行方
◆英
『お前はとんでもない嘘つきだな……』
通信相手の南天は呆れている。
「いいじゃねーか、今は消耗せずに乗り切るのが大事だぜ」
俺はそう返事しながら、痺れて動けないお頭を無視して、まずは怯えて震えているスーツの女に近づいた。よく見れば量販店で売ってる普通の黒いスーツだ。
顔は全然千代草に似てない。ただ、南天の言うとおり、ちょっと色んな部位がデカいな……豊満というか……スーツのサイズが小さいからか、余計に強調されてしまっている。山賊が発情する気持ちもわからんでも無い……いや、今はそれはいいか。
女の体を検める。スーツの襟首の裏と、ベルトのバックルから発信機を見つけると、それを奪った。そして女の胸ぐらを掴んで小声で伝える。
「俺は貴女を逃します。今から十かぞえる内に全力で逃げて下さい。でも、次に見つけた時は殺しますよ……」
女は何度も首を縦に振り、走って逃げて行った。多分あの女は、この異世界の人間だ。槐に捕まり、身代わりにされただけだろう。
それにしても、発信機の存在はすでにバレていたとは厳しい展開になった。
これで俺達は千代草に関する情報をひとつ失った。後は施覆花さん達が班長を見つける事に賭けるか……
全身をビクビクと痙攣させて倒れているお頭の元へ戻ると、苧環からもらったパウチを頭上に掲げ、ひとつ咳払いをしてからこう唱えた。
「煌めく天の川よりいでよ! ラブリーぷりぷりキュア天使! この者達の痺れを取り払い給もれぇ〜♪ きゅるん⭐︎!」
何かそれっぽい事を言おうとしたら、『プリプリ魔法少女アイラちゃん』の台詞が出てしまった。
この場が物凄く変な空気になってしまったがまぁいいだろう……
『英、お前……いや、やめておこう…』
「南天言いたい事があるなら遠慮なく言えよ」
痺れの根源である穢悪の能力を解除してやった。
山賊達は徐々に体の自由を取り戻し始め、お頭は胡座をかいて座れるまで回復した。
「お前、あの女を殺さないのかよ?」
「気が変わった……そんな事より、早速だが約束を果たしてもらうぜ。至急、片倉の所まで案内してくれ」
俺はお頭の前に屈んで手を差し出した。
◇施覆花鉄線
二人は九鬼の発信機が信号を出している寺院まで辿り着いた。建物は近くで見ると、壁に汚れやヒビがあったり、瓦が無かったり、所々傷んでいるのが分かる。
寺院を一回りして、ひとつしかない入り口である正面の両開きの扉に立つ。
「入り口はここだけや、ゆっくり扉を開け……」
鉄線は頷き、扉を片側だけゆっくり押して中を伺った。室内の床には、本や食器や瓦礫などが散乱している。奥には壊れた大きな仏像が数体佇んでおり、二人の侵入を拒むように睨んでいた。
二人はお互いに背中を合わせ、警戒しながら奥へ進入する。屋根は大きく抜けており、明かりが差し込んでいて、中は思いのほか明るい。
施覆花は信号を確認する。発信はやはりこの中だ。しかし、九鬼の姿はなく、信号は忙しなく動き続けている。
鉄線の視界の端に、小さく動くものがあった。よく見ると、そこにいたのは鼠だった。
「おいおい……まさか?」
「アレやな……よう見てみ」
鼠の背中には発信機が取り付けられている。
ドドンッ!
唯一の入り口である扉が閉まった。
施覆花は刀を、鉄線はトンファーを襲撃に備えて装備する。すると、部屋の奥に据えられてた巨大な四本腕の仁王像がグググと動きはじめ、目を紫に光らせた。
「なぁ、施覆花、仁王像に似たヤツが街中で暴れまわる映画を、昔観た事があったんだが、どうやって倒したと思う?」
「さぁな、知らん! 正解は解体しながら教えてくれや! 行くで、相棒!」
二人は仁王像を迎え討つ
*次回、『四つ腕の仁王像』




