邪魔しないで
「俺がやめて欲しいって言ったら..?」
沈黙の後、光は小さく言った。
「分かったとは言えない。ごめん」
楓は真剣な眼差しで光の目を見た。光は目を瞑り、静かに深呼吸をした。
「...何で?何でそんなこと....いや違うね。何でかは分かってる...楓も、俺と同じ気持ちなんだもんね。でも俺は、そんなに器も大きくないし、できた人間じゃないんだ。自信もないし、嫌なものは嫌なんだよ」
「分かってる。だからコソコソするのは違うと思って、今日兄ちゃんに話しに来た。でも俺は、お願いしに..許可をもらいに来たんじゃない。俺がこれから兄ちゃんに嫌な思いをさせること、伝えに来た」
「そんなこと言われて…どうすればいいんだよ…」
光はそう言うと楓から目を逸らし髪をかいた。
「今までだって俺のせいでいっぱい悩ませてごめん。そのせいで喧嘩したりもしてたみたいだし、これ以上兄ちゃんの邪魔したくないって思ってた。でも…でもやっぱり自分で確かめたいし、ちゃんと振られたい。今のままじゃ俺、他の人を好きになるなんてできない、そう気づいた。兄ちゃんが俺と同じ気持ちだってことも分かってる…!分かってるけど…」
楓はそう言って口を閉じた。
「…楓はそれでいいかも知れない。満足するかも知れない。でも俺や菜穂は?俺は怖いよ。菜穂が楓を見る視線が、楽しそうに笑う声が…!全部つらいんだよ。菜穂はどうなる?俺にも楓にも同じこと言われて悩むのは菜穂でしょ?楓の方こそ、菜穂の気持ちちゃんと考えたの…?」
光の言葉を聞き、楓は少しハッとしたような表情を浮かべた。
光のこんな顔を見たのは初めてだった。
「もちろんそれで1番悩むのは菜穂先輩だって分かってる。分かったうえで、ちゃんと話したい」
楓がそう言うと、光は少し無言で楓を見つめ、また軽く髪を掻いた。
「...ごめん。言い訳してるよね、俺。痛いとこ突いて楓に諦めさせようとしてる...でも俺も引けないから、俺は楓に諦めて欲しい。俺が楓の兄弟だからじゃない。人の彼女に手出すのはやめて欲しい。余計なことは言わないで欲しい。邪魔しないで欲しい。俺は菜穂を手放す気なんかない。別れない。俺が嫌だってことはちゃんと伝えておく」
光はそう言うと溜息をつき、「...ごめん。今楓といたくない。1人にして」と呟いた。
楓はしばしの沈黙の後立ち上がった。
「...俺は悪者でも構わない。邪魔だと思われても仕方ない。でも俺も、もう諦める気なんかないから。ごめんね」
楓はそう言って光を部屋を後にした。
楓が出て行くと、光は目を瞑ってため息をついた。




