第三話 アフターナイトメア
ミツキの淡々と、しかし力強い返事が返ってくる。
「どうやって?無理だよ......あんなに大きくて、強いのに......」
つい弱音が漏れた。
「この剣は、特殊カーボンブレード『鵺』と申します。炭素で構成され表面はさらにダイヤモンドで加工され切れ味は鋼鉄も上回ります。更に弱点であった割れやすさを克服した『鵺』は“レオナルド“にも通用します。」
目が吸い込まれる。
「確かに大型なうえに、完全ステルス能力と再生力は脅威ですが、戦場を整えれば単独撃破も可能だと思います。」
「何か作戦でも、あるの?」
期待に身体が前のめりになってしまう。
「はい。それには情報と条件が必要になります。しかし現在の電波状況では、データの取得が難しく、一度ここを脱出して情報収集したいのですが......」
「何か他にも問題があるの?」
ミツキの言葉には、問題さえ解決出来れば、やりようはあるように感じられた。
「この時代の正確な情報が不足しておりまして、どこかでこの時代のネットワークにアクセス出来れば、手立ても考えつくとは思うのですが……先ほどの襲撃時におそらく、通信妨害が行われているようなので復旧まで時間がかかると思います。」
ーー電波か……スマホも繋がらないし、そうなんだろうね。でも……。
「……さっきテレビはついてたよね?」
「おそらく通信設備か中継基地が狙われたのかと思います。」
ーーじゃあ、有線にしたら繋がるのかな?
「なら、あたしに良い考えがあるの。……えっと……ミツキちゃん?……ついてきて。」
「あ。あたしの事は「つむぎ」って呼んでね。」
今度は、あたしが案内する番。そうと決まったら、ずっと何にも飲んでないことに気づいてバッグの中からペットボトルを取り出して、喉を潤わせた。
今いる場所は、駅に直結した地下街だから、いくつかの駅ビルや商業施設に、地下を通って移動ができる。
その商業施設の一つには、パソコンが置いてあるお店があった。そこでパソコンと有線LANケーブルが手に入れば、通信が可能かもしれない。あたしたちは、そこを目指すことにした。
元の通路に戻ると、ざわめきは少し落ち着いていて、“レオナルド“が見えなくなった事で地上に戻る人も多いようだ。
あたし達は、少し隙間のできた人混みを抜け、複合商業施設へとたどり着いた。“レオナルド“が暴れた際に、ここにも被害があったみたいで、中はがらんと人の気配がなくなっていた。避難するときに、そのままになっていた店内BGMと、風邪の通り抜ける音が、不気味な雰囲気を感じさせる。
目的の家電量販店に、たどり着いたあたしは、お店に並んでいるノートパソコンを選ぶ。いくら緊急事態とはいえ泥棒は、いけない。予算はお母さんが、何かあったときの為に持たせてくれた、学生用のクレジットカード。使った事ないから、限度額の10万円まで。その中で選ばないと。
「これが、この時代のコンピューターなんですね……」
珍しそうに、眺めている。
あたしは、展示品の中から手頃な値段のものを選んで有線ケーブルと一緒に、レジに持っていく。
「レジナンバー抜いていなければ、使えると思うんだけど……よかった……抜くひまもなかったんだね。レジもバイト先と同じだから、大丈夫……」
慣れた手つきで、会計を済ましていく。
(ごめんなさい……ちゃんと支払いはしますから)
レジの近くに、確認用に備え付けられた有線LANポートに差し込んんで、パソコンを起動する。
うぃーんと起動音が聞こえてきて、画面が立ち上がる。
「ミツキちゃん、ネットに繋がったよ。何を調べればいいの?」
「周辺の地図をお願いできますか?やつを誘き出して、戦いたいのですが、広さと高低差を使えて、足止めのような事ができれば良いのですが……」
足止めって、落とし穴とか網とか?そうしたら、工事現場とかかな?
あたしは周辺の地図映像を映し出す。ミツキちゃんが言うには、見張られてるから移動は少ないほうが良いいとのこと。そうすると、駅からあまり遠くないほうがいいだろう。画面を拡大してみると、大きな工事現場が映し出される。
「ここなんてどうかな?ミツキちゃん……」
あたしは画面を指して、顔を向ける。
ミツキちゃんが、髪を耳にかけながら覗き込んでくる。数本の髪が落ちるその動きすら美しく見える。
****
紬のいる駅から連なるビルの一つに大きなヘリポートがある場所がある。そこには、6メートルを越す巨体の怪物と、全身を黒いボディスーツに包まれた少女がいる。風が打ち付ける音は激しい。
「やっぱり邪魔が入ったわね、ラファ。」
ラファと呼ばれた、バイオ兵士“レオナルド“が喉を鳴らす。
周囲には無数のヘリコプターが飛び回っているが、二人に注意を払うものはいない。完全ステルスは、しっかりと機能していた。
「この時代の監視カメラが、認証システムと連動してないのは想定外だったわね。私たちの持つセンサーが頼りになりそうだから、見逃さないようにね。」
まるで四つの瞳が、街全体を覆っているようだった。
****
ぱちぱちと、キーボードを叩く。やり方を少し教えただけで、ミツキちゃんはすぐにパソコンの操作に慣れてしまい、今はあたしの代わりに操作している。
がらんとした店内には繰り返し流されるBGM。
「どう?いけそう?」
相変わらず、変化の乏しい表情で振り向く。
「では、作戦の前に情報を整理します。」
あたしは、黙って頷く。
「まずは敵の戦力ですが、主戦力のバイオ兵士"レオナルド"です。能力はステルス能力と再生力。巨体を活かした破壊行為です。先程の様子だと、兵装はセンサーアイと、特殊カーボン製の棍棒です。」
棍棒?金棒じゃないんだ......。
少しずつ話が飲み込めてきた。とりあえず凄く強くて頑丈に出来てるようだ。
「なんか弱点とかないの?」
「強いて言うなら、頭が悪い事でしょうか。それに再生力が高いだけで、本体は柔らかいので頭部さえ破壊出来れば、倒せます。」
ーーじゃあ、なんでさっきは倒さなかったんだろう?
