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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

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愛する人のために

鳶尾いちはつ



 紫雲英げんげ!? それと、後ろに男女二人……部下か? 何故ここに?


 紫雲英げんげが従えているのは、真っ直ぐな長髪でロングスカートを履いている目つきの悪い女と、黒髪でセンターパートの真面目そうな若い男だ。


「なんで、あんたがここに居るネ?」


 紫雲英げんげは目を細めて微笑んで答える。


九鬼くき班が、えんじゅ捕獲作戦決行を四十八時間以内に完遂できない場合、私達の介入が許されていたのですよ。それより、手術はまだ終わりませんか? それとも、失敗したから、貴女はここでひざまずいていたのですか?」


 ああ、もうお終いだ。九鬼くきを倒せたかもわからないのに、紫雲英げんげまでもがこの異世界に来てしまった。えんじゅ班長が九鬼くきはなぶさ相手に勝てたとしても、連戦して紫雲英げんげに勝てる見込みは低い。合歓ねむが暴走しなければ、こうはならなかったのに……計画が全部水の泡になってしまう。でも……


「まだ、ネ……まだ終わらせないネ!」


 私が懐から出した拳銃を紫雲英げんげに向けるよりも早く、後ろにいた女が距離を詰めて銃を叩き落とし、私の顔を殴りつけた。その勢いで私は廊下に転がった。


「ぎゃ!」


 痛い! 痛い! 鼻血が出てる……眼鏡が割れた。

 

 女は、倒れて顔を押さえる私の髪を乱暴に掴んで無理矢理立たせた。


「おいブス……おまえ様は、一体誰様に銃を向けたんだよ? なあぁ?!」


 顔を近づけて凄む女に、私は恐怖した。


「なんとか言えよブス! オラッ! オラッ!」


 ゴッ! ゴッ! ゴッ!


 髪を掴んだまま何度も顔を殴りつけられた。両手で防いで顔をそむけても、女は容赦なく殴り続ける。鼻血と涙が止まらない。


「やめっ! やめてッ! やっ! ……やめてくださッ! ネっ! ……やめてください!」


「やめてじゃねぇよブスがよッ! 死ねよッ! ブス! オラッ! オラッ!」


 ゴツゴツと何度も顔を殴られて、痛みと恐怖で私は失禁していた。体の震えが止まらない。


「そこまでだ、麝香じゃこう。彼女を離してやれ」


 紫雲英げんげの命令で麝香じゃこうと呼ばれた女は殴るのをやめ、私を廊下の壁に投げつけると、ブチブチと音を立てて髪が抜けた。


「班長様は仏様かよ? 撃たれそうになったんだぜ? よく許せるなぁ……アタイ様なら全殺しにしちまうぜ」


 麝香じゃこうは両手をパンパンと叩いて私の髪の毛を払うと、鼻を鳴らして肩をすくめた。


 崩れ落ちた私は、身を震わせて壁に寄りかかる。


鳶尾いちはつさん。福永サキさんはまだ手術中って事ですかね? では先にえんじゅの方から始末するか……麝香じゃこうはここで鳶尾いちはつさんを見張っていろ。緋衣ひごろもは私と一緒にえんじゅの所へ行くぞ」


「……ま! 待ってほしいネ!」


 背を向けた紫雲英げんげを、私は引き止めた。


えんじゅ班長を、ど、どうするつもりネ?」


 紫雲英げんげは振り返ると、溜め息を混ぜながら答える。


「当然、異世界ここで死んでもらいます。九鬼くき班は『捕獲』という任務で動いていましたが、私に与えられた任務は『抹殺』ですから」


 その言葉を聞いて私に出来ることはひとつしかなかった。紫雲英げんげに向けて両膝を折って座り、頭と手を廊下につけた。


紫雲英げんげ班長、お願いネ……お願いします。どうか、あの人の命だけは……命だけは助けてあげて下さい……」


 私にはもう、この男に泣いてすがることしか出来ない。あわよくばえんじゅ班長を、九鬼くき達から守ってもらいたい。


 私は自分勝手で最低な女だ。


「ギャハハーーッ! なんだよお前!? 面白ぇ! あんなオッサン様の為に泣いて土下座するとかぁ! 最高にみっともねぇなぁ!!」


 麝香じゃこうが手を叩いて私をあざけり笑う。悔しさよりも、今はえんじゅ班長のことが心配だ。


「おいブス! お前ぇ様は、えんじゅのオッサン様が好きなのかよ!? なぁ? あんかアホみたいな格好する奴のどこがいいんだよ? なぁお前ぇ様、

アイツ様に処女ヴァージンでも捧げたのかよ? なぁ? なぁ?」


 身を屈めた麝香じゃこうは、土下座する私の顔を面白おかしく覗き込んでくる。


「……好きよ……私にとって一番大事なひとよ……身も心も捧げたネ」

 

「プッ!研究室に篭りっぱなしで、股に蜘蛛の巣張ってんのかと思ったらお前ぇ様ぁ、やることやってんのかよ! ギャハハーー! あのオッサン様ァ、女の趣味悪すぎだろー!」


 なんと言われてもいい……えんじゅ班長の為なら私は耐えられる。


「素晴らしい……愛する人を思いやる心に、私は感動しましたよ。いいでしょう……()()えんじゅを殺さないと誓おう」


 紫雲英げんげのその言葉を聞いて、顔を上げた。


「その代わり、条件がある……貴女が開発した、あの歪み(ストレイン)を操作する装置の作り方と使い方を教えてほしい」


 私は首を縦に振り、紫雲英げんげが提示した条件を飲んだ。私はなんでもする。なんでもできる。あの人の為ならば……


*次回、『暴走する鬼』

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