好きな人がいること
そう言われ、楓は「えっ?」と言って飛鳥の方を見た。
飛鳥は楓から離れ、楓の顔を見上げて微笑んだ。
「...今日1日楽しかった!ううん、楓くんと付き合ってた時間、全部が楽しかった!やっぱり楓くんはかっこよくて、優しくて..素敵な人だった!一目惚れだったの。入学した時からずっと。ずっと楓くんを見てた。見る度に好きになって、でも話しかける勇気もなくて、結局文化祭の時まであんまり話しかけられなかったけど...でもあの時、勇気出して良かった。一緒に花火見れて、付き合ってくれて、すっごく幸せだった!好きな人がいることって、とっても良いことだね。楓くん、ありがとう」
飛鳥はそう言うとまたニコッと微笑み、振り返って空を見上げた。
「...私、楓くんのことが好き。大好き。だから、別れてあげるね」
そう言って飛鳥はまた振り返り、楓を見た。
楓はそんな飛鳥を見つめ、「飛鳥ちゃん..」と呟いた。
「私が楓くんに振られたんじゃないよ、私が楓くんを振ったんだよ。だから...だから、私のこと傷つけちゃったとか、そんなこと思わないでね。そんなの、思い上がりだからね!だって、振られたのは楓くんなんだもん。私の意思で別れるんだもん。そうでしょ?」
そう言った飛鳥の目には、涙が浮かんでいた。
飛鳥は微笑んで続ける。
「...昨日、泣いてる私を抱きしめてくれて嬉しかった。それが、私の好きとは違う好きだったとしても、それでもね、楓くんの優しさが伝わってきたの。少なくともあの瞬間は、私のことを大切に思ってくれたと思うから。だから、困らせたくないと思った。応援したいと思った。私の好きな楓くんだけじゃなくて、桐山楓という人間を見ようと思った。だからね、優しくしてくれてありがとう」
言われ、楓は苦笑した。
「俺いま...すっごい驚いてる。てか、すっごい尊敬してる...」
楓がそう言うと、飛鳥は「なにそれ」とクスッと笑った。
「俺...飛鳥ちゃんに酷いことばっかしたのに、そんな風に言ってもらえるとか、思ってなくて..俺のこと好きって言ってくれてるだけでも嬉しいことなのに、こんな状況になってまで..そんなこと言ってもらえて。まじで俺、ださ過ぎる...」
「そんなことない。私は楓くんと付き合えて良かった。ファーストキスが楓くんで良かった。一生忘れない。楓くんは後悔するって言ったけど、きっとしないと思う。もし後悔したとしたら、その時は友達に愚痴って、ネタにするね....!」
飛鳥はそう言って涙を流しながら笑った。楓は頷き、クスッと笑った。
「うん...変なあだ名とかつけて愚痴っていいよ。キスが下手だったとか、つまんない男だったとか、ボロクソ言っていい。でも...どんなに嫌いになったとしても、俺が君の元彼だって、ちゃんと覚えていて欲しい」
「いいよ...!20歳になったら、お酒飲みながら今日の話しようよ。いっぱいボロクソ言うから...!」
飛鳥はそう言って微笑み、楓は「うん、ありがとう」と言った。
「もう1回ハグ、してもいい?」
飛鳥がそう言うと、楓は「..もちろん」と頷き、飛鳥を抱き寄せた。
飛鳥は嬉しそうに楓に腕を回し、「…この匂い、やっぱり好きだなあ」と呟いて微笑んだ。
楓は「ありがとう」と微笑み、そう言う飛鳥の髪を撫でた。