「問題は、頭部を守るアーマーを剥がさないといけない事。それにバイオ兵士は知能に問題があるので、必ずバディになるものが近くにいます。」
だからミツキちゃんは、あの場での戦いを避けたのかな?
「じゃあ、どうやって倒すの?」
ビル全体にミシミシと音を立てる。あまり長い出来る場所でも無さそうだ。
「まずは奴の動きを止めて、アーマーの隙間を正確に切り裂いて、頭部を露出させ破壊します。」
「うんうん。要は動きさえ止めちゃえば良いのね?」
やっぱり罠みたいのが必要なのかなぁ?
「その認識で合っています。バディの方は、パワードスーツを着用しているので、一般人よりは強力ですが、私達やバイオ兵士程ではありません。」
パワードスーツって、ゲームに出てくるロボットみたいのかな?
「そういえば、銃とか使わないの?」
「はい。私がいた時代では度重なる核攻撃や、長い戦争で、資源の枯渇や設備の不足で、消耗の激しい銃火器の使用は、制限されています。」
ーーそっかぁ、だからミツキちゃんは剣で戦うんだね。
「それでは、作戦ですが紬さんが見つけて下さった、こちらの工事現場ですが、駅から続いているリニア鉄道の工事現場になります。」
あたしが見つけた場所は、リニア鉄道を現在の駅に繋ぐ、工事現場。ここなら広く、足場も多いからミツキちゃんも戦い易いそうだ。
「懸念材料は、この騒動で集まっている警察や消防等です。軍の出動まであれば、乱戦になってしまいます。不確定要素は極力排除したいのですが。」
軍ーー。自衛隊の事だよね?ならば、自衛隊に倒してもらう事は出来ないのだろうか?
「自衛隊とかに助けを求めたらダメかな?」
ミツキちゃんが静かに首を振る。
「この時代の兵器では、倒せたとしても相当の被害が出ます。この都心部でミサイルを使用出来ると思いますか?」
今度はあたしが首を振る。
「そうです。自衛隊が国内で強力な兵器を、使用した実績はありません。未来においても、自衛隊が戦闘をした記録はございません。」
その通りだと思う。自衛隊が民間人を万が一にも、巻き込んでしまえば大騒ぎに、なるだろう。それでも普通の銃ぐらい使いそうだけど、それだと倒せないぐらいには、強いという事だろう。
「話を戻しますが、まずは駅の反対側で爆発騒ぎを、再度おこします。」
ーーば、ばくはつ??
「そして、その騒ぎの中で私が姿を、わざと見せます。"レオナルド"は見逃さないと思うので、戦い易い工事現場まで、引きつけてーー罠にはめて行動を阻害します。」
ミツキちゃんは、画面に映る一点をさして、こちらに顔を向ける。ミツキちゃんの説明は分かりやすかった。だけど、あたしが上手く出来るだろうか?
ミツキちゃんの作戦でキモになるのが、あたしの役目らしい。上手く出来る自信はないけど、やるしかないんだよね?だって、やらなきゃ死んじゃうんだもんね?
再び喉がヒリヒリと痛む。自然と喉を鳴らしていた。
ふいにあたしの手が、ミツキちゃんの手に包まれる。
「大丈夫です。合図は私が出しますので。紬さんはレバーを動かすだけですから。」
あたしは、ミツキちゃんの瞳を見つめ、深く頷いた。
場所は変わって、工事現場にある橋の上で、あたし達は決闘場を見下ろしている。風が服に叩きつけられて、バタバタと音を立ててなびく。
「本当にやらなきゃいけないんだよね?」
この後に及んでも、あたしは未だ尻込みしている。
「えぇ。私達の手で未来をーー紬さんの未来を切り拓きましょう。」
あたしは、頷く事が出来なかった。
けど、ミツキちゃんにも助かって欲しいとーー。
ふと思いたって、ヘアピンを1つ無くしていた事を、思い出した。
カバンの中から、予備の肉球ヘアピンを取り出す。1つは自分の髪に、1つはミツキちゃんの髪につけた。
「これは?」
「ただの、おまじない。これを付けると勇気が出るんだよ!」
胸を張って宣言した。
工事現場のライトに、照らされたミツキちゃんの顔が少しだけ、笑った気がした。




