神技と狂喜
◇九鬼班
英が黒鉄と接敵する一時間前に遡る……
電光石火とはまさにこの事であった。
槐班と落ち合う予定だったポイントRの山中に先に到着していた九鬼、南天、千代草の三人を、目を紫色に光らせた大勢の追跡者が襲った。
彼らの姿は、戦国時代の騎馬軍団と足軽衆を彷彿とさせるものであった。
三人を挟むように突然出現した二つの歪みからは、大量の兵達が湧き出し、互いの歪みへ突撃し合う形で合戦を始めたのだ。
ポイントRは何者かにより、すでにうつしよとのわかれが発動されていた。その結界内を、数えきれない程の兵が入り混じり、戦場と化した結界内は混乱を極める。
馬が駆け、怒声が響き、血と矢と刀が飛び交い、轟音と地鳴りが山を埋め尽くした。
槍を構え、陣形を組んで突っ込んでくる足軽衆を、南天が次々と指弾で撃ち抜き、千代草がポシェットから呼び出したシロは、騎馬隊を蹴散らした。
九鬼は千代草を背中に庇いながら、近づく者を悉く戦斧で斬り伏せる。
兵たちは、異世界から湧いた追跡者。倒せば炭化して消えてゆく。
だが、歪みからは次の新たな兵がやって来る、まさに堂々巡り。事態は深刻になりつつあった。
九鬼が迫り来る兵達の向こう側に、歪みの両端で飛翔するドローンを発見したのは、南天が持っている鉄球が底を突く手前だった。
九鬼が南天へドローンの破壊を指示する。ドローンは計四つ。九鬼は南天が向かった歪みとは反対側のドローン破壊に千代草を連れて向かう。千代草には魔力温存のために、保護魔法『好き避け』は使用させていない。
いくら倒せど横溢する兵達の猛攻に、三人とも次第に体力を奪われてゆき、やがて負傷する。あまりに数が多すぎるのだ。
救済課最高戦力の九鬼をもってしても、千代草を庇いながらこの圧倒的な数の敵を払うのは、しち難しい状況であった。
南天の手持ちの鉄球がついに底をつく。やむを得ず、近接戦闘に切り替える。
手のひらをお椀のような形に構え、襲ってくる兵の腹部に、その掌打を叩き込む。圧縮した空気を体内に送り込んで内部から破壊する必殺の極意だが、この戦法ではドローンには近づけない。むしろ現状維持すら困難で状況である。
歪みから新たな兵が現れ、九鬼を襲う。鉄砲隊と、鉄砲の投擲兵だった。
九鬼と千代草は戦斧を盾に爆発と銃弾から身を守る。それでも近寄る兵を九鬼は素手で屠る。顔を握りつぶし、蹴りで首をへし折り、手刀で兵の腹を貫く。その姿はまるで鬼神のようだった。
巻き上がる砂埃の中、千代草は、視界の端でシロが兵達に縄を掛けられて捕獲されているのを見た。慌てて千代草はポシェットの口を開けてシロを中へ呼び戻す。まさにその瞬間だった。
敵はソレを待っていたのだ。千代草の目に前に、ついに合歓が姿を現した。
いち早く合歓に気づいた九鬼は戦斧を両手に待ち構えて斬りかかった。縦に振り下ろした斧を合歓は避けたが、九鬼は直後に手首を捻って戦斧を寝かせて横薙ぎに移行する。
ほぼ直角に軌道を変え、追尾してくる斧を合歓は刀で受け流と、その場で回転しながらガラ空きとなった九鬼の右背後横の胴を水平に斬りつけた。
しかし、九鬼は受け流された戦斧を次は、強引に真下に叩きつける。その反動を利用して跳びあがり、合歓の斬撃を躱しながら踵で合歓の顎を蹴り上げた。
合歓は口から血飛沫と舌の先端を吹き出して後退する。
巨大な戦斧での一振りを、途中で二度も軌道を変え、更に自分に一撃を加える神技を目の当たりにした合歓は、“狂喜”に身を震わせた。
羨望と欲情が入り混じった眼差しを九鬼に向けるとニタリと笑う。薄く開いた口からは大量の血が流れ出た。
二人が再びぶつかり合う直前……
ドォォォォーーーーン!
空中に閃光を伴った炸裂音が響き渡る。それは花火だった。
空いっぱいに広がった火花は燃え滓となり、たちまち棘のついた小さな鉄球へと姿を変え、その場に居る全ての者へと容赦なく降り注いだ。
九鬼は戦斧を傘に鉄球を防ぎ、南天は倒した兵を持ち上げて身を守る。
九鬼は千代草に声を掛けて探すが、その目に映ったのは千代草を脇に抱えて歪みの奥へと逃げる合歓だった。
九鬼は鉄球を凌ぎつつ、兵を弾き飛ばしながら歪みの中へ身を投げた。
棘の鉄球が全ての兵を蹂躙し尽くした頃、歪みは閉じ、その場に残されたのは負傷した南天のみとなった。
かくして槐の目論見は果たされたのである。
*次回、『捜索』




