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春を忘れて大樹は眠る  作者: 夢山 暮葉
第二章:冬の終わりへ
22/117

21:砂上のたまゆら


 月長の月、26日。予定通りの砂上船に仲間と共に搭乗したアージェンは、昼間の砂漠の暑さを凌ぐ為扇子を使いながら、船縁から広大な砂漠の地平線を望んでいた。

 海のように広い砂漠を快適に移動する為に発明された、砂の上を進む船。見た目は通常の帆船に限りなく近いが、船底部には砂漠を進む為の多脚状機関が付いている。

 そんな物を付けるくらいなら船よりももっと効率の良いフォームが有るのではないか、と思ったが、この世界の人々にとっては『移動手段』イコール『船か馬車』であるらしい。一応列車型等の砂上船も有るには有るが、まだあまり普及していないとの事だ。


(……こういう移動機関が出来るくらいには、この惑星砂漠化してるんだよなぁ……)


 ヒョの舞台である惑星ウィナンシェは、現実世界の地球とは比べ物にならない程環境が悪化している。公式サイトの設定資料集曰く、1000年前に世界樹が死んだ辺りからずうっとこんなんらしい。

 物語の題材として見れば、衰退した世界というのは悪くないし、寧ろ好みだ。けれども生きていく場所としては、あまりよろしくない。


(かぁ~っ、帰りてぇ~……)


 諦めようにも中々諦めきれない、現実世界への帰還。思うままにならない自身の心をもどかしく思い、眉間に皺を寄せた。


「──あっ、司令官殿! お疲れ様なのであります!」


 不意に背後から掛けられた元気の良い挨拶の声に、アージェンは一瞬ビクッとなりながらそちらを振り返る。果たしてそこには、薄い生地の日除け用の外套を纏った晴嵐の姿が有った。


「晴嵐か……相変わらず元気そうだな」

「はい、自分はいつでも元気溌剌なのであります!」


 彼女の言葉に、晴嵐はビシッと姿勢を正し、挙手の敬礼で以て応える。そんな彼を軽く手招きしつつ、アージェンは再び砂漠の方へと視線を移した。


「残り二人は何してる?」

「フュール殿は船酔いだそうです。レオロ殿の方は日向に出たくないとの事で、部屋に引き籠ってるのであります」

「ん、そうか」


 二人の体質は相変わらずか、とアージェンは内心苦笑した。レオロはともかく、フュールの方は自力で治療は出来ないだろうし、一旦見舞いに行ってやろうか、と縁を離れる。

 と、正体不明の何かが胸の内をざわめかせた。源の分からない、恐怖や寂寥に似たその感覚に突き動かされるように、アージェンは空を仰ぐ。高い陽が刺して来て目が眩むが、彼女はじっと南の方角をねめつけた。


「……司令官殿?」

「ん、ああ、何でもない。ちと胸騒ぎがしただけだ」


 何となく落ち着かないが、その内それも消えるだろう。強烈な日光に焼かれた目を瞬かせながら船内に戻ろうと歩き出すと、アージェンと同じ方向を真剣な目つきで見ていた晴嵐が抑え気味に声を上げた。


「司令官殿、ここから南方に500m程の位置に、何らかのモンスターらしき影が見えるのであります」

「何だと?」


 アージェンは彼と同様に抑えた声で呟きながら、慣れた手つきでマップ画面を開き、周囲を確認する。すると確かに彼の言葉通りの場所に、数個の敵対反応が浮かび上がっていた。

 敵の数は五。それなりの早さで、この船を目がけて進んで来ている。マップからはその種類や強さを知る事は出来ないが、このまま何もせず放置しておくわけにはいかない。

 一応砂上船は、魔物の出没する地帯を通過する事も前提として設計されている。用心棒も乗ってるし、大砲等の攻撃装置も搭載されているので、弱いモンスターであれば撃退する事も可能だ。しかし、今回向かって来ている奴が、それだけで追い払える弱さの物である保証は無い。


「zi'e'ai lo tsani cripu。良いか、わたしが偵察に行く。晴嵐、あんたはフュールとレオロの奴を甲板に呼んで来てくれ。酔い止めくらいなら出来るよな?」

