集う
◆英
「千代草ッ! 槐ッ!」
開かれた扉の先に二人は立っている。その奥は病院の廊下のような造りになっているのが伺えた。
「英さん、鳶尾さんを離してあげて……」
そう言う千代草の顔はひどく憔悴しているように見えた。いつも持ち歩いているポシェットは、鎖でぐるぐる巻きにされシロは封印されている。
「槐! まずはお前が千代草から離れろ!」
俺は鳶尾を押さえつけたままそう要求すると、槐は何も言わずに軽く両手を上げて千代草から距離を置いた。
「千代草、こっちへ!」
千代草は槐を警戒しながら俺の方へ駆け寄ると、もう一度鳶尾を離して欲しいと言ってきた。俺は力を緩めて、鳶尾から離れる。
「元気そうじゃのう、英。ワレは海で溺れて死んだ思ぅとったわ」
槐は懐から扇子を取り出し、パタパタと顔を仰いだ。
「あいにく泳ぎは得意な方でね……そんな事より、アンタ、千代草に何をした?」
「なんもしとらんわ。ただ、仕事を手伝ってもらっただけじゃ」
仕事? 俺は千代草の顔を見る。後ろめたい事があるのか、千代草は胸に手を当てて、視線を俺から外して下へ向けた。その仕草から、心に負担が掛かった事をさせられたのだと思うと、怒りが込み上げてきた。
「無理矢理連れ去って強要したんだろ? 手伝ってもらったとか……ふざけんじゃねーよ!」
「まぁ、落ち着けや。ホレ、ワレのとこのボスも来たけぇ、ちゃんと説明したる」
槐は顎で俺の後方を指し示す。振り返ると俺の後ろには、スーツと金髪を伴天連達の血で赤く染めた九鬼班長が立っていた。まるで狩りを終えた獣が、静かに佇んでいるようで、味方の俺でも戦慄を覚えた。
「あの、伴天連集団を一人で? ……ば、化け物ネ…」
怯える鳶尾の元へ槐が歩み寄った。
「九鬼班長……」
千代草も、ただならぬ雰囲気を出す九鬼班長を見て、怯えた様子だった。
「槐班長。私から特に、貴方に聞くことはありません。問答無用です」
九鬼班長は無表情で、単調にそう言うと、戦斧を構えて槐に向かってゆっくり歩みを進めた。
ぶはっ! 突然槐が吹き出して笑った。
「なんじゃそれ! はっはっはっ! やっぱり九鬼ちゃんはクッソおもんない奴じゃのう! 蒲公英に言われたんか? 弁明の余地なくワシを殺せって? ほーなんじゃろ?」
「何?」
班長は眉間に皺を寄せて槐を睨む。
「お前はそれだけの力を持っとんのに、上の言いなりばっかりで自分の意思がないロボットみたいじゃわ。ワシや紫雲英のように、野心持ったほうがええ! 人生に張りが出るど!」
班長を馬鹿にしたような台詞に、俺は腹が立った。
「黙れよ悪党が! その野心ってーは、こどもを連れ去って下手くそな手術を受けさせることなのかよッ!?」
そう言いってやると、槐はサングラスの奥で俺を睨みつけ、殺気を放つ。
「英ぁ、ワレはたいぎいのぅ……」
ドボッ!
「ぐはっ!?」
俺の腹部に突然衝撃が走り、体が後方に飛ばされ、酒の入った樽に叩きつけられた。槐の攻撃か!? 何をされたのか理解できないうえ、鳩尾へのダメージで呼吸がうまく出来ない。
「英さん!」
千代草が俺に駆け寄る。
膝をついて蹲る俺の前には、ボールのようなモノが落ちている。これは、花火玉か!?
「ここが手術室の前じゃなけりゃあ、爆発させて殺しとったんじゃがのぅ……おどれはもう黙っとれや」
槐は俺から九鬼班長へ顔を向き直すとこう言った。
「なぁ九鬼ちゃん、ちょっとだけでええけぇ語らせてくれや」
*次回、『最終決戦開幕』




