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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

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介錯

施覆花おぐるま



 施覆花おぐるまは、鉄線てっせんの亡き骸をひとつに纏め、胸の前で組ませてやる。


 千代草ちよぐさ蘇生魔法ライズの有効時間は死亡から一分以内。それを過ぎると蘇生に成功する見込みはない。極端に遺体が損壊している場合も蘇生は難しいと聞かされていた。


 どちらの条件も満たせない鉄線てっせんの死は受け入れるほかなかった。だが、元よりいつ死んでもおかしくない日々を送っていたのだ。覚悟はとうに出来ていた。それでも、仲間を失った悲しみに心は傷んだ。


 施覆花おぐるまは、羽を無くして飛べなくなった蝶のように、モゾモゾと地面を這う合歓ねむを見やる。


 背骨を切断した事により、下半身の自由は効かない状態だろう。もはや手の施しようが無いのは傍目はためから見ても分かる。この合歓ねむの命も、尽き果てる手前であった。


 「おい、ガキ……俺はお前のことが憎い。死んでも許せん。せやけど、元は同じ志を持った仲間やったんや。もうこれ以上苦しまんように介錯したる」


 施覆花おぐるまは、落ちてある合歓ねむの刀を拾い上げると、這って逃げようとする合歓ねむの前に立ち塞がった。


「言い残すことは無いか?」


 「………いやだ、おまえに、きられるのは、いやだ……せめてくきさんがいい!! くきさんがいいぃぃぃーー!」


 「お前、狂っとんのか!」


 施覆花おぐるまは絶叫する合歓ねむの首に刀を振り落としたが、その刃は首に届く寸前で、空間ごとぐにゃりと曲がってしまう。


「な! なんやこれ!?」


 施覆花おぐるまは危険を察知して合歓ねむから飛び退いた。


「あーっ! あーーっ!! あぁぁぁぁぁあーーー!!」


 更に大きな奇声をあげた合歓ねむの周辺の空間が徐々に歪み始めると、それは大きなうねりとなり、合歓ねむを飲み込む様にして消えて行った。


 「クソ異貌人ストレンジャーがッ!」


 施覆花おぐるまは舌打ちをして、地面に刀を突き刺した。




九鬼くき



 九鬼くきかすかに聞こえる水の音で目を覚ました。横たわっていた体をゆっくり起こして辺りを見渡す。


 そこは中世ヨーロッパを彷彿ほうふつとさせる美しい庭園の中だった。花壇には色彩豊かな花が植えられ、光に照らされた木々達は、まるで話しかけているかの様にさわさわと風に揺れている。覚醒のきっかけになったのは、近くの噴水から出る水の音だったのだろうか。


 降り注ぐ柔らかな日差しを遮るフォリーの中。九鬼くきはその真ん中に置かれたベッドの上に居るのだと気づいた。

 ここも誰かの異世界なのだろうか? だが、夢のような、どこか懐かしく、心地が良い空間に感じられた。


 えんじゅの罠に掛かり、さらわれた千代草ちよぐさを追って歪み(ストレイン)へ飛び込んだ後、すくざま意識を絶たれ、今はこの場所にいる。


 九鬼くきは着替えさせられている事に気づいた。真っ白なドレス……とまではいかないが、中世風のチュニックワンピースのようだ。

 枕元には救済課のスーツが綺麗に畳まれて置かれている。

 顔に違和感がある。化粧を施されているのだ。普段から化粧は一切しない九鬼くきは、顔をかゆく感じた。そして長い金髪は後ろでひとつに編み込まれている。


 誰が私にこんな事を……


「お目覚めですか、澄香様」


 声が聞こえた方に顔を向けると、白い修道服に身を包んだ女性がすぐ近くに立っていた。この距離に来るまで全くその気配に気付かなかった、しかし相手からは敵意を感じられない。


 白い頭巾を目深に被り、その表情は読めない。よく見ると彼女の後ろには、同じ容姿をした小さな女の子が、九鬼くきを警戒する様に覗いている。


「行き先を決めずに蜂窩ビーハイブに飛び込むだなんて、とんでもない無茶をなさいましたね」


 蜂窩ビーハイブを知っている? 異世界で創造された人間は、その存在自体知らないはずだが。


「貴女は一体、誰なのですか? そしてなぜ私を此処へ?」


 「此処は蜂窩ビーハイブの中央部、私達は澄香様を守護する者です。今はまだ澄香様の出番ではありません。帰りの支度が出来次第、アナタを然るべき場所へ送り届けましょう」


 そう言うと女は踵を返してフォリーの外へ出てく。後ろに居た女の子は最後に振り向き、恥ずかしそうに小さく九鬼くきに手を振った。

 


*次回、『戦鬼』

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