↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/117

ED-C:目覚めた大樹、掴み取った今日


「もう一ヶ月、かぁ」


 イーアイレアの首都リザマトラ、I.R.E.A.タワーの最上部にて、竜王風雲は黄昏れていた。生き残った者たちは皆今後の去就を決め終えて、帰還を望んだ者たちは皆地球へ戻った。《HYO》にまつわる動乱は、これにて何もかもが終息したのだ。

 本音を言えば、風雲も元の世界に帰りたかった。何せあの世界には家族が居る。魂だけでも元の世界に戻れれば、と思っていたのだが、既に分離不可能なレベルで彼は“いどのす”に食い込んでしまっているらしく、戻る事は出来なくなっていた。

 それを知った時には、凄まじく後悔した。が、叶わない事を望んで駄々をこね続けるのはただの子供だ。ので割り切って、彼は竜王としての責務を果たす事に注力している。


「けども、『何もしない』事こそ責務って、ねぇ……」


 何もせず、何者とも関わらず、何の束縛もしない。“いどのす”の記憶を辿った結果、竜王とは斯くあるべき存在であったようだ。こうなると、風雲の持つ人の精神が邪魔になる。


「暇だなー……」


 『王』という名称に反して、彼らの統率者や代表をやる事すら常時は禁じられているから、彼は現在絶賛暇を持て余し中だ。こうして人の目の及ばない所から世界を眺めるのが、精一杯の暇潰しである。

 まぁ、今の自分がとても危うい存在である事は、彼とて重々認識している。分かっているが、辛い事には変わりない。

 早く自由になって、イーアイレアの街中や遺跡を見て回りたい。それがジトロとの約束だし、風雲は約束は可能な限り守る主義である。だがそれが叶わない現状、とりあえずこれで誤摩化すしかない。


「……この塔はキミの時代には有ったのかい、ジトロ」


 ぽつりと呟けば、頭の片隅で何かが囁くような気配がする。だがその声は、否定なのか肯定なのかすら判別出来ぬ程微弱だった。


「わたしの知る限りは無かったよ。計画は立ててたみたいだけど……まさか、本当にこんな馬鹿でかい塔を作るだなんて」


 ふと、彼のとなりに人影が現れ、ジトロの代わりに返答をした。彼はそちらを見上げる。


「レイちゃんか。どうしたんだい?」

「馴れ馴れしく呼ぶのはやめて。きみの処遇について話しに来た」


 “いどのす”の代表者・レイは腕を組みながら、ギロリと風雲を睨みつける。この先長い付き合いになるのだから、せめて普通の関係を築こうとフレンドリーに接しているのだが、彼女の対応はご覧の通り冷徹である。

 代表とはいっても、それぞれ重大な問題が起きない程度に好き勝手にやる方針だから、“使者”の件が一通り片付いた今、その肩書きも無意味になって来ているようだ。それでも肩肘を張り続けているのは、まだ風雲という大問題が残っているからだろう。


「現状から何か変わるのかい?」

「ああ。ここまで模範的な態度をとって来たから、少し行動制限を緩めよう、という事になった」


 それは朗報だ。こんな状態がいつまでも続いたら、いくら風雲といえども倦んだ挙句に狂ってしまう。案外早く謹慎状態が明けた事に、彼はぱっと喜色を浮かべた。


「それは嬉しいね。どれくらい自由になるのかな」

「きみの友人に会うのは自由に。多少聞き耳は立たせるけどね。

 只人のフリをして下界に降りるのもアリ。その場合には必ず、わたしも同行するけれど」

「本当に!?」


 一気に自由になった喜びのあまり、風雲はここが高所である事も忘れて飛び跳ねる。するとそのまま足を踏み外してしまった。身が宙に踊るが、間一髪レイが彼の腕を掴み引き留める。


「っとと、危なー……」

「嬉しいのは分かるけど、あまり間抜けな事はしないで」

「あっはは、今後は気をつけるよ。でも、ボクだって空を飛べるんだけどな」


 それに思い至らないレイではあるまい。そう指摘すると、彼女は少し考え込むように首を傾げた後、仏頂面になってこう返した。


「……忘れてた。人類と同レベルに考えてた」

「致し方無いのか、それとも酷いのか……ともかく、そういう事なら、早速イーアイレアの景色を見たいのだけど」

「今すぐには無理。わたしにも予定が有る。どうしてもと言うなら、三日後の早朝からが空いてる」


 隠す気も無い棘に満ち満ちた声音だが、ちゃんとこちらの要望を叶えられる日程も提示してくれた。風雲は頷き、ならその時間に、と約束する。

 さて、これで彼女の用事は終わった筈だが、レイはまだ何処に行こうともしない。少しの息抜きをしているのだろうか、と風雲は突っ込まずにその場に座り込んだ。


「……わたしたちはきみを量りあぐねている。信用していい存在なのか、それとも絶対に気を許すべきではない相手なのか」

「ボクとしては、前者のつもりなのだけどね」

「その真偽を確かめる術は無い。そしてわたしは慎重な性格だ。そういう事」


 多少は心を許されたかと思ったが、あくまで同胞の総意を反映しただけだったのだろう。それきり彼女は口を閉ざし、暫し吹く風を浴び続けたかと思うと、ふっと姿を消してしまった。

