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「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」 ー内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課活動記録簿ー  作者: ねず ただひま
同始異終(どうしいしゅう)の章

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片倉壮介という男


はなぶさ



 俺と南天なんてん源八げんぱちは、馬から降りて片倉の家の玄関前に立った。源八が引き戸を軽く叩きながら片倉を呼ぶ。


 「片倉ぁ! 源八だ!」

 ……


 中から返事は聞こえてこない。源八が止めるのを無視して、俺は構わず戸を開けてズカズカと室内に入ってゆく。


 居間と思わしき部屋の真ん中で、こんもり膨らんだ布団が一番最初に目に入った。よく見るとそれは怪しく、小刻みに震えている。


 遅れて南天なんてんと源八も入ってきた。すると布団を見た源八が呆れた感じの声を出す。


 「片倉よぉ……お前ぇ、しょうがねえなぁ…」


 そう言って源八は布団を摘み、力任せに引き剥がすと、中に居たのは三十手前くらいの痩せた男で、青白い顔をして怯えている。


 「ひぃ! 源八さん!? と……だ、だ、誰だよ!? アンタら!?」


 俺はその男の前にしゃがみ込み、なるべく刺激しないよう、ゆっくり話しかけた。


「この世界を創造した異世界転生者、片倉壮介さんだね? 俺達の服に見覚があるだろうが、安心しなよ。今日はアンタを現実世界に連れ戻しに来たんじゃない」


 「おい、はなぶさ! それは…」


 後ろに居る南天なんてんを振り返らず、軽く手を挙げて続きの言葉を制する。


 アイツが言いたい事は分かる。如何なる状況下においても、俺達異世界転生救済課の者は、救出対象者ドリーマーと接触した場合、優先的にその者を異世界から排出ドレインしなければならないのだ。


「ここはアンタが好きに設定して作った世界だ。誰よりもこの世界に詳しいよな? 教えてくれ、えんじゅは今、何処にいる?」


 突然の事で理解が追いついていないのだろう、片倉は暫く硬直した後、後退りをして俺の全身を上から下までくまなく見た。そして、慌てて土下座の体勢になった。


「アンタの格好! もしかしてえんじゅさんの仲間ですか?! 俺を現実世界に連れ戻しに来たんですか!? だったら連れて帰って下さい! もうこの世界には居たくないんです! お願いします!」


 片倉は両手をつき、頭を何度も畳に打ちつける。思ってもいなかった反応に俺は困惑した。


「どうして今更帰りたくなったんだよ? 二年前、えんじゅがここに来た時に帰れば良かったじゃないか?」


 俺の質問に片倉は頭を下げたまま答える。


「その時は、この世界は平和でした。えんじゅさんも、未練があるならここに残ってもいいと言ってくれたんです。でも、半年ほど前、この世界は戦火に巻き込また……ここは、俺がゆっくりとお酒を作りながら商売を楽しむ為に作った世界だったのに……」


「何があったんだ?」


 俺が聞いた事の返事を、うずくまっている片倉の代わりに、源八が答えた。


「片倉はなぁ、嫁さんとこどもを伴天連ばてれんの軍団に殺されたんだよ。それでここまで逃げたきたんだ」


 現実世界に絶望して自分好みの異世界へ行けたのに、そこでまた絶望させられたのか。あっちに逃げたり、こっちに逃げたり……そしてまた現実世界に帰りたいと。忙『せわ』しない奴だ。逃げてばかりのコイツには全く同情できないな。


「俺は元々、片倉の商売仲間だった。コイツが店で売る酒を運ぶ仕事をしてたんだよ。あの頃は平和でよかった。なぁ片倉よ……伴天連ばてれんの奴らが来なけりゃお前も、お前の家族もこんな事にならなかったし、俺も仕事を無くして山賊なんかにゃならなかった……」


 源八は片倉の横に座り込み肩を優しくポンポンと叩いてやる。


「で、アンタら片倉と()()って? ……まぁなんとなくだが片倉がこの国の人間じゃないのはうすうす勘づいてたぜ……なぁアンタら、俺からも頼む、片倉を逃してやってくれないか?」


 源八も俺達に向かって頭を下げた。それを見た片倉は、今にも泣きそうな顔をしている。


「分かった……片倉さん、とりあえずアンタをこの異世界から排除ドレインしてやるよ。でもその前にえんじゅの居場所を教えてくれるか?」


 片倉は顔をあげると、俺の両手を掴んで何度もありがとうございます! と感謝の言葉を述べ、そして源八にも感謝した。


 その後、片倉はえんじゅの居場所を教えてくれた。奴は今、片倉が以前に住んでいた屋敷に居る。

 屋敷の中には酒蔵があり、今その内部を病院のように改装していて、現実世界から連れてきた数人の医者が居座るよになったらしい。おそらく四十雀しじゅうから迷子ロストチルドレンもそこにいるだろう。


南天なんてん、悪いが片倉を連れて先に現実世界に戻ってくれないか?」


「現実世界と異世界との往復ピストンは転送装置にかなり負荷が掛かる。クールダウンに数時間必要だ。俺がまたこの世界に来るまで待つのか?」


「いや、待たない。つーか、お前、無くした足が痛むんだろ? ()()()()()ぞ、無理すんな」


 簡易的な義足をつけた南天なんてんの右足を凝視する。足は若干の血が滲んでいた。


「そんな足でデカい図体支えてんだ、言葉通り、正に足手纏いだ。帰ってくれ」


 片倉の腕を掴んで起こしてやり、南天なんてんに引き渡す。


「俺はまだここで役に立ってない」


 南天なんてんは不満そうに俺を睨む。

 

「分かってるんだよ、お前の気持ちは……ここから先、えんじゅ合歓ねむとやり合う可能性が高い。そうなるとお前が一番先に狙われる」


 しばらく無言が続いたが、南天なんてんは俺を睨んだまま『帰還フィードバック』を唱え、二人が光に包まれる。


「源八さん! 今までありがとうございました!」


 片倉は源八に深く頭を下げると、源八は軽く手を振り、別れを惜しんだ。


「あぁ、俺もお前には感謝してるよ、達者でな!」


 


 そして二人の周辺の空間が歪むころ、去り際に南天なんてんは俺に指さしてこう言った。


「今回の件、無事に終わったら女の子がいる店を奢れよ」

 

 俺は軽く口角を上げ、応と返事をした。


*次回、『再会』

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