再会
◆英
南天と片倉を見送った後、俺と源八は部屋に残された。俺は今から此処でやっておかなければならない事がある……
「ふ、二人が……消えた?」
帰還して、この異世界から消えた二人に驚いている源八を尻目に、俺はもう一度、十の穢悪妄信的な信徒のガスをコッソリ発動させた。
俺との距離が近く、部屋の中だからか、効果はすぐに現れる。源八はその場で急に倒れ、寝入ったのだ。今回発動したのは『眠気』。ランダムでどの症状が出るか不明だが結果は最良のものだ。
何故こんな事をしたのか? それは源八を追跡者にさせない為だ。救出対象者が異世界から排除されると、その世界で親しかった者が暴走して、救出対象者を殺しに行ってしまう。俺なりの気遣いってやだ。
俺はイビキをかいて寝ている源八に、そっと布団をかけて部屋を後にした。
ピッ
「苧環、片倉が住んでいた屋敷を調べてくれ、そこに槐も四十雀も居るはずだ」
『了解した。座標を調べて全員に送る。それと、南天と片倉は無事に帰ってきたぞ……いや、南天は無事とは言えないな。足が限界だったのだろう、滝のような汗をかいて倒れ込んだぞ』
やっぱり相当無理していたな……これは後から桔梗にこっぴどく怒られそうだ。俺は苧環に頼む、とだけ伝えて通信を終えた。
ピッ
「施覆花さん、英です。槐の居場所が分かりました。一旦、合流しましょう」
◇施覆花、鉄線
「英から連絡や、槐の居場所が割れた。合流するで」
先ほど戦闘をした寺院から少し離れ、荒廃した都を周囲を警戒しながら進む施覆花は、鉄線にそう伝えた。朽ちた木、崩れた壁や建物、ゴミと死体しかない路地には異臭が漂っている。
そんな道の先、灰色の空の下をこちらへ向かって歩いてくる一人の姿を目にした。左手に刀を握り、黒いスーツを着ている白髪の少年……彼は、顎から頭頂部へ包帯を巻いて、口元をバンダナで覆っている。
「あいつは、合歓……か?」
焦点の合わない目で、左右にふらふらしながら歩く姿からは生気が感じられない。だが、合歓は槐と共謀して迷子誘拐と九鬼班を襲撃した犯人。このまま見逃すわけにはいかなかった。
施覆花と鉄線は臨戦体制に入ると、苧環に報告する。
「苧環、こちら施覆花、合歓を見つけた。今から交戦に入る」
『了解です。でも気をつけて下さい! 合歓は九鬼さんでも手を焼くほどの強敵です!』
「分かっとる……」
施覆花は通信を切ると、鞘を左側のベルトに差し込み、腰を落として居合抜きの構えに入る。
鉄線は斬り合いの邪魔にならぬよう、トンファーを両手に握り、施覆花の右後方で構える。
合歓は歩く速度を落とす事なく二人に近づく。相変わらず虚な目のままだったが、施覆花は合歓が何かを呟いていることに気づく。
「くきさんくきさんくきさんくきさんくきさんくきさんくきさんくきさんくきさんくきさん……」
九鬼の名前を連呼している。そう理解した刹那、合歓の姿が視界から消え、背筋が凍った。
自分の右後ろに居る鉄線が、崩れる空気を察した。
*次回、『鉄線』




