10話
「次は、アルフレッド様からドレスを贈られて、一緒に舞踏会に参加することになった経緯を教えていただける?」
「はい。家の都合で入学が3ヶ月遅れたため、私は学園の行事にはすごく疎かったんです。舞踏会があるということを知ったのも1月ほど前で、急いでお父様にドレスの用意をお願いしました。ですが、時間にもお金にも余裕がないので、ドレスを用意するのは難しいと言われてしまい、困っていたところ、アルフレッド様がドレスを贈らせて欲しいとおっしゃってくださいました」
「アルフレッド様に、ドレスのことを相談したのですか?」
「いいえ。困ってはいましたが、相談はしていません。制服で参加しても大丈夫か、ヒルダに相談していたところにアルフレッド様がやってきて『ドレスを贈らせて欲しい』とおっしゃってくださいました」
「じゃあアルフレッド様は、マリア様とヒルダ様がお話ししているのを聞いて、ドレスがないことを知ったのね?」
「はい! アルフレッド様は、ヒーローのように、いつも私を助けてくださいます!」
「迷子やドレス以外でも、助けてもらったことがあるの?」
「はい! 私が落としたことに気付かないうちに、私の落とし物を拾って届けてくださったり、読みたいと思っていた本を貸してくださったり、食べてみたいと思っていたお菓子を分けてくださったり。本当に、いつも私を助けてくださいます!」
きらきらした笑顔のらんちゃんと、鼻高々にふんぞり返るアルフレッド。黒川先生は頭痛に耐えるように、頭を抱えている。
ストーカー王子の恐ろしさに声も出ない私とは反対に、転生令嬢たちはかしましい。
「盗聴? 盗聴器まで、しかけてんの?」
「この世界に盗聴器ってあったっけ?」
「ないない。そこまで科学文明進んでない」
「多分、従者に見晴らせてるんだよ」
「どこまで? まさか、寮でも?」
「かもね。じゃなきゃ、読みたい本とか、食べたいお菓子なんか分かるわけないわ!」
「やだっ! それ、のぞきじゃん!」
「こわっ!」
「キモ!」
「マジ無理!」
「同じ空間にいたくない!」
最初は囁くような声だったのが、だんだんと大きくなっていって、アルフレッドどころか、壁際に寄っている令息たちにまで届くような大声になっていった。
「おまえたち、何を騒いで……」
「「「きゃー!!」」」
「なっ、なんだ?」
多分アルフレッドは、令嬢たちが勝手に騒いでいるのが気に食わないから注意しようとしたのだろう。だけど、らんちゃんの一連の告白により、アルフレッドに対する印象が完全に変わってしまった令嬢たちは、アルフレッドに声をかけられ、思わず叫んでしまったのだ。
『素敵な王子様』から『浮気男』に。そして、『気持ちの悪いストーカー男』へと。
「黒川先生! こいつ、逮捕しないと! ストーカー規制法で逮捕!」
かなり取り乱しているニーナ様こと新見さんは、アルフレッドを指差した上に、こいつ呼ばわりした。
いつも冷静で、表情を崩すことすらないニーナ様の様子に、周囲の令息たちからどよめきの声が上がる。
「新見さん、落ち着いて。この世界に、ストーカーを罰する法律はないの。残念だけど」
「マジ? 婚約者以外の女をストーカーするキモ男なのに、死刑にできないの?」
「楽さん。気持ちは分かるけど、言い過ぎです」
2人をたしなめる黒川先生も、アルフレッドに対して容赦ない。
ここまではっきりと口には出せないけれど、私も元クラスメイトたちも、同じ気持ちだ。
「みんな、なんであんなに騒いでるの? 私、また変なことした?」
「いいや、マリア。上手に説明できていたと思うよ」
そう言って、ヒルダ様はらんちゃんの頭を撫でる。あの2人だけ、別世界にいるみたいだ。
「クラウディア! それに、おまえとおまえ! 不敬にもほどがある! それに、おまえたちもさっきから、何を騒いでいるんだ!?」
「アルフレッド様」
黒川先生が、みんなを庇うようにアルフレッドの前に進み出る。
「ご確認したいことがございます」
「なんだ」
「先ほどのマリア様のお話に、虚偽、誇張はございませんね?」
「ああ、間違ってはいない」
「それではやはり、アルフレッド様が勘違いなさっただけで、マリア様に非はないのですね」
「あ! いや、だから、それは……」
らんちゃんに騙されたとか騒いでいたくせに、らんちゃんに『ヒーロー』と言われただけで、そのことすっかり忘れてしまうとは。本当にアホだな、この王子。
「マリア様もおっしゃっていたように、クラスメイトからの注意を嫌がらせとは思っておられないようですし、私物の紛失も『アルフレッド様のご助力』もあって、すぐに見つかっているようですね」
「ああ、まあ……そう、だなぁ……」
アルフレッドの声が、みるみる萎んでいく。
「では、私と婚約破棄する理由はございませんね? 婚約破棄の理由となった『マリア様を虐げた』事実がないんですもの」
「まあ……そう、だな……」
アルフレッドのそり返っていた肩が、情けなく萎む。アホ王子がやり込められてざまぁと思ったのは、一瞬だけ。
一瞬萎んだ肩が再びそり返ったかと思うと、満面の王子スマイルを浮かべ、片膝を付いて黒川先生に手を差し出した。
「クラウディア。不慣れな新入生を哀れに思ったばかりに、君のことまでも誤解してしまった。許して欲しい」
「アルフレッド様。誰でも間違えることはあります。大切なのは、間違いを認め、それを正すことだと、私は思います」
「ありがとう、クラウディア。聡明な私の自慢の婚約者」
アルフレッドのあからさまな手のひら返しを気にしていないかのように、黒川先生は微笑んでいる。だけどその両手は、体の前で重ねられたまま、微動だにしない。まるで、差し出されている手に、気付いていないかのように。