「はい、問題有りません。では、行って参ります!」


 船内へと入って行く晴嵐を見送りつつ、アージェンはその場で跳躍し船縁の上に上った。そして先ほど防御魔法で生成した空中の足場に踏み出し、敵対存在の居る方向へ走り出す。

 そして駆け抜ける事数十秒、彼女の肉眼にも敵対モンスターの姿が見えて来た。五体のうち一番大きな一匹は、大型トラック程の砂色をした体を持つ、六本足の平べったいトカゲのようなモンスター。残りの四匹の方は、四本足とヒレを持つ、大人の人間程の大きさの魚のような魔物だ。

 恐らくはあのトカゲが群れのボスで、魚はその取り巻きか何かだろう。次に彼女はメニューから相手のステータスを確認し、これをどうするべきかを見極める。

 トカゲ──砂蜥蜴亜種、レベルは60。魚は──デザートフィッシュ、レベルは37から40。


(ああ、こりゃアカン奴だわ)


 後者だけなら放っておいても撃退出来ただろうが、トカゲの方がまずい。この船に乗った時に、用心棒たちのレベルはチェックしておいたのだが、彼らのレベルは一番高い者でも45程度であった。その上トカゲは『亜種』、何らかの特殊能力を持っていると見て間違いないし、用心棒が当たったらあっという間に木っ端みじんにされてしまうだろう。

 けれども、アージェンたちなら簡単に終わらせる事が出来る。現在のアージェンのレベルは72、仲間たちも大体そのくらいのレベルだ。10もレベルが下な相手ならば、余程のポカをやらかさない限り確実に倒せる。


(五匹纏めて相手する事も可能だが……魚くらいは用心棒どもに任せるかね)


 獲物を全部奪ってしまうと、用心棒たちの立つ瀬が無くなってしまう。そんな事でいちいち反感を買うのも面倒だし、魚の方なら最悪船の大砲でやっつけられるだろうし、と作戦を組み立ててゆく。

 その傍ら、彼女はマップを操作し船上の様子を見る。多くの中立反応が甲板の上に有る中、三つの友好存在のマークが南側に有った。仲間たちがこちらの指示を待っているのだ。


「っし……zi'e'ai .aisai mi lo xunre danmo .e lo zirpu danmo cu cecla」


 静かに唱えられた呪文と共に、天に向けて突き出された右手の人差し指から赤い煙と紫の煙が飛び出して、狼煙となった。赤は『目標は強敵だが我々なら倒せる』、紫は『攻撃陣形Aに移れ』の合図である。攻撃陣形Aとは、フュールを後衛に置き、残り三人が前衛になる戦闘態勢だ。

 狼煙を打ち上げて間もなく、マップ上の友好存在の内二つが動きだし、こちらに向かい始めた。その動きを認めつつ、アージェンは盾とメイスとを装備し力強く詠唱した。


「ma'u'ei .i'a ko xendo prami .iu ma'u'oi

 zi'e'ai .u'i.u'unai ko po'u le respa mi po'o catlu cai!」


 掲げられたメイスから一条のレーザーのような光が射出され、トカゲの頭に直撃した。するとトカゲは一瞬足を止め、そして進行方向をアージェンの元へと変更し、先ほどまでとは比べ物にならない速度で突進して来た。

 彼女が発動させた魔法の正体は、『挑発』。敵のターゲットを問答無用で術者に向けさせる、付与魔法の一種だ。知性の高い相手には効き辛いが、このトカゲは精々動物並の脳みそだ、効果覿面である。

 魚の方には魔法をかけなかったので、内二匹がそのまま船へと向かって行った。しかし残りの二匹は、トカゲと共にアージェンの方へ突撃してくる。


「フッフゥ~、見上げた忠誠心だね──zi'e'ai lo tsani cripuッ!!」


 飛び上がり、空中の足場に立つアージェンに喰らい付こうとしてくる三匹に対し、彼女は新たな足場を形成しそちらへ飛び移って回避した。別にあの程度の物理攻撃なら喰らっても大した事は無いが、無駄なダメージを受ける必要も無い。


