大丈夫ですか
バイトに来るなり、楓は先にいた菜穂に「ちゃんと棚卸教えてくださいね」と言った。
菜穂は一度ぼーっとして、「え、あ、なに!?」と楓を見上げた。
楓は不思議そうに一度菜穂を見て「いえ」と言ってレジへ向かった。
そしてなんだかんだで棚卸が長引き、時刻は21時に。
事務所を出て歩き出すと、ぼーっとしている菜穂を見て、楓は不思議そうに菜穂の顔を見つめ、「あの」と口を開いた。
菜穂はハッとしたように顔を上げて「ん???」と楓を見上げる。
「唇」
楓はそう言って腰を曲げ、菜穂の顔に視線を合わせた。
菜穂は「へっ!?」と少し恥ずかしそうに瞬きをして、自分の指で唇を触った。
「大丈夫ですか?なんか、青白いですよ」
「えっそうかな?」
菜穂はスマホを出し、自分の顔を写した。
「今日バイト中ずっとぼーっとしてたし、なんか具合悪いです?」
楓に言われ、菜穂は「え、ああ、まあ..言われてみれば頭痛いような...??」と呟く。
言われ、楓は昼間菜穂が外で草むしりをしていたことを思い出した。
「もしかして熱中症じゃないですか?あんな暑い中外にいたんだし」
「え、まじかあ。嫌だなあ」
「熱はないんですか?」
楓はそう言って菜穂の額に手を伸ばしたが、すぐに止めた。
菜穂は自分の手を額に当て、「えーどうだろう....???」と呟いている。
楓は伸ばしかけた手を下ろし、「とにかく早く帰った方がいいですね。送りますよ」と言って歩き出した。
「え、大丈夫だよ~~」
菜穂はヘラヘラしながら楓に続いて歩き出した。
楓は「...なら、兄ちゃん呼んでください。帰り何かあっても良くないんで」と菜穂を見た。
「大丈夫大丈夫!心配かけたくないし!家近いし!ほら帰ろ!」
菜穂はそう言って楓の背中を押して歩き出した。
そして何事もなかったのように少し歩いた頃、いつも通り話していると、菜穂が「...うん...うん....」しか言わなくなり、楓は立ち止まって菜穂を見た。
「先輩、大丈夫ですか?さっきから何か言動がおかしいですけ――――」
楓がそう言った時、菜穂は力なくフラッとなった。
楓は咄嗟に倒れそうになる菜穂の肩を抱き、「大丈夫ですか?」と言いながら菜穂を見た。
呼吸が苦しそうな菜穂を見て、今度は躊躇なく額に手を当てた。
かなり熱くなっている菜穂の額に、楓は辺りをキョロキョロ見渡し、一度コンクリートに菜穂を寝せてから腕を引っ張り「すいません」と呟いて菜穂を背負って立ち上がった。
とりあえず近くの公園のベンチに菜穂を座らせ、スマホで病院を調べた。
だがこの時間でやっている病院はない。
「ごめん........」と苦しそうに呟く菜穂に、「喋んなくて大丈夫です」と言ってからスマホで《桐山 光》を選び、電話をかけた。
コール音が鳴り続けるも、光からの応答はなかった。
『今日俺もバイトだから、先に帰ってきたら鍵閉めていいからね』
楓は今朝の光の言動を思い出し、「ああ.....」と小さく呟いて目を瞑った。
楓はスマホをしまい、地面を膝をついて菜穂の横にしゃがみこんだ。
「先輩、すいません家の住所言えますか?病院やってないんでとりあえず家まで送ります」
楓がそう言うと、菜穂は必死に呼吸を整えながら「...ば....ん」と呟いた。
楓は「えっ、すいませんもう1回お願いします」と菜穂を見る。
菜穂は震えながら指を挙げ、自分のカバンを指さして「かばん....」と呟いた。
楓は立ち上がり、「すいません漁りますね」と菜穂に言ってからカバンを開け、ごちゃごちゃになったプリントを見つけた。
提出用のプリントに、菜穂の家の住所が書いてあった。楓はその住所をマップに入力すると「もうちょっと頑張ってください」と言ってまた菜穂の背負い、自分の荷物と菜穂の荷物を手に歩き始めた。




