源八大爆発!
◆英
この対局を乱す乱入者は、源八率いる山賊の集団だった。
彼らは俺と千代草を取り囲む伴天連の騎士達へ向かって猛スピードで駆けてくる。
「槐ーー!! 伴天連の親玉はやっぱりお前かぁーー!」
源八は馬上で槍を振り回してながら、槐の名を叫び、速度を上げた。
源八は爆弾花火兵の存在を知らない。このまま源八達が、騎士の誰かに接触すると俺達は爆発に巻き込まれてしまう。だが、願ってもない展開だ。俺はこの乱入者達を歓迎する。
俺は冷静に槐だけを注視する。
「源八! おどれなんしとんなぁーー! 去ねやぁーー!」
槐は明らかに動揺していた。きっと、爆弾兵を下げるかどうするかの判断に迷っているのだろう。
爆発すると、槐にとって臓器移植の要である千代草は巻き込まれることになる。それだけは絶対に避けるはずだ。
さあ、爆弾兵はどいつだ!? 何人いる!?
槐の動向にじっと目を据える俺は、たじろぐ千代草の肩を無意識に掴んで抱き寄せていた。その手に力が入る。
「うぉぉぉぉーーーー!! テメーらぁ! 気合い入れろぉ! 片倉の無念を晴らすんじゃーー!」
手下に発破を掛け、迫り来る山賊達の集団についに槐が動いた。
左手を横に払うと、伴天連達の中で一人だけ、命令に従うようにその場から逃げ出したのだ。
アイツだ! しかも一人!
逃げ出した騎士が、俺達からある程度離れた所で、その背中に向けて短剣を投げつけた。届かなかったが穢悪を撃つには充分の距離。
「参の穢悪! 身を焦が衝撃」
パリッ!
落ちた短剣から放たれる電撃が逃げる騎士を襲った。
ドォォォォーーーーッン!
爆弾花火兵は色とりどりの光を放って爆発した。
その衝撃で山賊達は何人かが馬から落ち、千代草は悲鳴を上げる。俺は爆発の飛来物から千代草庇う。
「うぉーー! なんじゃこりゃぁぁー!!」
源八は馬から落ちて驚愕している。土埃が舞い、その場にいる全員の視界を遮った。
「クソがっ!山猿めッ!いらんことしおってからにッ!」
バキッ!
俺の左拳が槐の顔面を捉えた。血中に魔力を込めた渾身の一撃。
槐は壁まで吹っ飛び、背中を打ちつける。だが、倒れはしなかった。流石は班長クラスといったところか……
「やってくれたのぅ……英ッ!」
歯が折れたのか、槐は口の中の赤い塊をぺっと吐き出した。
「それはこっちの台詞だよ、オッサン!」
風により土埃が晴れると、再び山賊達が雄叫びを上げて動き始めた。それを伴天連の騎士達は迎え討つ。
二つの勢力がぶつかり合う戦場で、俺と槐は、周りの事を気にも止めずに睨み合っている。
「英よぉ、ワシぁもう止まれんのよ……ここでお前もブチ殺して、千代草を貰っていくでぇ」
「アイツは渡さねぇ……そもそもアイツを傷つけたお前は絶対に許さねぇ」
保険は使った。後は俺が、今出せる全力を槐にぶつけるだけだ。
血中に魔力を大量に流し込む。まだ一度も使っていない穢悪……終極の次に強い力。
「壱の穢悪! 僭上の悪鬼羅刹ッ!」
ドクンッ! 激しい脈絡の動きで体が跳ねた。
体が、内側から燃えるように熱い!
筋肉が隆起し、骨がメリメリと悲鳴を上げる!
高揚感に溺れそうだ……今ならなんでも出来る気がする。
「な、な、なんならぁ? ……ワレのその姿は? 鬼か?」
槐は驚いた顔で立ち尽くしている。俺には今の自分の姿を見る術はないが、気にはならない……ただ、目の前の槐を叩くのみ!
槐は金と黒の市松模様のジャケットを脱ぎ、前後を逆にして袖を通した。
「化け物がッ! 喰らえ! 穿天猴!」
市松模様の黒い部分から無数の花火が飛び出し、真っ直ぐ俺に向かってくるが、構わず突っ込む。
ドドドドドンッ!!
花火は俺にぶつかると激しく爆発を起こすが、今の俺の体はほとんどダメージを受け付けない。時間制限はあるが、無敵の状態だ。
「くっ! おどれは人間辞めたんか!?」
「人間辞めたのはお前だろうがッ!」
槐の懐に入り込み、俺は拳を振り回す。
一発、二発……骨が砕ける音がした。
三発、四発……臓物が潰れる音がした。
槐の細い体に左右のフックを四発叩き込んで吹き飛ばした。
初めて使う壱の穢悪の力に興奮が抑えられない。なんてパワーだ……
右腕に違和感を覚えた。黒鉄戦で折れた右腕は、さっきの自分の攻撃で千切れかけており、僅かな筋肉と筋だけで頼りなくプラプラと揺れている。
だが、それには全く痛みは感じない。そしてなぜか笑いが込み上げてきた。
「あっはっ……はっはぁぁーーーー!!」
四つん這いで地面にうずくまり、吐血して苦しむ槐の腹を笑なら蹴り上げる。
なんだコレは? 俺が強すぎるのか? コイツが弱いのか? 力が漲る……興奮で意識が飛びそうだ。 愉快だ! ……なんて愉快なんだ!
『魔王様……』
頭の中で俺を呼ぶ声が聞こえた。かつて俺が従えた十二の悪魔だ。
『我らと共に、再び全てを破壊するのです』
「ああ、そうだな……そうだった……じゃあ、そうするか?」
俺は魔王だ。誰よりも強く、恐れられる存在だ。槐のチンケな花火で寝転んでいる九鬼より、よっぽど強い……
この場にいる奴は、全員殺す……一匹残らず全員だ。
千代草? 安心しろよ、英臣。ちゃんと殺してやるさ……
俺を突き動かす黒い衝動は、俺の意識を飲み込んだ。
*次回、『願い』




