第七話 決断
大変遅くなりました。
「よく今までこそこそと……。大人しく城へ来てもらおうか」
「何の事を言ってるんだ、僕らはただの町人さ。城へ行く必要はない」
「お前らが、王妃であることも、そして陛下の心友であるマリスだということも全部分かっているのだぞ! とぼけるのもいいかげんにしろ!」
何で。突然後ろから現れたレオルトに、私はただ全身を震わせながら立っていることしかできなかった。
私達の居場所がばれるのは避けられない事だとは分かっていたけれど、見つかるのが早すぎる。これもレオルトの策略なのだろうか。
どう見ても逃げられない重苦しい状況に私は溜息を零し、マリスさんは小さな舌打ちをした。
だけどレオルトに見つけられたよりも、さっきの言葉に私は唖然とした。
マリスさんが陛下の心友? そんなの嘘でしょう? その事を隠して私に近づこうとしたの? もしかしたら言いふらしたのもマリスさんだったら……。
そんなことない、と自分に言い聞かせながらそっとマリスさんを見上げた。
見上げたちょっと上にあるマリスさんの顔はいつもよりも険しい顔をしていた。
「マリスさん……どうして…」
「すまない、いずれはこうなるだろうとは思ってたよ。そう、僕は陛下の一番の友達さ。今まで黙っていてごめん。でもこれだけは信じてくれ、僕は決して君の事を周りに言いふらしてなんかいないから」
「そんなの、嘘よ」
嘘に決まっている、陛下の一番の友達なら私の正体が分かるのも当然のことなわけで、ここ最近私と一緒にいたからいつだって報告することは可能なはずだ。
だけどいつまでもうかうかしていられない。私は今追いつめられているという状況に置かれているのだ。一刻でも早く逃げ出すすべを考えないと。
「今更逃げようなんて思うなよ。たとえ俺から逃れられたとしても、あちらこちらに俺の部下がいるから絶対に逃れられないさ。さぁ、観念するんだな」
「シイナ……」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。お城に連れて行かれたら私もお腹の子もどうなってしまうか分からない。
だけど、このままでいいの?
私は迷っていた。これ以上逃げても無理なことは分かっていたけど、その先がとても怖い。もう私が逃亡したことなんて国全体に知れ渡っているわけだし、とんだ恥さらしだと思われていたら…。
でももうこの苦しみから解放されると思うと心が楽になった。もう、そろそろいいかな。恥さらしでも何でも、私が選んだ道なのだから仕方がない。
大きな深呼吸をして私は真剣な眼差しでレオルトの瞳を見た。
「もう、逃げません。どうぞお好きになさってください」