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転生令嬢たちの集いと、この世界についての考察 1話

 台無しになった舞踏会から2ヶ月後。元2年5組の転生令嬢たちは、今日も学園の一室に集まっている。

『クラウディア様主催の淑女のための勉強会』という名目で、週に1回程度、集まることが定例になった。



 何かと忙しいクラウディア様こと黒川先生は、今日もいない。だいたいいつも遅れてくる。

 後、今日来ていないのは、樋口さんことヒルダ様と、前世で親友だったマリア様ことらんちゃんだけ。他のみんな(特に高位貴族の人)もそれなりに忙しいはずなのに、回を重ねるごとに出席率が上がっている。

 と、いうのも……



「見てよ、この爪! せっかく伸ばしてたのに、こんなに短く切りやがった! こんな短い爪じゃ、ネイルも映えないってーの!」


「唇に艶を出そうと思って少しだけはちみつを塗ったらさ『お口が汚れていますよ。きれいになさい』て、口紅ごと拭き取りやがったんだよ! 艶と汚れの区別も付かねー老眼ババアが!」


「カビの生えた淑女教育しかできねー老害ババア、ほんとムカつく!」


「自分自身にカビが生える前に、とっとと消えろって感じー」


 ニーナ様こと新見さんと、ライラ様こと楽さんが、足を組み、髪を指先でいじりながら暴言を吐く。いつも伯爵令嬢然として、立っている時も座っている時も姿勢良く美しい所作をなさる2人とは、全くの別人だ。

 前世の記憶を思い出したための言動なのか、普段の完璧な淑女としての振る舞いでストレスを感じているからか分からないけれど、今の砕けた感じの方が私は好感が持てた。



 新見さんたちと机を挟んで反対側には、セシリア様こと芹沢さんと、タミー様こと橘さんが、話している。


「寮の周りをランニングしてたら『淑女は走りません! いつどんな時も、優雅に歩きなさい!』て、寮監に怒られてさ。そんなんだから、関取になるんだよね?」


 小柄で小太りの寮監のまわし姿をイメージして、吹き出しそうになった口をくしゃみのフリで誤魔化す。


「あの寮監、すぐに家に連絡するから、睨まれないようにした方がいいよ」


「マジ?」


「思い出したら走りたくなってさ、寮前の直線をダッシュしてたら見つかって『淑女にあるまじき行いです! はしたない!』て、家に手紙書かれた」


「うわっ! 最悪っ!」


「うちの親は大らかだから『おてんばもほどほどに』て、気にしてなかったけど、明日香んとこは、厳しいんじゃなかったっけ?」


「うん、厳しい。めっちゃうるさい。だから、走ってストレス解消したいの!」


「あたし、寮監の見回りスケジュール、だいたい分かるよ」


「マジ?」


「マジマジ。時間合わせてさ、一緒に走ろうよ」


「ありがとー! さすが、タミー先輩!」


「はっはっは!先輩にまっかせなさーい!」



 視線を部屋の奥に向けると、8人程が集まって小さく手を振りながら、足を上げている。今日のダンスは、MiziUらしい。

 今世でもダンスはする。必須科目として習ってもいるけれど、そのダンスは社交ダンスのみ。前世のようなダンスをして見せたら、先生や寮監が白目をむくに違いない。




 前世を思い出した直後は、みんな『前世知識で学園を改革しよう!』なんて、思っていた。だけど、学園改革は全く進んでいない。

 まず、伯爵令嬢の楽さんと新見さんが中心となって、新しいメイクやネイルを発信しようとしたけれど、先生や寮監から家に連絡が行って潰された。

 前世で流行っていた歌やダンスを流行らせようとした一団(今、教室奥で踊ってる子たち)も、革新的過ぎて受け入れられず。

 ならば、食の世界から改革をと料理長に直談判に行けば『材料が手に入らない』『手間がかかり過ぎる』ハンバーガーを頼んだ時は『そんな食べ方、許せるわけないでしょう!』と、全く聞いてもらえなかったらしい。