 彼女たちとの完全な和解の道のりは長そうである。そう思って肩を竦めると、先ほどまでレイが居た場所に新たな人影が現れた。黒髪に白い角のレイの相方、レアだ。


「やァ」

「ん、どうも」


 ニヨニヨと笑いながら風雲の隣に腰掛けるレアに、一先ず挨拶を返す。こっちの彼女は、割と近い距離で接してくる。今も、口角を上げ銀色の瞳を細めてこちらに視線を向けてきていた。


「レイのヤつはああ言っテるけどサ、気を悪クしないデね。実際ハ大多数がキミを信用する路線ダから、バランスをとる為ニああいう態度ヲとってるノさ、彼女は」

「へぇ、そうだったんだ?」

「ワタシたちは元来好奇心が強クて、自分に正直ナ種族だかラね。自由になッたキミがどンな事をスるのか、興味津々ナのさ。ワタシやレイも含メて、ね」


 代弁するように語るレアに、風雲は人差し指でこめかみを掻く。それが彼女たちの総意の本音だというのならば、いくらなんでも警戒心が薄過ぎではないだろうか。

 そんな気持ちを顔に浮かべた彼に、レアはころころと笑った。


「マ、キミが本当にワタシたちノ味方を名乗るナら、レイの代わリにバランスとりヲしてよ。多分キミのが向いてルでしょ」


 ニタニタ笑いと共にそう言うと、彼女はこちらの返事を待たずにぴょんと雲海目がけて飛び降りてしまった。一方的に言うだけ言っていったな、と彼女の消えた先を見下ろす。


「……そうだね。頃合いを見計らって、ね」


 今からズバズバ意見を言うのは、流石に時期尚早というものだろう。レイの態度を試金石として、もう少し軟化したら、レアの言う通り信頼を勝ち取りに動こうか。

 さて、存分にイーアイレアを俯瞰したし、そろそろ別の場所に移るか。折角許可が出たのだし、ずっと連絡も取れなかった友人たちの元にでも向かおう。

 風雲は立ち上がり、瞑目する。そして元何処何処ハウスの在る島の光景をイメージしながら、転移を発動させた。




 人類は脆く、弱い種族だ。燃えたり凍ったり落ちたり潰れたりすれば死ぬし、生まれてから数百年も経てば乾涸びて消えてしまう。滅亡を眼前にしても共食いを止めない程に愚かだったし、H.Y.O.が終わるまでにヒューマンくらいは絶滅していると踏んでいた。

 だが実際はどうだ。ヒューマンは世界中でしぶとく集団を形成し、今日この日まで種を繋いでいた。中でもイーアイレアに至っては、1000年前に滅ぶ以前の光景のようだ。

 特にあのI.R.E.A.タワー。レイとレアが眠っていた場所に建てられたあの馬鹿でかい建築物は、旧文明の遺産を集積し解析する為の物であるらしいが、あんな物を建てる資源と人手は一体何処から湧いて来たのやら。この国の歴史を本格的に調べてみたら、色々と面白そうだ。

 それから、かつての友の生きた痕跡を探して、何をするわけでもないがとりあえず祈ったりしたい。死後の世界なんてものが有るのかどうか彼女には分からないが、何にせよ彼らの眠りが安らかであるように、と。


(まぁ……まだまだ纏まった時間は取れそうにないし、後回しだけれど)


 H.Y.O.が終われば竜王も復活するから、少しの事後処理を終えれば晴れて自由の身になれるとばかり思っていた。しかし現実はご覧の有様、相も変わらず彼女は代表者のままで、暇はそれなりに有るが気の休まる時は無い。

 この立場から解放されるのは、一体何時になるのだろうか。自分も、他の同胞と同じように好き勝手やり始めたい。はぁ、と彼女は肩を落とした。


(……でも、なんだかんだ完遂は出来て良かった。ベターだ、よね)


 大きなわだかまりは残ったが、計画自体は成功した。これで風雲がこちらに害意を抱いていたらまずかったけど、彼は随分と従順だし対処も考えていたより容易である。そんなおさらいをしながら、彼女は姿を隠してI.R.E.A.タワーを見上げた。

 しばらくは人類からは隠れていた方が良いだろう。人として暮らしていた魔物を結構な数殺したし、迂闊に自らの正体を晒せば迫害コース待った無しである。別に差別されたからといってどうという事は無いが、下手を打つと今後の行動に著しい制限が掛かる可能性が有る。

 せめて100年くらいは経ってからでないと、人類と“いどのす”が良好な関係を築くのは難しいと思われる。彼らはそれ程理性的ではないのだ。同胞たちも、その辺は分かっている筈だ。


「ま……全ては、これからだ」


 時間は無限ではないが、とはいえたっぷりと有る。100年後まで勘定に入れられる事を嬉しく思いながら、彼女はその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。