英《はなぶさ》には自覚を持って、ちゃんと反省してほしい件
◆英
いつだったか九鬼班長に聞いた事があった。
『なんでこの仕事をしているのか?』と。
ある救出対象者を助け出した後の夜の浜辺。束ねた髪と煙草の煙を海風に靡かせながら答えてくれた。
「私は、人が本来持っている強さを取り戻したいんだ。幻想の世界に閉じ籠り、甘さで思考が死んで退化してゆく姿を見たくないんだよ。」……と。
ただ、その横顔が、少しだけ寂しそうに見えたのを覚えている。
……
………
…………
腹に重さを感じて目を開けると、そこには芙蓉の頭があった。隣の椅子に座り、ベッドで寝ている俺を枕がわりにして眠っている。黒鉄と戦っていた時は鷲の姿だったが、今は人間の姿に戻っている。
頭にゴーグルを掛けていることを除けば、普通の女子高生にしか見えない。
今、俺の体が重たいのは芙蓉のせいではないだろう。視界に入る物から状況を推測する。カーテンで仕切られているが、ここは桔梗の医務室だろう。
俺は本部に運び込まれたのだ。右腕にはギプス……壁に掛けられた時計は午後八時を示していた。
あれから十二時間か?三十六時間か経ったのか?それとも、もっと経っているのかわからない。
「おい、芙蓉……起きろ」
ゆっくり瞼を開き、目を合わせた芙蓉は、俺にもたれかかっていた体を一気に起こして袖で涎をごしごしと拭いた。
「良かった! ハナブー、生きてる!?」
芙蓉は、ぱあっと明るい笑顔でそう言った。
「俺の事はいい。お前には無理をさせて悪かったな。怪我は大丈夫なのか? どこも痛くないか?」
俺がそう訊くと、芙蓉は制服をめくって銃撃を掠めた脇腹を見せようとしたので、言葉で止める。
「ハナブーは優しいね。ウチは大丈夫だよ!」
芙蓉は悪戯っぽく笑った後、何かを思い出したかのように急に照れた顔になった。そして、へへへと笑うと、怪我した俺の右手を握って指を絡める。
「なにしてんだ? つーか、あれからどうなったんだ?」
仕切られていたカーテンがシャッと開かれると、桔梗が現れた。ツカツカと歩み寄り、腕組みをして俺の枕元に立つ。何事かと見上げると、目を釣り上げて怒っているように見える。
なぜ?
「おい、アホでド変態の女たらし……」
随分じゃないか……
「松代のパンツとティッシュの事でまだ怒ってるのか? 悪かったな。でも助かった。ありがとう」
思い当たる節と、その時の感謝の弁を述べたが、どうやらその事ではなさそうだ。
「それもあるけど違うわバカッ! アンタ相当ヤバかったんだよ! 死んでもおかしくないくらい体から血が抜けてた! 一体どんな無茶をしたのよ!?」
その事に関しては心当たりがある……黒鉄戦で柄を握る騎士の手を巨大化させた時に、魔力と一緒に俺の血も流し込んでいた気がする。いい案だと思ったんだが、やはり代償は大きいのだな。
「悪い、次からは気をつけるよ……」
「それとアンタねぇ……あたしが駆けつけた時には意識がなかったのに……『おれのことは、いいから、芙蓉を〜、芙蓉を先に診てやってくれぇ〜』て、うわ言を言ってたの覚えてんの?」
桔梗は、わざと声を低くして、大袈裟に身振り手振りを添えながら、変な顔で俺の真似をした……
つーか、それ……似てんのか?
桔梗は笑顔の芙蓉を見て溜め息を吐いた。
「この状況をチヨが見たらなんて言うか……」
「あ、そうだ、ハナブー! あの後、黒鉄のじーさんね、ポイントRでさんざん喚き散らしたあと…………」
黒鉄は生きていた。連れ戻した後で、異世界に戻せと相当ゴネたようだ。その様子を見かねた万年青先生が、『年寄りの癖に、小僧みたいに駄々をこねんじゃねー!』と顔面を張り倒したそうだ。
その後、借りてきた猫のように静かになってシクシクと泣いていたらしい。
それを聞いてだいぶ溜飲が下がった。
その後の調べで分かったが、やはり黒鉄は、槐に異世界から排除されるのを見逃してもらっていた。
そして槐の仲間になり、計画を邪魔する者を襲っていたのだ。
「そうだったのか……それで、九鬼班長達はどうなったんだ? 俺はどれくらい寝ていた?」
「やく三十七時間十六分……」
仕切られた反対側のカーテンから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
桔梗がカーテンを開けると、身体中包帯だらけの南天が横たわっていた。
「班長達の事は、俺から説明しよう……」
*次回、『神技と狂喜』




