠ったところで礼実が言うと、楓は「たぶん熱中症だと思う。熱もあるから悪いけどあとお願いできる?」と礼実を見た。
「分かった。バイト先から運んでくれたってことだよね?」
「まあ、うん。そうだね」
「わざわざありがとう」
「ううん。じゃあ俺はそろそろ帰るね」
楓はそう言って立ち上がり、眠っている菜穂を見た。
礼実はそんな楓を見て、少し不思議そうな表情を浮かべた。
2人が階段を降り、玄関に行くと楓は辺りをキョロキョロを見渡した。
礼実は察したように「大丈夫。今日パパとママも旅行中でいないの」と言った。
「あ、そっか。なら良かった」と楓。
「...何が良かったの?」
礼実が言うと、楓は靴を履いて振り返った。
「いや別に」
楓の言葉に、礼実は「気、遣ったんでしょ?」と楓を見た。
「え」
「チャイム鳴らさずにわざわざ私に連絡したのも、パパとママがいないか確認したのもさ...ほら、光先輩のこと」
礼実に言われ、楓は「...まあ、彼氏じゃない方が先に家族に会うってのもなんかね」と苦笑し、「じゃあ、夜遅くにごめんね。ありがと」と言ってドアを開けた。
「こちらこそありがとう。気を付けて」
礼実の言葉を最後に、楓はドアを閉めた。
帰り道、楓がスマホを見ると【ごめんどうしたの?】と光からメッセージが届いていた。
「おせーよ....」
楓は1人呟き帰路についた。
礼実は菜穂の部屋に行き、「お姉ちゃん、とりあえず着替えよ」と声をかけ、菜穂の服を持ってきた。
菜穂は未だに苦しそうに寝ている。
礼実は菜穂の横にしゃがみこみ、布団をめくった。
制服のスカートの下に菜穂が履いていたジャージには、《桐山 楓》と刺繍されていた。




