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終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
25/30

24

 訪れた暴風は、次々と街のガラスと言うガラスを砕く。


 同時に閃光が爆発し、瞬く間に街を包み、状況が理解できず呆然と立ち尽くしていたゴーシュだが、慌てて家の中から飛び出してきた妹たちの姿を見てギョッと目を剥いた。


「っ痛! 兄さん! 怪我はありませんか?」


「大丈夫!? お兄さん!」


 ロアもイーリアもその体に無数の裂傷がある。おそらく割れた窓ガラスで切ってしまったのだろう。


「俺のことは構うな! それよりも早く手当てをしないと……」


「そっか、兄さんは怪我無かったんだ。――よかったぁ」


 安心した表情を見せるが、ゴーシュの胸中は急ぐ気持ちでいっぱいだ。

 二人を連れて家の中へと移動し、ガラスが散乱したリビングを抜けて救急箱の近くまでやってくる。


 二人とも裂傷が酷く、出血が止まっていない。


 治療の際の消毒で、痛がり暴れる二人を力で押さえつけながら、ゴーシュは治療する。


「ごめん、ごめんな……」


 痛がる彼女らを無理矢理押さえつけることにゴーシュは罪悪感を覚える。


 何とか治療を終えて包帯を巻き終えるころには、家の外でも状況を理解して――いや、正しくは理解できない状況だと言う事を理解したと言うべきだろう。


 とにかく、街に何か被害が起こったとわかった人たちの悲鳴が聞こえてくる。


「いったい何が……」


 疑問に眉根にしわを寄せるゴーシュに、ロアがぼそりと呟いた。


「もしかして、ゴーストタウン化の権化?」


「ゴーストタウン化って、なんでそんなことがわかるんだ?」


「だってほら、噂じゃ窓が全部吹き飛んでいたって」


 そう言えばそのような噂を耳にした気がする。と頭をひねりながら思い出し、しかし考えるのは後だと瞬時に理解する。


 現状のような場合になったときの対処法は両親によって示されている。


 ゴーシュは痛みに顔を歪める二人の手を取ると、リビングのカーペットをめくり床板を外す。

 すると地下へと続く階段が伸びていた。

 初めて通る道だが、今は両親の言うことに従うほかない。


 歩みを進め、セキリュティーを突破、そうしてたどり着いたのは真っ白なオフィスのような研究室。


「ここは……?」


 最初に声を出したのはロアだった。彼女には伝えられていなかったのだろう。


「ここは『現人神計画』の研究室、だそうだ。もしものときはここへ逃げ込んだら他の研究員さんが……あっ」


 説明をしていると、こちらに向かって銃口を向ける一人の男性を見つけた。


 男性はゴーシュの姿を捉えた瞬間、驚きつつも安どの息を吐いた。


「き、君たちは……ゴーシュ君にロアちゃん? それにイーリアじゃないか!」


 白衣を身に纏い丸渕のメガネを掛けた、いかにも研究員と言った相貌の彼は驚きながらも、しかし両親から知らされていたのだろう。

 「こっちへ来て」と言いながら奥の部屋へと通された。

 そこは会議室のような部屋で、二十名ほどの白衣を着た男女がその手にサブマシンガンを持って緊張の面持ちで立っていた。


「これは……」


「な、なんだ。侵入者はゴーシュ君たちだったのね」


 状況を理解できずにいたゴーシュに対し、職員たちはゴーシュたちを視界に捉えると安心したように頬を緩ませて銃を下ろす。


「突然の侵入者警報だから、敵襲かと思ったけど、よかった」


「あ、あの! 皆さんは『現人神計画』の研究者と言う事で良いんですよね?」


 緊張の糸が緩んだ隙を突いて、ゴーシュは思い切って質問する。

 それに丸渕メガネの最初の男が返答した。


「そうです。責任者であるランペルージュさんたち――つまりは君たちの親の部下に当たります。外の状況に慌ててしまい、先ほどは驚かせてしまい申し訳ありませんでした」


「銃のことですよね? 大丈夫ですよ。でもこれからどうするんですか? と言うか外ではいったい何が――」


 質問攻めにしようとした言葉は、研究員の内の一人の女性が手を鳴らすことで遮られる。


「ゴーシュ君。その前に……」


 女性はゴーシュの後ろで玉のような汗を浮かべながら苦痛に表情を曇らせるロアとイーリアに視線をやってから――


「先にその子たちをちゃんと治療した方が良いんじゃない?」


「ロアッ! イーリアッ!」


「だ、大丈夫……です。心配はいりません」


「そうそう、ちょっと傷が痛いだけだから」


「意地張ってる場合か……っ! すぐに治療をお願いします!」


 二人を女性に預けて治療室へと連れて行ってもらい、その間は状況確認を行った。


「今、外ではいったい何が起きているんですか!?」


 戸惑いながらに叫ぶゴーシュに、研究員は冷静な声音で言葉を紡ぐ。


「現在王都は敵の攻撃を受けています」


「敵……?」


「はい、敵……『天の地』の一人が『神聖兵器』を持って、この街を蹂躙しています」


「な、何故そんなことがわかるんですか?」


「何故、と言われましても……。国の調査で判明したことです。対策のしようもない――いえ、違いますね。対策しようと意味のない神聖兵器使いに侵略を受けていると言い、民衆の不安を煽るのは得策ではないので、国のごく一部にしか知らされていなかったのです」


 男はメガネのブリッジを人差し指で押し上げながら続ける。


「で、ここからが本題なんですが……イーリアは魔法の教育はすでに済んでおり、国を守りたいと言う感情もゴーシュ君たちのおかげで完璧。これから彼女を持って、敵を排除したいと思います」