「さ、思う存分飛びかかって来な。ちゃあんとわたしに手が届いたなら、ご褒美に抱き締めてやるぜ?」


 全力で敵をおちょくり、アージェンは足場の上でくねくねと不気味な踊りをする。適宜回避行動をするのも忘れずに、三匹の注目を自身に釘付けにし続ける。

 そうしていると、背後から別の足場の気配と足音がした。ちらりと振り返れば、レオロと晴嵐がこちらに駆け寄って来ているのが認められた。


「アージェン、待たせた」

「晴嵐、只今参上しました!」

「おう。フュールは詠唱を開始したか?」

「ああ。二匹、魚が漏れたようだが」

「それは船の用心棒にやらせる。わたしたちはこのトカゲと、残りの魚をやるぞ。良いね?」

「把握」

「了解でありますっ!」


 そこまで話した所で、魚が砂の中から飛びかかって来た。瞬間、晴嵐が足場を広げ、アージェンは盾を構えレオロが長剣を鞘から抜く。


「zi'e'ai lo ci mi'o tsali binxo .e'o」


 アージェンは出来得る限りの最高速の早口で詠唱し、自分たち三人に強化魔法をかける。そして、飛びかかって来た二匹の魚の内一匹を盾で受け止め、砂の地面へと叩き落とした。同時にレオロが剣を振るい、もう片方の魚を縦に真っ二つにする。

 レオロの鮮やかな手際に感心しながら、アージェンは新たな足場を形成し始めた。しつつ、仲間たちに指示を飛ばす。


「二人は残り一匹の魚をやれ。その間、わたしはトカゲを引きつける。魚が終わったら、タゲが逸れない程度にトカゲを弱らせてくれ」

「分かった」

「一切、承知致しました!」


 二つの返答を聞くや否や、アージェンは駆け出す。トカゲの攻撃を引きつけては躱し、受け止めながら、残ったもう一匹の魚の動向にも気を配る。

 同胞が一撃で殺されたのを見て尚、魚はトカゲと共にアージェンに粘着してくる。なるだけトカゲと魚が一カ所に留まるように立ち回り、レオロと晴嵐が動きやすい様努める。


「ma'u'ei .uecu'i mi xlura lo ny zei senta lo majmakfa lo valsi ma'u'oi

 zi'e'ai .uenaisai lo tanca'u velkla cu selzba .ei!」


 そうしていると、恐ろしいまでに早口な晴嵐の詠唱が飛んだ。すると、魚とトカゲ目がけて半透明の六角形の板が無数に連結されたような足場が出現した。そしてその上を、両手で確と剣を構えたレオロが疾走する。

 同時に、トカゲと魚がアージェンに飛びかかった。アージェンは逡巡し、そしてトカゲの方にのみ防壁を展開する。


「zi'e'ai le'onai mi lo bitmu bandu cu zbasu!」


 そうすると、当然魚に対しては無防備になる。しかし魚のギザギザの牙がアージェンに届くより先に、レオロの剣が魚に届いた。


「──ハァッ!!」


 がぐしゅ、とかいうえげつない音が数度聞こえたかと思うと、次の瞬間には魚は輪切りにされていた。砂の上に落ちるぶつ切りの魚を一瞥した後、アージェンはレオロにウィンクを投げかけた。

 さて、残るはトカゲのみだが、これだけ巨大なモンスターとなると、前衛三人の火力だけで削りきるのは難しい。アージェンは防御力と回復能力以外はお粗末だし、晴嵐は基本サポーターなので、狙撃して敵の機動力を削ぐのは得意だが致命傷を負わせるのは不得意だ。

 レオロなら物理の攻撃力は高いが、この砂蜥蜴は物理攻撃に対して硬いモンスターだ。彼は魔法攻撃は全くと言って良い程出来ないし、晴嵐と一緒に敵の目玉や足等を狙って能力を下げるのが精々だろう。