 そんな訳で、クラウディア様主催の勉強会という名の交流会は、今やただのストレス発散の場となっていた。


 かく言う私の一番のストレスは、この世界に漫画、アニメ、ゲームなどのサブカルチャーがないことだ。あのアニメや漫画の続きは……攻略し終わってないゲームの続きが……などと考えると切なくなるので、この世界の小説を読んで紛らすことにしている。



 みんながみんな、前世を思い出したがゆえのストレスを抱えている中、全くストレスを抱えていなさそうな人がいる。それは……


「こんにちはー!」


 突然開いたドアから、満面の笑顔で入って来たのは、燃えるような赤い髪をポニーテールにしたズボン姿の令嬢、樋口さんことヒルダ様。


「ヒルダ。また、ノック忘れてるわよ。何度同じことを言わせるの」


「えへへ。ごめんねー」


 新見さんに、氷の令嬢モードで注意されるも、ヒルダ様は、全く堪えていないようだ。



 ヒルダ(前世名より、今世の名前で呼んで欲しいと本人が言うので、みんなそう呼んでいる)様は、前世で柔道をやっていたが、ケガで柔道を続けられなくなって無気力症候群になっていた。しかし、今世で再び健康な体を手に入れたため、主だった武術が剣術しかないこの国に、柔術を広めることを決意したという。

 他の女子生徒なら、先生たちから待ったがかかるだろうけど、ヒルダ様は、騎士家系で有名なナブラチロワ家出身ということで、柔術も、ナブラチロワ家が編み出した武術ということで、すんなり受け入れられたらしい。



「注意するだけムダかよー」


「これだから、脳筋は……」


 前世ギャルモードに戻った新見さんと楽さんが、唇を尖らせて文句を言い始めた時、ヒルダ様の後ろに隠れていた人物が姿を現した。


「こんにちは。遅くなってごめんなさい」


 前世で親友だったらんちゃんことマリアが、ぺこりと頭を下げて入って来た。

 その途端、部屋の空気が華やいだ気がした。


「マリア!」


「マリア! 一週間ぶりー!」


「マリアちゃん! 待ってたよー!」


「マリア! 会いたかったー!」


「マリアちゃん! 今日もかわいいねー!」


「みんな、ありがとうー! あたしも、会いたかったよー!」


 楽さん、新見さんを始め、教室奥で踊っていた面々が、らんちゃんの元に殺到して、抱きついたり頭を撫でたりして、もみくちゃにする。

 今世のらんちゃんは、絶世の美少女で天真爛漫な愛され性格。さらには、アホ王子だけでなく、何人かの男子生徒にもストーカーされていた(いくつかの遺失物は、その男子生徒が隠し持ち、後に届けて会話のきっかけとしていた)ことが判明したため、元クラスメイトたちは、らんちゃんを一致団結して守ることを決意した。

 その結果、らんちゃんには『守るべきかわいい妹』属性が付与されたと思っていたけれど、最近、違う解釈が生まれてきている。



「マリア。ここに座りなよ」


「これ、新作のお菓子。食べるでしょ?」


「マリアの手、ちっちゃくてすべすべで、赤ちゃんの手みたい!」


「このピンクのネイル塗っていい? マリアのちっちゃい爪に、似合うと思うんだよね」


「この前、買い物しててかわいい髪飾りを見つけてさ。マリアに似合うと思って買っちゃった! 付けていい?」


 椅子に座ったらんちゃんに、中村さんがお菓子を食べさせてあげて、橘さんが髪を結ってあげて、楽さんと新見さんが、ネイルを塗ってあげているハーレム状態。


『みんな、らんちゃんに攻略されたってことなのかな?』


 前世を思い出した時、らんちゃんの容姿や性格が乙女ゲームのヒロインっぽいと思ったけれど、アルフレッドの婚約破棄は失敗に終わった。危なかった断罪返しも、悪役令嬢ポジのクラウディア様(黒川先生)の助力により、らんちゃんも純粋な被害者との認識が広まり、アルフレッドだけを糾弾して終わった。

 

