代わりでいいから
「飛鳥ちゃん....」
泣いている飛鳥を見て、楓は我に返ったように呟いた。
飛鳥は苦笑し「あれ..なんでだろう...?嬉しいのに...あれ..」と呟いて指で涙を拭った。
「ごめん...俺自分のことばっかりで...ごめん..!」
楓はそう言って指で飛鳥の涙を拭い、ティッシュを取ろうと立ち上がろうとした。
すると腕を掴まれ、「やめないで...!」と飛鳥は真っ赤な目で楓を見上げた。
「えっ....」
楓その場で固まると、飛鳥は「やめないで...泣かないから..!もっとして...」と呟き、楓の腕を掴む手に力を込めた。
「好きじゃなくてもいいの..!私は楓くんが好きだから...だから最後までしよう?初めては楓くんがいい...!代わりでいい...菜穂先輩の代わりでいいから、そう思いながらでいいから..!だからやめないで..!」
そう言った飛鳥の目からは、次々と涙が溢れてきていた。
楓は目を見開き、ゆっくりとまたその場に座った。
「...ごめんね、俺のせいで...そんなこと言わせて」
楓はそう言うとゆっくり飛鳥のシャツに手を伸ばし、さっき開けたボタンを2つ閉めた。
「嫌だ..やめないで..」と飛鳥は小さく呟き、楓の手を握った。楓も手を握り返す。
「そんなこと言っちゃだめだ。絶対に後悔する。飛鳥ちゃんが好きなことも大事だけど、やっぱり飛鳥ちゃんを好きな人じゃなきゃだめだよ。俺には、飛鳥ちゃんから大事なものをもらう資格なんてない。ひどいこと言ってるのも分かってる...本当にごめん。勝手なことばっか言って」
楓がそう言うと、飛鳥は「でも...!」と泣きながら楓に抱きついた。
楓は優しく受け止め、頭を撫でた。
「ごめん利用するようなことばっかして...ごめん。ごめんね....」
2人はそのまま抱き合い、気づけば雨は上がっていた。
******
20時半頃、飛鳥はようやく落ち着き「…ありがとう」と鼻を啜った。
楓も飛鳥から腕を離し、「落ち着いた?」と言って顔を覗き込んだ。
「うん…大丈夫…!」
飛鳥はそう言って苦笑した。
「そっか、良かった。今日はもう遅いしそろそろ帰ろっか。送るね」
楓はそう言って立ち上がり、飛鳥に手を差し出した。
飛鳥は「うん…!」と呟いて楓の手を握り立ち上がった。
玄関へ行き、靴を見ると光の靴が既にあった。
そんなことを考えると玄関が開き、「ただいま〜…」と湊が帰ってきた。
湊は飛鳥を見るなり「こんばんは!」と微笑んだ。
飛鳥は「あっ、こんばんはっ!」と言って顔を隠すように俯いた。
湊は一度不思議そうに楓を見るとリビングへ「ただいまー」と入って行った。
******
帰り道は手を繋ぎ、他愛もない話をして帰った。
さすがに飛鳥のあの様子で冷静に話ができる気がしなかった。
俺って本当最低だな……
家に帰り、「ただいまー」と言って部屋に直行すると、「楓兄っ」とすぐに湊が入ってきた。
楓は呆れた表情で湊を見てベッドに横になった。
「うーわ、絶対来ると思ったわ…」
楓がそう言うと、湊はなぜか満足気にニヤニヤ。
「可愛いじゃーん、彼女〜」
「うるさ」
「でも楓兄、決めたんだ?」
「決めたって?」
「え?あの子と別れたんでしょ?泣かせてまで。目真っ赤だったよ〜」
言われ、楓は玄関で飛鳥の目が腫れていたのを湊が見逃さなかったことにまた引いたような表情。
「…まだ別れてないよ。これから話すつもり」
「ふーん。大変だね〜」
湊はそう言って本棚から漫画を取り、椅子に座ってパラパラとめくり始めた。
「茶化しに来たなら出てけよ…」