 回避や防御行動に、時折攻撃魔法を交えてトカゲの注目を自身に引きつけつつ、アージェンは船の方を見やる。すると、ここからおよそ200m程離れた船の上空に、大きな魔法陣が形成されているのが認められた。


(相変わらず、クッソ神々しいねぇ)


 ゲームのラスボスとかが背負っていそうなその魔法陣は、フュールの詠唱と共に発生する物だ。別に出さなくても魔法は使えるらしいが、有った方が気分的に高揚し、結果魔法の威力が僅かながらも高くなる事と、今回のように前衛と後衛が離れている時、前衛からも詠唱の進捗を窺えるようにする為、派手な魔法陣を出すようにさせている。

 大きな円の中に、五つの小さな円と何やら複雑な紋様。大円の外周部には、幾重にも整然と並ぶ細かな文字。ほぼ完成に近い魔法陣を見て、後少しの辛抱だ、とアージェンは口の中で呟いた。

 彼女が戦況をつぶさに観察している間にも、晴嵐が矢を放ってトカゲの目を潰し、レオロが剣を振るって敵の足に深い傷を与える。同時にトカゲのステータス画面に、『盲目』や『足封じ』等の状態異常アイコンが浮かんでゆく。


「二人とも、良い調子だ! そろそろフュールの魔法が来る筈だ、離脱しな!」


 アージェンが鋭く指示を飛ばし、二人がそれに応じその姿がトカゲから離れる。そして、次の攻撃を回避しつつ自分も離脱するか、と離れた場所に足場を用意しようとした瞬間、トカゲが咆哮した。


「──ッ!?」


 何が何でも生に執着せんとする魔物の叫びには、何度聞いても慣れない。驚きと少しの恐怖に、彼女は一瞬硬直し、そしてそれ故に次の攻撃に対応し損ねた。

 叫喚と共に、トカゲはカーキ色の霧のようなものを吐いた。毒か、と思った時にはもう手遅れ、彼女は既にその霧を多く吸い込んでしまっていた。焼けるような痛みが口や喉を襲う。


「あ、がっ……!!」


 空中の足場から飛び降り、足を取られながら砂漠の上を駆け、辛うじて霧の中から脱出した。酸だ、と叫びたかったが、声帯をやられてしまったようで思う様に声が出ない。顔や目までもが焼かれ、視界がぼやける。


「しっ、司令官殿!!」

「おいアージェン、無事か!?」


 晴嵐とレオロは無事なようだが、このままではまずい。詠唱が出来ないと魔法が使えない。彼女は血反吐を吐きながら霞む目でメニューを操作し、インベントリからHP回復薬を取り出す。そしてフラスコのような容器の栓を抜き、少しばかりとろみの有る青色の液体を飲み干した。

 すると痛みと傷が幻のように消え、声も元通り出せるようになった。流石はネリネ特製のポーションだ、と心の中で賛辞を送りながら、アージェンは二人に向けて手を振る。


「けほっ……へ、平気だ! zi'e'ai lo tsani cripu!」


 すかさず魔法で足場を生成し、その場から離脱する。同時に自分のステータスをチェックし、後遺症が残っていない事を確認しつつ、再びフュールの魔法陣の方へと目を移した。

 丁度詠唱が完了したらしく、魔法陣を構成する線がより一層濃くなって、そして轟音と共に暴風を巻き起こし始めた。風は一所に集結して圧縮され、凝縮空気により形成された一条の槍が、魔法陣という砲台から発射される。

 《風の王の長槍》。フュールがそんな中二病をこじらせてる名称で呼んでいるこの魔法は、彼の必殺技である。必ず殺す技、とまで銘打たれるだけ有って、その威力は凄まじい。一瞬のうちに目標に到達した空気の槍は、トカゲの頭をぶち抜き、そして爆散させた。

 頭を失って尚、その反則的な生命力でトカゲは暴れ続けたが、やがてHPが尽きた所でがくりと砂の上に崩れ落ち、動かなくなった。メニューに表示させていたトカゲのステータス画面が消え、代わりに『砂蜥蜴亜種の死体』というアイテム名を示すウィンドウが出て来た所で、アージェンは警戒を解いた。


