表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/74

花火の終わり

えんじゅ



 先ほどはなぶさに向かって撃った花火よりも大きな花火玉、三尺玉が入った筒を両手で抱える。

 これが直撃すれば、この場にいる全員を一網打尽に出来るだろう。下手をすれば千代草ちよぐさにも影響が出るかもしれないが、ここであの“鬼人”の息の根を確実に止めておかねばならない。

 横たわるはなぶさに筒の先を向ける。さんざん痛めつけられて立ち上がれないえんじゅは、両膝を立てると発射の衝撃に備えて踏ん張った。


はなぶさ……逝けやぁーーッ!!」


 ドンッ!!  ヒューーーーッ! ……



 ドッドォォォーーーーンッ!!!



 ……筒から放たれた三尺玉ははなぶさに向かって飛ばず、上空に打ち上げられた。その花火は、いつしか日が沈みかけた空に鮮やかな大輪の花を咲かせたあと、轟音を響かせる。それはまるでこの戦いの終わりを告げる号砲のようであった。


 えんじゅが構え持っていた筒は上方へと向きを変えられていたのだ。九鬼くきが伸ばした足によって。


 手にした筒を力無く手放して地面に落とすと、えんじゅは目だけを動かして九鬼くきの方を見る。


「なんじゃあ、生きとったんかい? 九鬼くきちゃん……」


「ちょっと寝てただけですよ……部下に叩き起こされてしまいましたが」


 えんじゅはゆっくりとした動きで、その場に大の字になって寝転んで笑った。


「かぁ〜、あんたはいっつも遅れてくるのぅ……まるでヒーローみたいじゃ」


「…………」


 九鬼くきは何も言わず、胸ポケットのシガーケースから煙草を取り出して咥えると、キンッ!とオイルライターの蓋を指で弾いて火を付けた。



 山賊と伴天連ばてれんの騎士達の争いも終わりを迎えた。数で勝っていたはずの伴天連ばてれん達は、源八が率いる山賊達の勢いに負けて撤退を始めている。


「なぁ、……ワシにも一本くれんか?」


 九鬼くきは一度強く吸い込んだ煙を吐き出すと、咥えていた煙草をえんじゅの口元へ運んだ。


「ははは……最後の一服が、九鬼くきちゃんとの間接チューとはな……悪ぅないが、鉄の味……最悪の血の味(フレーバー)じゃ」


「これが最後の一本なんです」 


「ほぉか……すまんのぅ」 


 えんじゅはなぶさの方を見る。そこには千代草ちよぐさが駆け寄っており、なけなしの魔力で必死にはなぶさ回復魔法ヒールを使っていた。



「……臓器移植に関連する法律を変える為に、何をすればいいだろうか?」


 しばらく黙っていた九鬼くきが口を開いた。


「法を変える?」


「今後、あなたのような人を出さないために政治家に呼びかけ、臓器移植の分野に税金の投入と法の整備を……」


「無駄じゃあ」


 えんじゅは言葉を遮ると、口から煙草を外し、空に向かってふーっと煙を吐き出す。


「国を動かしとる政治家アイツらは、自分らが儲ける為の法改正しかやらん。臓器移植が金になるんなら、奴らしっぽ振って喜んでやりよるわ。それにな、移植手術で一人二人の命を救うより、一万人の有権者のほうが大事なんじゃ……」


「そもそもドナーの数が圧倒的に足りとらんのじゃ。この国の人間は、脳死判定された者の体から臓器を取り出して、生者に提供する事に対抗があるんじゃ。そういった倫理観が、今も根強ねづよぉ残っとる」


「他に手段は無かった……と?」


「ほうじゃ……ゲホッ! ゲホッ!……この件で移植成功の結果を出せば、医療界とそこに通じる政治家の興味を引けると思っとったんじゃがのぅ……ゲホッ!」


 肺に血が溜まり、苦しそうに呼吸するえんじゅの背中に手を当てて、九鬼くきは上体を起こしてやる。


「ホンマに九鬼くきちゃんは……ワシみたいなクサレ外道にも優しいんじゃのう」


 自嘲するえんじゅに、九鬼くきは伏目がちに聞いた。


「疲れたでしょう? その()()()()()を演じるのは」


「なんじゃと?」



「貴方は中途半端なんですよッ!」


 突然大きな声を出したのは千代草ちよぐさだった。


 その方を見ると、僅かばかりの魔力で回復したのだろうか、肩を貸してはなぶさを座らせていた。


「なんで……心臓を抜き取った子どもを……あんなに丁寧に……」


 涙ながらに語りはじめた千代草ちよぐさは、節々で言葉を詰まらせる。


「投薬して、殺してしまう時に……なんで、なんで……鳶尾いちはつさんと二人であんなに泣いたんですかっ!? ずるい!」


千代草ちよぐさ……」


「子どもの棺に、あんなにいっぱい花を添えて……何度も何度も……ゴメンて……謝って、ぼろぼろ泣いて……悪い人なら、悪い人になりきってください! あなたの事を憎みきれないじゃないですか!」


 視線を落とす千代草ちよぐさを、はなぶさは心配そうに見つめる。


「はは、そんなとこ見られとったんかい? 言わんでくれや恥ずかしい……」


 そう言ってえんじゅは俯き、片手で両目を押さえた。九鬼くきは、すっかり短くなった煙草をえんじゅの口から取ると、そのまま携帯灰皿へと落として火を消した。






*次回、『木下 栄次郎』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