ちゃんとしてから
楓は菜穂を強く抱きしめながら、「...俺、めっちゃ泣いたんです」と呟いた。
「えっ!?」と菜穂。
「だってすげー好きだったから。振られるって分かってたけど...やっぱりいざ振られるとつらくて、次の日学校休まなかっただけ褒めて欲しいです。廊下で先輩のこと見かける度に目熱くなるし、心痛いし。でも話したかったから、くだらないことで話しかけてました」
そう言った楓は、菜穂を抱き寄せる力を強め、少しして離れると真正面から菜穂の顔を見つめた。
「...好きじゃなくなるわけないじゃないですか。うざいと思うわけないじゃないですか。今更なんて思うわけないじゃないですか。なめないでもらっていいですか」
楓に言われ、菜穂は楓の顔を見上げていた。
「俺は今も、これからも、ずっと菜穂先輩のことが好きです」
楓の言葉を聞き、菜穂は微笑んだ。
「私も好き」
菜穂の笑顔を見ると、楓も嬉しそうに微笑み、そのまま菜穂に唇を近づけた。
すると菜穂は「あっ、それはまって!!!!」と大きな声を出した。
楓はビクッとなり「はいっ!?」と菜穂の顔を見下ろした。
「え、えっと、なんていうか今日光くんと色々あって...あっでも!あの、前向きな方で色々あったんだけど、その、そういえば別れたかどうか怪しいっていうか...!勢いで走ってきちゃったけどその、だからそういうのはちゃんとしてからしたいって言うか..!」
菜穂が必死にそう言うと、楓は呆れたような表情を浮かべた。
「まじですか...普通この、いい雰囲気壊します?いや..理由は分かりましたけど..うわ、萎えるわ...」
楓はそう言って横にあった縁石に腰を下ろした。
菜穂は「ええっ」と呟き楓の隣へ。
「ご、ごめん...!でもさほら、大事なことじゃん...?!中途半端にはできないって言うか...」
焦りながらそういう菜穂を見て、楓はフッと笑った。
「俺、兄ちゃんと菜穂先輩がアホみたいに浮かれてドア開けっぱなしでキスしてたところ見てるんですけど。あーあ、兄ちゃんとはするのに俺とはしたくないってことですね」
「えっ、違うって!ごめんって!!」
菜穂は青ざめた様子で言った。
楓はそんな菜穂を見て笑った。
「冗談です。ま、ちょっとまじで拗ねてますけど。もういいですよ、ちゃんとしなきゃってのは本当のことなんで」
楓がそう言うと、菜穂は安堵したように「ありがとう」と微笑んだ。
そんな菜穂の顔を見た楓は、またクスっと笑って言った。
「なに安心した顔してるんですか。むかつく」
そう言って楓はまたわざとらしく唇を近づけ、菜穂は「だあーっ!だめだってば!!」と口の前に手を広げた。
楓は笑いながら「冗談ですって」と言って態勢を戻す。
「でも、ちゃんとしたらいっぱいするんで。やめてって言ってもやめないんで。そのおつもりで」
ムスッとした表情でそう言う楓を見て、菜穂は恥ずかしそうに「そ、そういうこと普通に言わないでよっ...!!」と目を逸らした。
「だって今できないなら仕方じゃないじゃなですか。あ、それとっ!前菜穂先輩が俺の部屋に不法侵入してた時、シャツのボタン外れて下着見えてましたからね!あれまじで萎えたんですけど!」
「はっ!?勝手に見ないでよエッチっ!てかガラスが割れてたから入っただけで不法侵入って...!」
「自分が兄ちゃんとイチャイチャしてて浮かれたままウロチョロするから見えたんじゃないですかっ。見せられたんですっ」
「別に浮かれてないしっ!!」
「ふーん?はーあ、俺とはしたくないみたいだしもう帰ります」
「えっちょっと待ってよっ」
2人はそんな会話をしながら帰路についた。




