下手でも頑張りたいの
そして菜穂が一生懸命ゴールに向かってボールを投げているのを、楓はベンチに座って見ていた。
「うわあ....絶望的....」
まったくゴールに届いてすらいない菜穂のボールを見て、楓は引いたような表情で呟いた。
ドリブルなんてまったくできていない。
ボールで遊んでいるというより、ボールに遊ばれているような。
しばらく見たあと、菜穂は「もう疲れたあ〜〜」と言ってコートに寝そべると、楓はクスッと笑って立ち上がり、「まじでセンスないんですね」と言いながら菜穂に歩み寄った。
寝そべった菜穂は死にそうな顔をしている。
「しょうがないじゃん...!!スポーツ苦手なんだから...!!」
言われ、楓はまたクスッと笑って菜穂の横にあるボールを手に取った。
「いいですか、そんなに高い位置でドリブルしようとするからできないんです。先輩の背を越えるほどボール飛び跳ねさせてどうするんですか」
楓はそう言いながらその場でボールをついた。
菜穂は「おお、さすがバスケ部...!」と言いながら顔だけ楓に向けた。
「いやこんなんで褒められても」と楓。
「じゃあ教えてよ、人並み...いやそれよりちょっとできないくらいまででいいから。みんなの足引っ張りたくないの」
菜穂はそう言って体を起こし、その場に胡座をかいた。
楓は「んー、あんまり意味ないと思いますけど」と少し笑い、菜穂の前にしゃがみこんだ。
「ええ、頑張って1ミリも進歩しないことなんかないよ」
菜穂はそう言って笑った。
「ポジティブですね。俺の教え、無駄にならないようにしてくださいね」
楓はそう言うと菜穂に左手を伸ばした。菜穂は微笑み、楓の手を掴んで立ち上がった。
「ありがと〜〜〜ごち!」
あれから2時間ほどバスケをして(ほとんど遊んで)、約束通り楓は近所のコンビニで菜穂にアイスを買った。
菜穂はアイスを食べながら満足気に楓を見た。
楓もガリガリ君をかじり、呆れたように言った。
「結局何も上達せずでしたけどね。美味しいですか」
「うん!めっちゃ美味しい♡♡頑張って良かったあ」
菜穂は嬉しそうに言った。
「子供か。まあ、頑張ってはいましたね、ギリギリ。満足してくれたみたいで良かったです」
「まあまあ、結果よければすべて良しってやつだよ」
「いや結果何もでしたが」
「まあまあそんな水差すんじゃないよ。つまんない男だなっ」
「なんて失礼な」
と言いながら真顔の楓。
「ねえ楓はさあ、彼女とかいないのー?」
「いないですけど」
「え!そうなの?!じゃあ好きな人は??♡♡」
「そのテンションうざいです。最終的に惚気ようとしてますよね」
楓がそう言うと、菜穂は「バレたかあ」と笑い、アイスの最後の1口を食べた。
「まあ、頑張ってたんで1つだけ聞いてあげてもいいですよ。兄ちゃんのどこが好きなんですか」
楓は呆れたように言った。
菜穂は「え!!!!」とニコニコと笑い、楓の方を見た。
「んっとねえ、まず優しいところでしょ?かっこいいし〜爽やかだし〜頭も良くてね〜〜。んー、挙げ始めると一生止まらないかも...♡」
菜穂はニヤニヤしてそう言うと、楓は「はいはい。じゃあ今日は終わりで」と言って最後の1口を食べ、「あ、当たった」と呟いた。
「まじ?じゃあ今度引き換えようよ」
菜穂は楓のアタリ棒を覗き込んだ。楓は「いやこれ俺のなんで」と呟く。
「じゃあ次アタリが出たら私にちょうだいね」
「はいはい。ま、兄ちゃんああ見えても無理してるとことかあると思うんで、仲良くやってくださいよ」
楓はそう言って立ち上がり、リュックを背負い始めた。
「おお!応援してくれるの??」
菜穂もそう言って立ち上がる。
「まあ、変な人と付き合われるよりは助かります。って言っても、菜穂先輩結構変でした。撤回します」
「え、ひど。まあ任せてよ♡♡♡私が光くんのこと幸せにするからさ♡♡♡」
菜穂もリュックを背負った。
「先輩バカなのに人のこと幸せにできるんですか」と楓。
「バカと天才は紙一重って言うでしょ、出世するかも」
「バカですね。てか早くジャージ脱いで下さい。帰りますよ」
「脱いでだなんて大胆だなあ」と言いながら菜穂はジャージを脱ぎ、「ありがと!」と言って楓に差し出した。
「くだらないこと言わないでください」
楓はそう言いながらジャージを受け取り、2人は公園を後にした。




