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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

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最終決戦開幕

はなぶさ



 片倉が住んでいた屋敷の一角にある酒蔵の内部には、現在数機の発電機が稼働しており、絶え間なく奥の手術室へ電力を供給している。その手術室へと通じる廊下で、えんじゅは両手を広げて語りはじめた。


「ワシらがここでやりよったんは、お前らも知っての通り臓器移植じゃ。手術が必要な子どもをここに運んで、四十雀しじゅうから達医療チームが執刀する。ここはその為の場所なんじゃ」

 

「……それで?」


 問答無用と言っていた九鬼くき班長だが、仕方ないといった感じで腕を組んで、えんじゅを見据えたまま訊いた。


「臓器移植はなぁ、その体に適合する臓器を見つける事から始めるんじゃが、ドナーなんてそう簡単に見つかるもんじゃない。待っとる間にも死んでしまう者もおる………ワシの娘がそうじゃった。娘のすみれは心臓に疾患があって長くは生きれん体じゃった。そんでも一度移植手術が決まったんじゃが、無しにされたんじゃ……どこぞの国の金持ちに心臓を横取りされてのぅ」


 娘がいて亡くなった事は知っていたが、そんな事があったなんて……


 俺達は何も言えず、えんじゅの言葉に耳を傾ける。


「それからワシは悟った。倫理観や道徳心に従って真面目に生きとっても馬鹿を見るだけじゃと。他者を蹴落としてでも、欲しい物は手に入れるべきじゃと……ワシは考えた。必要な時に、必要な部位の臓器が手に入る場所はないんかとな」


「アンタ……まさか」


 えんじゅは俺を見てニィっと笑った。


「ほうじゃ……異世界ここよ。ここは誰かが創造した世界! 死んでも困らん人間がなんぼでもおるんじゃ!」


「異世界の人間から臓器をっ!?」


「ワシからすれば異世界は天然の保管庫! 人は“部品”なんじゃ! 今、手術中の福永サキの心臓は、異世界の子供の心臓じゃ!」


 異世界の人間の心臓を、現実世界の人間へ移植するのか!? そんな事ができるとは思えない!


「無茶だ! 手術を終えて現実の世界へ戻ると、臓器だけ炭化して消えるんじゃないのか!?」


 俺は自分で言って気がついた。自力で自宅に戻った一人目の迷子ロストチルドレン、宮田カケルの死因を。


 帰宅後、数時間に死亡……遺体を解剖すると心臓が無かった。



「宮田カケルに移植された心臓は、異世界の人間の物だった……?」


 俺がそう言うと、えんじゅ鳶尾いちはつの背後に回り、両肩にそっと手を当てて言った。


「カケルにはもう時間が無かった……手術を早めた事は後悔しとる。それでもこの失敗を経て、ワシは一つの仮説を立てた。今回はそれに望みをかけたんじゃ……それは」


 えんじゅが、ゆっくりと指をさした先にいたのは千代草ちよぐさだった。


「異世界のこどもを、現実世界に連れて行き、そこで殺害した後、蘇生魔法ライズを使って生き返らせる。蘇った異世界の子どもの肉体は、現実世界の元素を取り込んで復活する。そして、もう一度殺して心臓を取り出す。そうすればサキの体に移植しても、心臓は炭化することは無いと! 実際、その子供は炭化する事なく息を引き取ったわ……」


 俺の隣にいる千代草ちよぐさは座り込み、口に手を当て、声を殺して泣きはじめた。


「ヒントになったんは二年前。はなぶさが殺した千代草ちよぐさのドラゴンじゃ……追跡者トラッカーだったドラゴンを殺し、蘇生魔法ライズで復活させると暴走状態は解除されていた。それはおそらく肉体と魂が現実世界用に変換コンバートされたからじゃ。」


 くだらない知恵を回しやがる。


えんじゅ、アンタはなんとも思わなかったのかよ? 異世界の子どもを、二度も殺したんだぞ? なぁ……罪の意識は無ぇのかよ?」


 怒りで体と声が震えた。


 血が熱い。感情に煽られ、自動的に血中に魔力が流れている。


「アホがッ! なんとも思っとらんわッ! ワシには大義があるんじゃ! 異世界コッチの子どもが死んでも、現実世界の人間は誰一人困らん! 罪じゃと!? そがな事ぉ、考えるわけなかろうが! 誰も犠牲にせんと、すみれの友達が救えるんか!? おどれにその方法が思いつくんかッ!?」


 えんじゅは興奮して息巻く。


 俺の腕を掴む千代草ちよぐさは、涙を流しながら首を横に振る。落ち着かせるため、俺はその手を握った。


千代草ちよぐさ……」


「手術がうまくいったら、千代草ちよぐさには今後も付き合ってもらうど……」


 えんじゅは冷徹な表情でそう言い放つ。


「次は無い……」


 九鬼くき班長が戦斧を両手に出現させた。


えんじゅ、貴方には同情はする。だが私は無頼ぶらいに振り切った貴方達を、ただ粛清しゅくせいするのみだ」


「なんじゃぁ九鬼くきちゃん! おどれやっぱりただの言いなりか!? ワシがこんだけ言っても、自分の意見も出せんとはのぅ! はなぶさのほうが人間臭くてよっぽど好感もてるど!」


 えんじゅ鳶尾いちはつを壁へ向かって突き放した。そこには先ほど鳶尾いちはつが押そうとしたスイッチがある。


「押せぇ! 鳶尾いちはつちゃん!」


 鳶尾いちはつは迷う事なく壁に設置してあるスイッチを押した。


 イィィィィィィーーー……


 不快な音、これは空間が捩れる音だ!何をする気だ!?


「喧嘩じゃ……おもて出ろや」


 ヴヴゥゥーーン!


 足元に歪み(ストレイン)!? しまった!鳶尾いちはつはこの酒蔵の隅にあの装置を置いてあったのか!?


 ビシュン!


 景色が一瞬にして変わった。……俺と班長とえんじゅ千代草ちよぐさだけ、酒蔵から移動していた。


 ここは? 都の路地か? まだ片倉の異世界の中だ。酒蔵から外に出されただけのようだが、伴天連ばてれんの騎士達が俺達を囲っている。


合歓ねむが使えんくなったからには、ワシらが現実世界に戻る方法は、お前らの帰還フィードバックを使うしか無い! それを殺してでも奪う!」


えんじゅは右手を高らかに上げた。


「かかれぇぇーー!!」


*次回、『陥落』

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