戦鬼
◆英
俺は施覆花さんと鉄線に会うため、馬を飛ばして山から都に降りて来た。町は想像以上に荒廃していて、戦争で侵略された後の悲惨さを物語っている。
『ピッ』
通信が入った。
『英、苧環だ。屋敷の正確な場所が分かった。その都は道が格子状に入り組んでいるから迷わないように気をつけろ。今お前が居る地点から北に進み、五つ目の門を右に曲がれ。そこから八つ進んだ門を左に曲がればすぐに屋敷が見えてくる。そこに槐は居るだろう……それと……』
「?……それと?」
『いや、俺からは以上だ。……死ぬなよ』
最後はひっかかる様な言い方だったな、何かあったのか?とりあえず施覆花さん達と合流しよう。
ピッ
「英です。槐の居場所が分かりましたよ。合流しましょう」
『…………』
聞こえていないのか?
『施覆花さん?』
『なぁ、英………お前が初めて鉄線と会うた日のことは覚えとるか?』
「?………えぇ、勿論」
施覆花さんの、妙に落ち着いた静かな声と、通信を使った突拍子の無い質問に違和感を覚えたが、すぐに理解して俺は馬を止めた。
「あれは……」
俺は溢れそうになる感情を抑える為、一度だけ言葉を区切り、呼吸を整えてから言葉を繋げる。
「……あれは、俺が救済課に入ってから、半年間の訓練が終わる少し前の事でした。午後の訓練を終えて宿舎に戻る時、道場横の自販機の前を通るとあの人は俺に声を掛けてくれました……アイスコーヒーのボタンを押したのにカフェオレが出たからお前にやるよって……投げ渡してくれたカフェオレは、夏場だったのに何故かホットでしたね」
俺は無理して、少しだけ笑い声を含みながら伝えた。
「ははっ、意外と天然やからな、たまにボケた事する奴やったわ……」
通信越しに暫く沈黙が続いた。俺は馬をゆっくり進めながら施覆花さんからの言葉を待つ。
……鼻をすする声が聞こえた……。
俺からは、何も聞かない…。
『すまん、英。俺は一度帰還する。鉄線をここに置き去りにできん』
「…….了解です」
施覆花さんが通信を切った後、俺は灰色の空を見上げ、しばし黙祷をささげた。
……懸念がある。また千代草が悲しむだろう。鉄線さんの事を知るときっと、「私がその場にいたら救えたかもしれない」、「私が連れ去られたばかりに」と落ち込むに違いない……。そうやって自分を責めるだろうな。
俺は馬を早め、槐がいる場所を目指す。
苧環から再び通信が入った。その内容は、鉄線さんが合歓を瀕死に追い込んだ事だった。それを聞いて一つの不安材料が減った。敵は異貌人の合歓という戦力を欠いているのだ。それは、槐達がもう、異世界から異世界へ逃げる事は出来ないことを意味する。
北上して五つ目の角を曲がると、西洋風の騎士達が道を塞いでいた。コイツらが源八の言っていた伴天連達だろう。
手に持った槍で俺の進行を止めようとするが、俺はそいつらを構うことなく駆け抜ける。
更に進むと、この異世界の和風の兵達が何人か残っており、伴天連の騎士団と交戦していた。和風の兵たちの数は少なく、明らかに劣勢に見える。俺はその中を馬で駆け抜けた。
八つ目の角を左に曲がると屋敷はすぐに見えた。しかし、その門前には多数の伴天連騎士が警護していた。その中で一際大きな兵士二人組が、ハルバートを持って門の左右に立っている。ゴールを目前にしてここが最大の難関だろう。
もう馬で駆け抜けるのは無理と判断し、降りて馬の尻を叩き、この場から逃がしてやる。俺は懐から短剣を取り出し、大きく息を吸い込んだ。
多少の無茶をしてでも、ここを切り抜けなければならない。血中に魔力を流し込もうとした瞬間……
ドドォォォーーン!!
俺と伴天連達の間に、雷のような衝撃と轟音が落ちた。俺は飛び散る石や土塊から顔を背け、立ち込める砂埃の中で見覚えるあるシルエットを見つける。
巨大な戦斧を地面に叩きつけ、この地に現れた戦鬼……
九鬼班長だ。
*次回、『八面六臂』