「ッシャオラァ!! 完・全・勝・利ッ!!」


 その場でぴょんぴょんと跳ね、一頻り歓喜を露にした後、次にトカゲの死体の元へと駆け寄った。失われた頭の断面から今尚ダバダバと血液を垂れ流し、砂を赤黒く染め上げているその死骸に近づき、インベントリ画面をそれに翳す。


「砂蜥蜴亜種の死体、インベントリに収納」


 すると何という事だろうか、トカゲの死体が忽然と消えてしまったのだ。代わりに、インベントリの中に頭の無いトカゲのアイコンが現れる。そう、あの巨大なトカゲの亡骸は、彼女のインベントリの中に仕舞われてしまったのだ。


「討伐終了、任務完了なのであります!」

「終わったか……」


 死体が収納され、間違いなく敵が死亡した事を認めた晴嵐とレオロは構えを解く。そして彼らが得物を納めるのを見届けながら、アージェンは魚の死体も回収した。

 魔物の皮や鱗なんかも、売れば結構良い値段になるのだ。インベントリの中に入っている物は時間が経っても劣化しないし、後でゆっくり解体しよう。

 そうした所で、二人に合図をした後フュールを一旦PTから外し、船目がけて転移を起動する。一瞬にして船の甲板へと戻った後、足場を形成していた魔法を纏めて終了させながら、少し疲れた表情に笑顔を乗せたフュールと合流した。


「ご苦労様、フュール。流石の威力だね、一撃だ」

「そちらこそ、お疲れ様でした。怪我は有りませんか?」

「わたしは問題無い。晴嵐、レオロ、あんたらは?」

「自分は無傷なのであります」

「俺も平気だ」


 口の端に付いた吐血の跡を拭いつつ、アージェンは盾とメイスを仕舞う。そうした所で、二匹の魚を討伐し終えた用心棒が甲板に戻って来たり、船内に避難していた一般乗客が姿を現したりし始めた。

 乗客たちの雰囲気を見る限り、彼らの中に怪我人は居ないようだ。しかし用心棒たちの方は、死人は出なかったようだが結構ボロボロである。あの様子だと、もし魚が全部向こうに行ってたら一人くらいは死んでそうだ。


「……僕たちが動いたのは、正解だったみたいですね」

「だな。さーて、一仕事したし、休みますかね。あーまだ喉痛いわー」


 マップ画面からもう敵対反応が周囲に居ない事を確認しつつ、アージェンたちはそそくさと船室へ戻り始めた。依頼を受けたわけではないから、報酬などを受け取ってしまうと後々面倒になる。


「日向に出て疲れた。夜まで寝る……」

「相変わらず不健康な生活してるなぁ、もやしっこめ」

「バリバリ前衛張ってる俺が、もやしに見えるってのか。……ああ、もう、俺は寝るぞ、これは世界が始まった時から決まってた運命なんだ」

「えーっ、折角四人揃ったのですから、大富豪とかやりたいのであります!」

「それ、絶対僕が大貧民になって、夕飯奢らさせられるパターンじゃないですかぁ……」


 雑談をしてあくまで無関係っぽく振る舞うが、用心棒や一般人たちの不躾な視線が向けられるのは避けられなかった。何せあれだけ目立つ魔法陣を出したのだ、致し方有るまい。

 しかし四人はその興味の全てを無視しながら人垣を掻き分け、船内の廊下を進む。その最中、ふと晴嵐が彼女に話しかけてきた。


「司令官殿、先ほどの胸騒ぎの正体とは、あのトカゲの事だったのではないでしょうか」

「ん……ああ、そうかもな。そうだと良いんだがな」


 他愛も無い彼の言葉に応答しながら、アージェンはすっかり収まったと思っていた胸騒ぎが、より強くなって蘇るのを感じる。根拠の無い、しかし確かに自身の精神を蝕む不安に、彼女は顔をしかめた。


(……嫌な予感よ、どうか中らないでおくれ)


 祈るように目蓋を閉じても、ざわめく動悸は収まらなかった。

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