 男が何を言っているのか、一瞬わからなかった。


 耳に入ってきた言葉の意味を認識したくないと、脳が拒絶する。


「……え?」


「ふむ、混乱するのも仕方ないですか。では、端的に言います」


 言葉の意味を理解できないとばかりに、口をポカンと開けたままアホ面を晒すゴーシュに、男は凍てつくような冷たい瞳をメガネの奥で細めて、言った。


「――イーリアを戦争に参加させます」



  ★



 ――目が、覚めた。


 目の前にあるのは知らない真っ白な天井。ここは何処だろうと体を起こし、すると後頭部に強い鈍痛が走る。

 手で触れてみると大きなたんこぶになっていた。


「何で俺は……」


「あ、起きた? ごめんなさいね。乱暴して」


 聞こえてきた声の方へと視線をやると、そこにはロアとイーリアを治療すると言って連れて行った女性が居た。


「あ、私はアン。まぁ、いろいろ聞きたいことはあるだろうけどさ……大人しくしててくれる?」


 アンと名乗った彼女は拳銃を突きつけながら苦笑を浮かべる。


「これは……っ! そうだ、俺――」


 イーリアを戦争に参加させると言われて憤慨したゴーシュは、その場でメガネの男性に殴りかかり、そして他の研究員に取り押さえられるように頭部を殴られ、気絶していた。


 近くにある時計に目を向けてみると、研究所に来てから三時間ほどが経過している。


「……イーリアは?」


「ロアちゃんは別室に居るわ」


 答える気のない彼女の態度から、現在イーリアがどこにいるのかは想像に難くない。


「退いてください」


「行かせないわよ。外は今、『神聖兵器使い』と『現人神』が戦っているのよ」


 アンの言葉に呼応するように大きな振動が上から響き、爆発音が聞こえてくる。


 ……イーリアが、戦っている。


「行かなきゃ、いけないんです」


「駄目、そんな自殺のようなこと、許可できるわけないでしょ?」


 どうしても通してくれないな、と思ったゴーシュはそっとアンの頬に手を伸ばす。それはとっさに思い付いた一か八かの賭けだ。


 ゴーシュは一度小さく深呼吸すると上目遣いにアンを見つめて、出来うる限りの真剣なまなざしで訴えかける。


「お願いします! アンさん! 俺はイーリアを――妹を一人で戦地に送り出すようなことは出来ない」


 そう、ゴーシュが選んだのは籠絡と言う手段。


 常日頃から「顔だけは……」とロアに言われ、実際に妹である二人はあれほどの美人である。

 故に、もしかすれば程度の考えでの頼みだったが……それを受けたアンの顔が真っ赤になる。


 ……極秘の研究員と言うこともあって出会いも少なかったからなのだろうが、幸いにして効果はあったようだ。


「で、ですが……」


「妹を守りたいんですッ!」


 右手を彼女の頬に、そして開いている左腕を滑らすようにして握られている拳銃へ。


 迷っている様子の彼女から拳銃を奪取することは容易かった。

 奪うと、「ありがとうございます」と告げてから立ち上がり、部屋を後にする。


 何も言わずゴーシュの背を見送るアンに、再度心の中でありがとうと呟いてから外へ向かって駆けだした。

 外に出ると大通りの方から大きな音が聞こえてきた。


 できるだけ静かに、しかし胸中では急ぎながら現場に向かうと、その光景に目を奪われる。一言で表すならば――神々の戦い。


