四つ腕の仁王像
◇施覆花、鉄線
ずんずんと大きな体を揺らしながら二人に距離を詰めてくる四本腕の仁王像は、右手に斧を、左手に太刀を、脇下から生えた両の腕は、槍を待ち構えている。仁王像の高さはおよそ四メートル、近づくと中々の迫力があった。
施覆花と鉄線。この二人が組んで戦う時は、幾つか固定している戦法がある。
主体となるのは、鉄線が前衛を務め、敵の攻撃を捌きつつ、後衛に回った施覆花が、鉄線の後方より敵に向かって、透明で伸びる刀で刺突する戦法。
仁王像は槍で鉄線の足元を細かに突きつつ、斧と太刀を交互に振り下ろす。仁王像の激しい攻撃で、床に散らばった無数の本が舞い上がる。
その本を鉄線が蹴り飛ばし、仁王像の顔に当てると、僅かに怯んだ隙に施覆花が透明な刀身を伸ばして仁王像の心臓を突いた。
だが、人間ではない仁王像の勢いは止まらない。再び激しく四本の腕を振り回す。施覆花は急遽戦法を変更し、鉄線の斜め左うしろに位置つく。仁王像の攻撃で、一番回転の速い右手の斧からの破壊を試みるのだ。
下段の両腕の槍が、鉄線の足元を薙ぐように払う。それを施覆花が足で踏みつけて止める。
仁王像が左手の太刀を振り下ろす前に、その手首に伸びる刀を突き刺して動きを封じた。
仁王像は残った右手の斧を向けて振り下ろす。鉄線はそれを左のトンファーで受け止め、右のトンファーで肘あたりから破壊する。
「で!? その映画の中でコイツはどうやって倒したんや!?」
施覆花は鉄線に聞く。
「なんの捻りもねぇーよ、ただの石像だ! 殴って崩すだけだったぜ!」
鉄線は更に仁王像の右脚大腿部をトンファーで殴ってヒビ割れを起こす。
「なんやその脳筋展開! とんだB級映画やんけ! インド映画みたいに突然歌い始めて倒すんかと思ったわ!」
施覆花は、仁王像の左の手首に刺した刀身を急激に縮め、その動きを利用して飛び上がり、仁王像の顔面に蹴りを入れた。
「硬ッ!」
施覆花の蹴撃はダメージを与えられなかったが仁王像を惹きつける事は出来ていた。仁王像の注意が自分から外れたと察知した鉄線は、下段の両手首をトンファーで完全破壊する。
対空している施覆花は刀身を仁王像の手首から引き抜き、一度納刀すると、目を閉じて集中を昂めた。
「虚心坦懐……」
鉄や石など、硬い物を斬る“斬鉄の極意”
施覆花は開眼すると、空中を逆さまの状態で刀を一閃し、仁王像の首を刎ね飛ばした。
二人は互いが確認せずとも、信頼しているからこそ成り立つ阿吽の呼吸で仁王像の破壊に成功したのだった。
……
「ただ殴って壊すなんて、芸がないなぁ……その映画、ヒットせんかったやろ?」
「確かに売れなかった映画だが、疲れて頭空っぽで観る分には最高だったぞ」
二人の足元に転がった仁王像の目からは、すでに紫の光は消えていた。
…
……
………
ピッ
『施覆花さん、聞こえますか? 英です』
「おう、聞こえとるで、ちょうど良かった。俺らが発見した発信機は鼠が背負っとったわ。九鬼さんとは会えへんかった」
『鼠? こちらも千代草は発見出来ませんでした。発信機はスーツを着させられた知らない女が持ってました』
「マジかい……参ったな、いきなり手詰まりか?」
『いえ、さっき苧環から通信がありまして、この異世界を創造したのは元救出対象者、片倉壮介という者だそうです。記録によると、片倉は二年前に死んでいることになっています」
「そいつは英を襲った黒鉄って爺さんと同じく、槐が味方にする為に異世界にわざと残した奴なんやろう……一旦合流しよか。すぐにそっちに行くわ。待っとれ」
『実は俺達、今から片倉と会う事になったんです。あまり時間がありません』
「大丈夫なんか?」
『多分……また連絡します』
*次回、『判明』