 これらのことと現状を見て思うのが、この世界が『百合系乙女ゲーム』ではないかと言うことだ。

 攻略対象が、王子やその他の男子生徒ではなく、女子生徒。攻略されてるのが、転生令嬢たちばかりってのが気になるけど、そう考えると、今の状況も理解できる。らんちゃんは、意識的にか無意識的にか、女子生徒を攻略しているんだ。


『えっ? もしかして、私もらんちゃんに攻略されちゃうの?』


 モブでしがない男爵令嬢は攻略対象外かなと思う一方、攻略された人たちの中には、下位貴族もいる。となると、私だけ例外とは考えにくい。


 そんなことを考えて、1人頭を抱えていると、ノック音がした。


「どうぞー。開いてまーす」


 楽さんが、らんちゃんの手にネイルを塗りながら言う。


「遅くなってごめんなさい」


 そう言って入ってきたのは、腰まで届く艶やかな黒髪の長身の女子生徒、クラウディア様こと黒川先生だ。


「黒川先生! やっと来たー!」


「待ってたよー」


「待ちくたびれたー!」

らんちゃんを構いながら、みんなが声を上げる。


「くろっち、おっそーい!」


「楽さん。ちゃんと、黒川先生と呼んでちょうだい。それか、クラウディア様ね」


「えー! くろっちの方がかわいいのにー! じゃあ、クラッチって呼んでいい?」


「ダメに決まってるでしょ」


「つまんないのー」


 もう先生じゃないんだから、先生呼びにこだわることもないんじゃないかと思うけれど、黒川先生のこだわりなのか、楽さんとのこのやり取りを楽しんでいるのかが分からなくて、ちょっと困惑する。


「どうせ、またアホ王子に付きまとわれてたんでしょ?」


「新見さん。アルフレッド様と、ちゃんと呼んでちょうだい。変な呼び方をしていると、咄嗟の時に出ちゃうわよ」


「だいじょーぶ! その辺の分けっこは、プロ並みに上手いからさ、あたし!」


 確かに。新見さんの氷の令嬢モードとギャルモードの切り替えの上手さは、同じ伯爵令嬢の楽さんより、上手い気がする。


「黒川せんせーも大変だねー。あんな男、さっさと捨てればいいのにー」



 あれだけ恥をさらしてフルボッコにされたアルフレッドは、大した罰を受けていないどころか、黒川先生との婚約も解消されていない。

 噂では、国王・王妃に並んで、第一王子夫妻に末姫までもが、黒川先生に頭を下げて懇願したとか、他国に嫁いだ姉姫から、謝罪とお詫びをするから愚弟を見捨てないでやってくれとの手紙が届いたとか。

 噂の出所も真偽も教えてくれない黒川先生は「アルフレッド様が本当に反省して、行いを改めるかどうかを見極めてる途中なの。婚約の解消は、いつでもできるからね」と、言ったきり、この話は打ち切られてしまった。



「黒川先生に捨てられたら、廃嫡間違いなしだもんね!」


「国外追放になればいいのに」


「2度と顔見たくないから、生涯幽閉して欲しいー」


「いいね、それ!」


 ここでのみ許される、言いたい放題の会話。みんな本気じゃないのは分かっているけれど、内容的にちょっと肝が冷える。


「今日は、がんばってたよ。アルフレッド殿下」


 突然、会話に入って来たのは、みんなにお世話されるらんちゃんを、上機嫌で眺めていたヒルダ様。


「ヒルダ。なんでそんなこと、知ってるの?」


 楽さんが、みんなを代表して聞く。


「アルフレッド殿下にも、柔術を教えてるんだ」


「ヒルダが?」


「そう。国王様から『あいつを鍛え直してくれ』て、頼まれてね。今日も10回くらい投げ飛ばした」


「あははは」


「よくやったヒルダ!」


「ざまぁ、ないじゃん」


 みんなが楽しそうに笑い合う。それを見て、黒川先生もほっとしたように笑った。

 あんなアホでも、一応婚約者だ。あそこまで悪様に言われるのを、よく思っていないんだろうか?


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