この老害に怒りの鉄槌を!
◆英
白い雪が舞う曇天の空を、一羽の鷲が旋回しながら上昇する。
「芙蓉! さっき言ったとおりにしてくれ! 合図したら俺を落とすんだ!」
「怖いけど、了解! ウチを未亡人にしないでよ! ハナブー!」
芙蓉は俺を掴んだまま更に上空を目指して飛ぶ。非戦闘員の芙蓉の体力はそろそろ限界だろう。
「貴様らぁ! 戦闘中にも関わらず不為態にちちくり合いおって! ……だが、どこまで逃げられるかな? 吾輩の『空間天意』は、いつでもお前達に追いつけるぞ!」
駆逐艦の甲板で黒鉄がいきり立つ。
「俺の中に宿る十ニの穢悪よ、俺に力を貸せ! 芙蓉! 頼むッ!」
俺の全身から真っ赤な蒸気が吹き出しはじめると、芙蓉は俺を解放した。
一瞬ふわりと体が浮いたかと思うと、すぐに駆逐艦に向けて真っ逆さまに落ちてゆく。
「神風を選んだかッ! 小童ッ! その心意気に敬意を表して今一度、五十口径十二センチ砲で撃ち落としてやろうぞ!」
主砲の先が、歪みのない黒い真円に見えた。落下する俺を直線上に捉えている。風を切る音が、冷えた耳を痛めつける。
「十壱の穢悪! 柄を握る騎士!」
俺は、自分の近くに鉄甲を装備した巨大な手をひとつ出現させた。まだだ! もっとデカく! 強く! 硬くなれ!
柄を握る騎士の手に、強引に短刀を突き刺して体内の魔力を流し込む。手はみるみる大きくなり、駆逐艦とほぼ同じ大きさにまで肥大した。
ズドォォォーーーーーーンッ!!
砲撃を受けてもびくともしない。だが、その反動で俺の体は脈を打つ度、全身に激痛が走った。
「なんじゃあぁ、その手はぁ!?」
「鉄槌だ!馬鹿野郎ッッ!!」
柄を握る騎士は大きく振りかぶり、拳を握って駆逐艦を叩いた……
ドパァァァァーーーーン!!
……しかし、轟音と共に高く上がった大きな水柱の中には駆逐艦の残骸は見当たらない。
「空・間・天・意・! じゃあぁぁ〜!」
黒鉄の叫ぶ声がする方を見ると、少し離れた地点で、黒鉄を乗せた駆逐艦が俺と同じ高度に移動していた。
「ふはははは! 吾輩の勝ちであるッ! 射ぇぇーー!!」
一緒に落下しながらも俺を撃つつもりか? とんでもない執念だな。だが、まだ終わりじゃないぜ!
「握りつぶせ! 左手の柄を握る騎士!!」
駆逐艦の背面から、先ほどの右手の柄を握る騎士と同じサイズの左手が現れて艦をがっしりと掴んだ。
「なんじゃとぉぉぉー!?」
「お前がまたテレポート前に……ぶっ潰すッ!!」
バキバキバキバキッッ!!
柄を握る騎士の左手が駆逐艦を握って拉いだ。
鉄の軋む音や小規模の爆発音が空中に響く。黒鉄は、駆逐艦が柄を握る騎士の左手に完全に潰される前に、足を引き摺りながらも甲板から慌てて飛び出した。
「ハーーーナーーーブーーー!!」
芙蓉は急降下して落ちる俺を拾いに来た。再び俺の肩を掴むが、落下する力に巻き込まれる。回転しながら失速し、俺達は一緒に墜落してゆく。
「……んぎぎぃ! お、重い……!」
無茶な魔力の使い方をした俺の意識はほぼ飛びかけたが、苧環からの通信の声でなんとか踏み止どまれた。
『英ッ! 芙蓉ッ! 帰ってこい!!』
ドドォォォォォォォォーーーーーッン!
潰された駆逐艦は最後に大きく爆発し、バラバラになりながら海に堕ちてゆく。
「ハナブー! あの爺さんを掴んで! 一緒に帰還だよ!」
海面に叩きつけられる直前で落下に耐え、かろうじて体勢を立て直した芙蓉が、気絶したまま落ちる黒鉄に向かって飛ぶ。朦朧とする意識の中、俺は足を広げて黒鉄の胴体を掴むと、帰還と呟いた。
三度目の着水を免れた俺は、待望の光の渦に巻き込まれた。
*次回、『英には自覚を持って、ちゃんと反省してほしい件』




