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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

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願い

鳶尾いちはつ



 遠くでえんじゅ班長の、爆弾花火兵が爆発する音が聞こえた。その振動はこの手術室前の廊下まで届いた。


 アレが爆発したという事は、九鬼くきを倒したのかもしれない。

 アレは二発しか用意できていない。二発目の爆発が聞こえたら、私だけ先に撤退しろと言われている。帰還フィードバック出来る装置は、さっき突き飛ばされた時に受け取っている。


 手術室の扉は今も閉ざされたままだ。手術はまだ終わりを見せない。心臓外科の名医、四十雀しじゅうからでも、ここでの手術は現実世界のようにはいかないのだろうか? 私はただ、成功を祈るばかりだ。


 私みたいなヤツが、神に祈るなんて烏滸おこがましいのは重々承知している。でも、(あの人)の願いだけは叶えてほしい。絶対に……



 私は他人が嫌いだった。昔から人と関わるのがわずらわしかった。たとえ親でも、その存在がうとましく感じるほどに。


 一人でいるのが普通だった。べつにそれが好きとは感じない、ただ孤独を常としているだけだ。私の人生に私以外は必要なかった。


 開発部で研究に没頭している時だけ、生きている事を実感出来た。同僚との付き合いは、簡単な挨拶と必要最低限の会話だけ。そんな日々を送っていた私に、えんじゅ班長は声を掛けてくれた。


 ある夜の遅くに、一人で研究室に篭ってPCの画面と睨めっこしていた私を、彼は突然尋ねて来たのだ。

 彼はキャラメルフラペチーノを差し出してきてこう言った。


「お疲れさんじゃのう!こんな夜遅くに一人で残業か!?」


 白と赤の縦縞模様の、馬鹿みたいに派手なジャケットを着た坊主頭の彼は、ニカっと笑ってそれを私の手に無理矢理持たせてくれた。


 ひんやりと冷たいカップが、わたしの眠気を飛ばした……


「な! なんですかネ!? あんた誰ネ!?」


「ははは!ワシぁえんじゅちゅーもんじゃ!アンタ、キャラメルフラペチーノは嫌いか?こっちの抹茶味のほうがええか?」


「い、いや……どっちも食べた事……ないネ……」


「ほぉか? 研究者さんは頭使うけぇ糖分とったらええわい! ほれ、食ってみられ!」


 

 ────戸惑う私を他所に、快活に笑う彼はPCの画面に映し出されている歪み(ストレイン)の解析画面に興味を示すと、それについて矢継ぎ早に質問してきた。


 私はその全てを教えてあげると、彼はこどものように目を輝かせた。時折り見せる笑顔は、私の警戒心を溶かした。


 そして今度は、彼の方から歪み(ストレイン)を有効的に利用出来ないか提案してきたのだ。人々が自由に異世界と現実世界を往来することが出来れば、資源枯渇問題も解消できると。


 彼の話を、私は夢中になって聞きいった。その日に出会った人に、こんなに沢山喋ったのは初めてだった。気づけば外は明るくなっていた。


 それ以来、えんじゅ班長は忙しい合間を縫って、ちょくちょく私に会いにきてくれた。


 外で会う時間も増え、仕事以外の話をする事も増えた。彼には異世界転生救済課の班長としての仕事の他に、医療機器メーカーの販売部長の肩書も持っていて、()()()()()()()()すみれを育てている事も聞いた。


 なんでも、病で死んだ部下の娘を代わりに育てているらしい。そしてその娘は心臓に疾患があり、近々心臓移植を行う予定だった。


 彼は手術費用を捻出すべく、二つの仕事をせわしなくこなす。班長という肩書きではあるが、班には合歓ねむ一人しか属していない。


 本当に忙しいのに……疲れているのに……私と会って笑顔を見せてくれる。私みたいな根暗で陰険な奴と普通に接してくれる。それがたまらなく嬉しかった。


 私は……彼に恋をしていた。生まれて初めて人を好きになり、好きな人の為に何かしてあげたいと思う様になった頃、すみれの手術が決まった。


 その日、私達二人はレストランでささやなパーティを開いた。彼は手術が受けられる事を泣いて喜んだ。やっとすみれを助けることが出来ると……


 そんな彼の姿を見て、私も自然と涙を流していた。私は、嬉しくて泣く事ができた自分に驚き、私をそんな人間に変えてくれた彼をますます好きになった。


 その年のクリスマスの翌々日、私は普段しないオシャレを精一杯して彼と会い、抑えられない気持ちを伝えると、彼は「ワシも同じ気持ちじゃった」と、普段どおりの明るい笑顔で私を受け入れてくれた。


 私は幸せの絶頂にいた。彼も、すみれの手術が成功すれば、きっと幸せになれる。そう思っていた。


 でも……年が明け、すみれの為に用意されていた心臓は奪われてしまった。他に適合するドナーは見つからない。


 彼はひどく落ち込んだ。私はそんな彼を見るのが辛かった。そして、手術を受けられなくなったすみれはどんどん弱っていった。


 他に手術のあてはないかと有能な医師とその関係者、別ルートでのドナーを探している間に、すみれは死んだ。


 葬儀はたったひとりの親代わりである彼と、私だけで執り行った。私はここではじめてすみれと会った。痩せ細っていたが、とても可愛いらしい女の子だった。出来る事なら元気な姿で会いたかった……



 数日後、彼はすみれの最後の願いを叶えたいと私に伝えた。それは……


『できることなら、私の友達をたすけてほしい』


 宮田カケル、福永サキ、一之瀬ショウの三人を。



 私達は医者でもなければ、ドナーを探せる関係者でもない。でも、私にはある考えが浮かび、その事を彼に伝えた。


 金も時間も掛けず、いち早くドナーを見つけ出す方法……


臓器提供者ドナーは異世界から調達すればいい】


 異世界の人間を拉致して、検査を受けさせ、適合した者をドナーに仕立て上げる。


 悪魔のような考えだと自覚している。


 初め、彼は反対した。たとえ異世界だろうと人間であることに変わりはないと……


 法律を犯す方法も模索した。闇ルートでブローカーから臓器を買っても失敗するリスクは高く、闇医者は信用できない。そして費用も一人分しか用意出来ない。それに子どもの親に説明のしようがない。もう、他に方法はなかった。


 私の提案を受け入れ、彼は悪魔に魂を売った……


 

 彼は、政治家と裏金で通じている心臓外科のスペシャリスト、新にほん医師会の副会長である四十雀しじゅうから医師を脅して仲間に引き入れた。


 そして私は歪み(ストレイン)を広げたまま維持する装置を開発した頃、合歓ねむに異変が起きた。異世界間を自由に往来できる能力に目覚めたのだ。私達は、これは天啓だと信じ込んだ。



 全てが上手く行くと、そう思っていたんだ……




────ドドォォォォォォォォーーーーーッン!!



 両手を組んで額に押し当てて祈っていると、爆弾花火兵が爆発する音が聞こえた。その衝撃はビリビリと廊下を震わせた。二発目……撤退の合図だ。


 一発目で九鬼くきはやれなかった!?もしくは、二発目ははなぶさを仕留めるために使った!? そのどちらでもない可能性はある。


 私は、えんじゅ班長を置いて逃げたくない。サキの手術も成功してほしい。神様! どうか!


「こんな日の高い内から花火とは、風情がないな……」


 手術室の前で膝をつき、祈っていた私はその声で振り返る。そこに居たのは、三班長のひとり、紫雲英げんげだった。


「こんにちは、鳶尾いちはつさん」


*次回、『愛する人のために』

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