 神話に匹敵するほど美しく、無慈悲で暴力的な争いだ。

 魔法を行使しているからなのか、イーリアの体は黄金色のオーラを纏っており、天空を舞う『何か』に向かって光の矢を幾度となく射出している。


 対してその『何か』は、目にもとまらぬ速さで攻撃を仕掛けてはイーリアの防御魔法に阻まれて有効打を与えることが出来ていない。


 しかし、イーリアの魔法もだんだんと追いつかなくなってきて……ついに突破され光速の一撃が彼女の華奢な体を吹き飛ばした。


 飛び出したい衝動に駆られるが、今飛び出しても何にもならない。

 現在ゴーシュは空飛ぶ『何か』に対し、唯一不意を突ける立場だ。

 手に握る拳銃には八発の弾薬。


 現人神であるイーリアが後れを取っている以上、今の立場を捨てるのは得策ではない。

 唇を噛みしめながら見守ることしかできないゴーシュ。


「――っ! せめて、一瞬でも動きが止まれば……ッ!」


 イーリアの言葉を聞いて、それが出来るのは不意を突ける自分しかいない、とゴーシュは悟る。


 しかし、目で追うことすら困難なほど高速で動く相手に拳銃を当てるなど、ましてや初心者のゴーシュには不可能に近い。


 ……どうすれば。


 爪を噛みしめ、思案する。


 高速で動く相手。

 目で追うことすら不可能。

 自分の射撃の腕はまず近距離でないと当たることは無い。

 敵は現人神であるイーリアをも越える力を持っている。

 そんな敵の動きを、止めるには……。


 ぐるぐると脳みそがフル回転する。

 ショートを起こして焼き切れるのではないかと言うほどの速さであらゆる『計算』がなされる。


 常人では到達できない、まさに『現人神計画』の責任者たちの息子に恥じない、思考速度。

 いくつもの策を思いつき、そのすべてが却下され、新たに思いつき、却下され。

 焦燥が思考を鈍らせに掛かるけれど、それでも止めない。


 例え脳が擦り切れようとも、頭の中をパンクしそうな程の情報量が飛び交っていようとも、こんな苦痛、妹の為だと思えばどうと言うことは無い。


 自分に好意を持ってくれた、イーリアと言う少女の為。


 叶わない恋だとわかりながら、悲恋だとわかっていながら自分に好意を寄せてくれた彼女だからこそ、ゴーシュは助けたいと強く思うのだ――。


 そしてその為ならば……。


「あ、そうか……」


 簡単な事だった。ずっと、自己保身も加えて作戦を練ろうとしていたから駄目だったのだ。自分の身を危険に晒すことを選べば――あとは容易だ。


 『何か』の動きは早いが、攻撃を仕掛ける際には一度大きく上昇し、急降下による加速を加えて弧を描くように飛んでいる。


 つまり、大通りに沿っての方向からしか攻撃は来ないのだ。加えて上下の移動はあるが、稲妻のようにジグザグに移動して攻撃することもない。


 ゴクリと緊張のあまり生唾を飲み込んだ。『何か』が急上昇し、そして降りてくる。


 ゴーシュは上昇から降りる方向転換の瞬間に足を踏み出した。

 あれほどの速さが出ていればほとんど目は効かないはず。

 獲物の位置を見定めるくらいしかできないだろう。


 だからゴーシュは――イーリアと『何か』の間に身体を滑り込ませ、姿が見えないほどの高速で接近する『何か』に向けて全弾発砲した。

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